第22話 図書委員
「私はここに来てからやってみたいことがあったの」
「へえ」と空返事を返した。
「まずはね、個性的でちょっと変わった能力を持った人材が私の元に集まってほしいわね」
「それから、この地球で起こった……、いやこの宇宙での摩訶不思議な事象や謎を、仲間たちと協力したり、時にはぶつかり合いながら難事件を解決していくのよ」
握りこぶしを図書室の天井につき上げながらそう力説する。図書室を訪れている生徒たちの視線がこちらに集まっている。頼むから声のボリュームを場所に合わせてくれ。
儚い希望が脳裏をよぎったが、当の百代は使い古された日本の空想的世界観を次から次へと、興奮しながら述べていく。反対に俺は顔を少し伏せ、百代の丸い直視を逃れる。
「……そうだとしたらさ、お前は何でこんなところで学校生活を送ってるんだ? その未確認生命体とやらに会いに行けばいいじゃないか」
一方的に話していた百代の奇想天外な話を少しでも助長させないよう、会話の問題点を指摘した——つもりだった。
「……」
百代の大きな丸い目が、俺の顔をまじまじと見つねてくる。不本意ながら、ちょっとだけ照れてしまい視線を窓の外に向けた。
「あの……、お話し中すいません」
突然、真横から第三者に声を掛けられた。驚いて声の主に目を向けると、眼鏡をかけた、見るからにおとなしそうな女子が立っていた。
「……」
眼鏡をかけた女子が俺と百代を交互に見ていたが、俺の方は彼女の顔に見覚えがなかった。
「……」
目の前の百代は、自身の額に指をあて、天井を見ていた。いや正確には目を瞑っているから見てはいない。
「……図書委員です」
そうだ。確か図書室に来た際、カウンターにて返却作業に追われていた姿は彼女だ。
「そう。その図書委員さんが私にどんな用事があったのかしら?」
百代は自分には何も非がないとでも、訴えるような視線を彼女に送っていた。俺の方はこの場所にはふさわしくない会話をしていた自覚はあるので、自然と視線を逸らしてしまう。
「もうすぐ利用時間が終わります」
「……」
その言葉に百代は目を丸くしている。これには何も言い訳できないだろう。
「そ、そうね。悪かったわ。それにもうそろそろ片付けようとは思っていたのよ」
慌てる百代を尻目に図書室を見渡し掛け時計を見つけた。時刻は午後十七時回るかというところだ。既に図書室には数えるほどの生徒しか残っていなかった。
「何も借りる予定がないのなら、こちらの本は片付けておきますね」
「あら、悪いわね。私たちも手伝うから」
いつの間にか俺も頭数に含まれていたようだ。仕方ないが男は俺一人だ。
俺と百代と彼女は、机に積まれた大量の本を手分けして、元の場所まで戻していった。
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