隠れたもの
るぬん
第1話 ブレンドと飲料
ラジコンが動く工程には、ギア等の多様なパーツが使われている。互いに異なるそれは個々に合わさり、様々な工程を経て、結果的には指示に沿って完成品が動く。
時代の条件によって、多様な人々が現れる。個人の要素や役割がそれぞれに衝突し、組み合わせ次第で異なる反応が起こる。
社会をラジコンだとすれば、人間はパーツになる。社会の中で生活する際に、人類はそれぞれの
それ故に、まだ誰も
ある日、
猪狩は青い部屋にいて、部屋の奥からは音が響いている。音の正体は、部屋の奥にある紫色の扉だった。彼から見た扉の様子は、何かが部屋に入ろうとしているように解釈できた。
猪狩が困惑すると、いつも夢は醒めてしまう。理由は分からないが、彼は起きると不安を感じる。それは彼にとって、常に得体の知れない感覚だった。
雨の降る夜、ある男が歩いている。
青いレインコートを羽織っているその男は、前にいる女性を尾行しているように見える。女性は、不審な様子の彼を警戒する。
この時、前にいる彼女の考えていることは一つ。それはレインコートを着た男への対策。彼女には、ストーカーの彼を撒く必要があった。
雨の降る夜から二日が経った。山奥で死体が見つかり、警察へ通報が入った。死体は青のレインコートを羽織っており、喉には刃物が刺さっている。何者かによって殺害された様子だった。
死んだ男の名前は、
久常の持つ携帯には、多くの写真がある。それは彼がストーカー行為によって得た代物であり、彼の異常性を示す物でもあった。
その中には隠し撮りされたような写真もあり、それは誰が見ても明らかに不自然だ。
しかし、その中には意図の分からない写真も一枚だけ入っていた。
廃れた田舎町では、噂が広まるのは早い。不審な男の死を、町に住む多くの人が認識していた。
そんな
「とてもビックリしたよ。まさか亡くなるなんてね。稀衣は予想してたの?」
「いや、全く。付け回してるのも怖かったけど、亡くなるのも怖いよ。まだ犯人も分かってないんでしょ?」
稀衣の周りにいるギャル風の三人も、しばらく彼女のペースに合わせて会話を続けた。
「そうみたいだね。でも、ストーカーはこれで居なくなったみたいだし、ちょっと安心じゃない?」
「うわ、アンタここの治安を知らないの?」
「あ、そうだよね。稀衣ちゃん、変なこと言っちゃってゴメンね。」
稀衣は笑いながら答えた。
「いや、構わないよ。確かに、前みたいに尾行されるよりずっといいかも。でも、まだ怖い部分も多いよね。未だに絵に描いたような暴走族がいるし、犯罪に纏わる噂もたくさん聞くからね。」
ギャル風の高校生の三人が、稀衣の周りで再び会話を続けている。
「絵に描いたよう…?」
「絵画みたいなヤンキーって事じゃないかな。自分から額に入ったり、美術館の前でタムロするようなァ…」
「ヤンキーは美術館の前で
「お友達のこと、素敵だと思うよ。"ヤンキーと美術館"って組み合わせは、私には無い発想かも。」
「いぇーい。アタシ、
「いや、それはウチが上。」
四人が会話する様子を、猪狩は教室の隅からぼんやりと眺める。鞍威市の治安が酷すぎるせいか、教室にいる彼らの感覚は麻痺していた。
そしてしばらく時間が経つうちに、
久常が亡くなってから、五年が経った。猪狩は地元の鞍威市を離れ、保険会社の仕事に就く。何気ない日常を過ごしていた彼だったが、高校の同級生から連絡が入ったことで再び鞍威へ戻ることになる。
そして、猪狩は斎場に辿り着く。そこでは、葬儀が開かれていた。亡くなった男は、彼の旧友だった。葬儀を終えると、猪狩は旧友との過去を振り返る。
亡くなった男の名前は
猪狩は鞍威という場所を見限っていたが、伊側には不思議な可能性を感じていた。
伊側は貧しい家庭で育った。生計を立てるために、彼はあらゆる仕事をした。その中には一般的な仕事もあれば、人に言えないような仕事もある。
同じ鞍威市でも、二人の周囲に取り巻く環境は大きく異なる。比較的裕福なエリアで育った猪狩に対し、伊側の家があるエリアは激しく退廃している。
鞍威市は人を狂わせる。そういう場所だった。
しかし、伊側は鞍威市の人間でも、その魂には溢れんばかりの活力を持つ。どんなに絶望的でも、彼の精神は必ず夢の世界に存在した。
猪狩は、伊側と仲良くなるまでの細かい経緯を思い出せずにいる。だが、それ程二人には慣れ親しんだ絆や友情があり、シームレスな関係でもあった。
伊側は喉を切って亡くなった。そして、亡くなったのは彼だけではない。
彼を追うように、鞍威市では死者が増え始める。また、他者も同じく被害者は全員喉を切られていた。
猪狩が戻ると、鞍威市の止まっていた時は再び動き出す。
彼に与えられた役割、それは鞍威市で旧友の死を調査する事。
そして、その工程はラジコンと変わらない。そのため、猪狩が一人で真相を知ることは無い。彼がそれを知るには、まだ
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