第26話 ラブレターっぽいような気がする

 翌日の朝は快晴で、昨日の図書室での出来事など、一晩寝たらどうでもよくなるような、気持ち晴れ渡る、良い朝だった。

 自転車を学校内の駐輪場に止めると、自身のクラスがある新校舎へと向かっていった。

 顔を合わせたクラスメートと軽い挨拶をすませて、自分の机に着くと鞄から教科書を出し机の引き出しに入れていく。

「……なんだこれ」

 引き出しの奥に何かあるようで教科書がうまく入らない。手を突っ込むと中から乳白色の綺麗な封筒が出てきた。

それをまた引き出しの中に戻した。気持ちが若干だが、若干なのだが、高揚している。

 周りを見回すと他のクラスメートは、窓際であるこちら側見ている者はいなく、ましてやこういう事に首を突っ込みたがる米登もまだ席についていない。

 窓側に体を向け、先程の封筒を開封していく。背中に俺の期待が表れていないか不安ではあったが。

 ラブレターっぽいような気がする。

この学校に入り特段親しい女子がいるわけでもないが、一目惚れをされた可能性がないわけでもない。顔が特段良いわけではないとの自覚はこれまでの人生で重々承知していたつもりではあるが。

 開いた封筒から一枚の便箋を取り出した。


『放課後、帰宅せずにクラスに残りなさい。かしこ 百代』


「……」

「残念だったわね」

 後ろから冷めた声が聞こえてきた。少しばかり声の調子が高い気がするが。

おそらく、その声同様に冷めた笑みを浮かべて、こちらを見る百代が容易に想像できる。

今は振り返ってはだめだ。俺の気持ちを整えないといけない。

 気持ちを完全に見透かされ、そんな恥ずかしさをとりあえず懸命に隠してみた。

 よし、大丈夫だろう。

「何のことだ?」

「顔が赤いわよ」

「……」

「ふん」と溜息を出すと百代は話を始めた。

「昨日言った通り。あなたを監視させてもらうから」

 言い訳を考えていた中、突然二度目の物騒な言葉が口から出たものだから思考がぴたっと停止してしまった。

 ただ百代の瞳は真剣さに満ちており、どちらにしろ反論できそうになかった。すこしだけ百代の会話に付き合ってやるか。まあ面白そうな会話にはなるだろう。

「監視って、何をするつもりなんだよ」

 返した俺の言葉に意外そうな表情を見せたことから、何をするかまでは決めていなかったんだろう。

「そうね。そこまでまだ考えてなかったわね」

 顎に手を当てしばらく考え込んでいたが。

「放課後までには考えておくから」

 そう話したところでクラスの扉がガラガラと開き、担任の教師が入ってきた。クラスメートが慌ただしく席に着き始める。俺と百代も会話を早々に切り上げて授業の準備を始めた。

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