第34話 王権乱用未遂
放課後。ロザリィ様の一声をきっかけに、さっそくわたしたちは昨晩の侵入者についての調査を始めることにした。
わたしとミナリー、ロザリィ様は件の大図書館へ。ニーナちゃんにはロザリィ様の指示で学園側の動きを探ってもらうことになった。
「わ、わたし単独行動ですか!?」
「ニーナの闇魔法は諜報活動にピッタリですもの。ニーナならきっとやり遂げられますわよ」
「うぅ~……。やれるだけやってみますけど、期待しないでくださいね?」
しぶしぶといった様子で闇魔法を使って影の中に沈んでいくニーナちゃんを見送る。
「……師匠、ニーナはあんな高等魔法いつの間に覚えたんでしょうか」
「えっ、ミナリーが教えたんじゃないの?」
ミナリーは目を伏せて首を横に振った。こと闇系統魔法に関してはニーナちゃんの才能はミナリーに比肩するかもしれない。下手したらそれ以上かも……?
学園側の、とりわけセプテンバー派の教員たちの動きに関してはニーナちゃんに任せて、わたしたちはわたしたちで侵入者の手がかりを探さないと。
さっそく大図書館に向かったわたしたちは、まず建物の周囲を一回りすることにした。
「大図書館は王立魔法学園でもとりわけ警備の厳しい建物ですわ。周囲は魔力探知を行うゴーレムが複数巡回していますし、通常であれば建物内に侵入するまでに賊は発見されているはずなのですけれど」
「巡回のゴーレムは、私たちが到着した時には全て砂に変えられていました」
「魔力を隠すマジックアイテムで魔力探知を避けて、一体ずつ破壊したのかなぁ?」
「破壊されたとすれば砂ではなく破片が散らばるはずですわ。ゴーレムとはそもそも土魔法で生み出される操り人形。それが砂に変わるということは、魔法使いからの魔力供給が途切れたことを意味しますわよ」
「だとしたら、侵入者は何らかの方法でゴーレムへの魔力供給を遮ったか……」
「もしくは、ゴーレムを作った魔法使いが意図的に魔力供給を止めたかです」
仮に後者だとしたら事態はより一層ややこしくなってしまう。何らかの事故で魔力供給が途切れたんだとしても、よりにもよってこんな侵入者に都合のいいタイミングで発生するのはあまりにも不自然だし……。
「ゴーレムを作り出した魔法使いが誰なのか調べる必要がありますわね……」
さらに建物の周囲を移動して裏手に回る。次に向かったのは昨晩わたしたちが建物内に侵入した男子トイレの窓の辺りだ。
昨晩は気づかなかったけど、このトイレからちょうど右斜め上に書庫の窓がある。どうしてわかったのかと言えば、窓の一部がシートで覆われていた。たぶん侵入者が逃げる時に割った窓じゃないかな。
「この窓は昨晩からこの状態だったということですわよね?」
「うん。窓が開いていたのに気づいたから、ここから中に入ったんだよね」
「はい。……ですが、思い返してみれば妙ですね。どうしてここの窓が開いていたんでしょうか? 割られた形跡や、外から強引に鍵を開けられた形跡がありません」
「昨晩は偶然施錠を忘れていた……なんて、納得は出来ませんわね」
薄々感じていた違和感が輪郭を帯びていくような感覚だった。ゴーレムの件しかり、施錠されていなかった窓しかり。あまりにも侵入者の都合よく事が進みすぎている。
「中に入りましょう」
わたしたちは正面入り口に回って、魔力水晶が鎮座する荘厳なエントランスホールに足を踏み入れた。そのまま二階に向かおうとしたのだけど、二階に続く階段部分が閉鎖されていて前に男性の魔法使いが立っていた。
「あ、昨日の警備の人だ」
昨日は暗くてあまりちゃんと見えなかったけど、180センチを超えていそうな高い背丈と精悍な顔立ちには見覚えがある。
「ん? 君たちは昨晩の……」
どうやら向こうもわたしたちを覚えてくれていたようで、申し訳なさそうにわたしたちに頭を下げる。
「昨晩はすまなかった。君たちが侵入者を見張っていると知っていれば声をかけたりはしなかったんだが……」
「い、いいえ! 仕方がないですよ。わたしたちも十分に怪しかったし、それがお仕事なんですから!」
「そう言ってもらえると助かるよ。……ん? そちらの方は――」
言いかけて、警備さんの顔がサァーっと青ざめる。その視線の先に居るのはロザリィ様だ。
「ろ、ロザリィ王女殿下!? ど、どうしてこのような場所に!?」
「どうしても何も、わたくしはこの学園の生徒ですわ。大図書館を利用して不自然ではないでしょう?」
「そ、それは……その通りでございますが」
警備さんはすっかり委縮した様子でロザリィ様にこうべを垂れている。
「あなた、お名前は?」
「は、はいっ。王立魔法学園警備主任のロベルト・グレンジャーと申します」
「よろしくお願いしますわ、ロベルト・グレンジャー。ところで、わたくしたち昨夜の件を調べていますの。そこを通らせて頂けないかしら? 魔導書の書庫に入りたいのですけれど」
「そ、それはなりません!」
ロザリィ様にへりくだった態度をとっていたロベルトさんが、急に血相を変えた。ロザリィ様もこの反応は予想外だったみたいで、ビクゥっと肩を震わせる。
「ど、どうしてですの?」
「こ、ここより先に許可なき者を通すなと、フロッグ教頭からの命令を受けております!」
「フロッグ教頭から? それは、王族であるわたくしもということですの?」
「恐れながら申させていただきますが、王立魔法学園の生徒であると申されたのは殿下です! ならばしかるべき手続きを行っていただきたい!」
「それは……そうですわね」
「申し訳ありません。これも職務なのです。ここで殿下をお通しすれば私は職を失ってしまうかもしれない。そうなれば、妻と生まれたばかりの娘と路頭に迷うことになってしまいます。何卒、ご理解を……」
「わ、わかりましたわ。今回は正式な手順を踏むことにいたしますわよ」
ロベルトさんの真摯な態度に、ロザリィ様も折れるしかなかった。それにしても学園の……フロッグ教頭の対応も早いなぁ。まるでわたしたちを近づけさせないよう妨害しているように感じるのは被害妄想かな……?
「昨晩の件、調査はどこまで進んでいますか?」
ロザリィ様に代わってミナリーが、ロベルトさんに質問する。
「調査は学園側で行っているから、我々も進捗はわからないんだ」
「では、警備ゴーレムが無力化されていた件については?」
「それが私にもわからないんだ。昨日のゴーレムは私が魔法で作ったものだったんだが、それが突然魔力を遮断されて動かせなくなった。それを不審に思って大図書館に向かったところ、君たちを発見したんだよ」
「そうですか……」
ミナリーはわたしと目を合わせて首を横に振った。これ以上、ロベルトさんからも有益な情報は得られなさそうだね。わたしたちはロベルトさんにお礼を伝えて、大図書館を後にした。
「困ったことになりましたわね。これでは書庫に入れませんわ」
フロッグ教頭の指示で書庫への立ち入りが制限されているとなると、わたしたちに立ち入りの許可が下りるとは思えない。書庫に入れば魔導書が盗まれたのか、仮に盗まれていたとしたらどんな魔導書が狙われたのかハッキリするんだけどなぁ。
「師匠。立ち入りを制限しているのは教頭ですよね?」
「うん。セプテンバー派だし、事情を聴かれた時の態度から考えてわたしたちに立ち入りの許可はくれないんじゃないかなぁ」
「それでは学園長はどっち派なんですか?」
「あ、そっか! アルバス先生に許可をもらえばいいんだ!」
アルバス先生とわたしとロザリィ様は旧知の仲と言っていい。なんせわたしたちに初めて魔法を教えてくれた先生だ。そのうえ、アルバス先生はお母様の先代の近衛魔王師団長で、王家とオクトーバー家との繋がりも深い。きっとわたしたちに味方してくれるはず!
「決まりですわね。さっそく学園長室へ向かいましょう」
という話になってわたしたちは学園長室へ向かったのだけど……、
「アルバス学園長が居ない!?」
わたしたちを待っていたのは、学園長が不在という知らせだった。
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