第40話 ……綴さん?

「少しは相談してくれないか」

 炬燵の問題が解決したのを見計らって、俺は席に鞄をおくなり百代にたまった文句を言った。

「何のこと?」

「掲示板」

 俺がそういうと、「ああ」と言い、決まりの悪そうな顔をするかと思ったら、誇らしげな顔をこちらに向ける。

「良いアイデアでしょう」

「なにが良いアイデアだよ。ただの悪目立ちだろ」

 お前の感覚は一般人とは違うということを教えてやりたい所だが、多分に言っても徒労に終わるだろう。

「なによ。海端さんもさっきから落ち込んでるし、そんなしょうもないこと気にしても仕方がないでしょ」

 百代は気にしないかもしれないが普通はそうじゃない。海端を見て気付かないのか。机に額がつきそうで表情が全くわからない。

「私も色々言われました……。もしかしてこの間の……とか、変に目を付けられるよとか……」

 それはそうだろう。どう考えても傍から見れば同学年の学校生活から良くも悪くも、皆なより頭一つ飛び出すだろう。

「違うわよ。他の凡人は私たちが羨ましいのよ。未知の経験を掴もうとしている私達のことが、第一人者とはそういうものよ」

 鼻息荒く胸を張る百代。一理はある、と思いたいが、実際そのように考えられる図太さは正直に羨ましくもある。

「そうさ、僕たちは特別なことをしようとしているんだ。常人には理解できないんだよ」

 いつの間にかカウンターに腰かけた炬燵が百代に賛同の意を示す。

「でさ、その巻物の効果は何かあったのか?」

 その言葉を聞いた百代はおもむろに立ち上がり昨日設置した依頼箱を持ってきた。まあ想像はしていたが中身は空だった。

「ミステリアスな雰囲気を出すために場所は書かなかったけど、目ざとい凡人が気付いて何かしらアクションがあるかとは思ったのよ……だけど何も入ってなかったわ」

 箱の底を何度も確かめては不服そうにしている。

「私が来たときは何人かここの様子を窺っている人たちはいましから、少数の人には私たちがここにいることが知られていると思いますけど」

 海端がそう言うが、あれを見て興味を持ったとしても、何かお願いしようとはなかなか思わないだろう。

まず変人たちのおふざけだと思われる見た目だし、実際に依頼をしようなど、とても勇気のいることだろう。俺だったらまず訪れないだろう。怪しいし。

「どうするんだ?依頼がなければお前のやりたいことはないんだろ」

 百代は腕を組んで唸っていたが観念したのか「仕方ないわね」というと鞄から教科書などを取りだした。

「建前上は学問向上の為の活動だから、あんたたちも分からないことが合ったら聞いてもいいわよ」

実際百代の頭脳は他の追随を許さないほどだった。やはり天才には奇人変人が多いんだなと身をもって知ることになる。 

五月の半ばに定期テストがあることから俺も海端も学習に否定的ではなかった。二人とも教科書や参考書を取り出そうとしているとき、扉が三回ノックされる音が響いた。

 突然のことに四人は思わず目を見合わせる。

 百代は俺の顔を見ると誇らしげな笑みを浮かべた。こんなに早く反応があるとは俺も思っていなかったので意外だった。

 カウンターにいた炬燵が扉の前まで行くと「今、開けて差し上げましょう」と扉の向こうの人物に声を掛けた。

「……うん?おかしいな」

 手すりを持って何やら力を入れて引いている様子だが扉が開く気配がない。その理由は炬燵以外は全員分かっているだろうが。

「炬燵、お前入ってきたときどうやったんだ?」

「……ああ!そういう事か」

 そこでようやく合点がいったようで、今度はノブを握り直し、扉を押していった

 扉を開け視線を少し下に向けるとそこには一人のかわいらしい少女が立っていた。少し驚いたような表情を浮かべていたが直ぐに平静を取り戻していた。

日焼けした黒い肌に幼いが可愛いらしい面持ちの少女だった。彼女の低い身長やまだ新品に近い状態の制服をみても年上には見えない。ということは同級生なのだろう。

「……」

「…………ん?」

 あれ、なんだろう。どこかで見た覚えがあるような気がする。それになんだかこっちをみていないか?

「すみません、少してこずりました」

俺が自身の過去の記憶を辿っていると、扉前の少女に向かって炬燵がなにやら一苦労したようなことを言っているが、苦労するような要素は全くなかったぞ。
「いえ、構いません」

 そういった少女はスタスタと部屋の中まで進むと、皆の顔を確認した後、俺の顔を一瞥した。そうして何食わぬ顔で海端の隣の椅子に腰かけた。

 百代と海端は二人そろって目を点にして彼女を見ていた。ただ我に返るのは意外にも海端だった。

「……綴さん?」

 恐らく顔見知りだったのか彼女の名前と思われることを呟いた。

「お願いがあって来た」

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