四章 難解!?シスターズ・ミステリー!!
第20話『私とお友達になってくれませんかっ……?』
四章 難解⁉ シスターズ・ミステリー‼
昨日は俺にしては珍しく朝から出かけていたため、毎週日曜朝八時三〇分から放映されている女児向けアニメ『カラフルレボリューション☆ピュアキュア!』のリアルタイム視聴を逃してしまった。そのせいで昨日の帰りにツイッターでネタバレを見てしまいまじで萎えた。
しかもそのネタバレというのが、俺たち――大きいお友達からしたらかなりショッキングな内容で。作中でも屈指の人気キャラである『ピュアイノセント』こと
実際に録画を確認するまで信じられず、昨日家に帰って事実確認が取れた後はあまりのショックに体は疲れてヘトヘトなのに一睡もできなかった。
気付けばもう学校に行く時間だ。
なんとか制服に着替え、俺は買い溜めしていたエナジードリンクをキメてから自転車に跨る。
きっと葉山先生も相当落ち込んでいるだろうし、前のことは水に流して
そう思って、俺は自転車を漕ぎだした。
◆
朝のホームルームに葉山先生は現れなかった。
とはいえ、授業の準備で忙しいときはホームルームがないことだってあるし。さっき全校集会のときにはいたからショックで寝込んでいるというわけではなさそうだ。
だが、今日は時間割に数学がなかったため、先生と会えないまま昼休みになってしまった。
購買で昼飯を
顔を上げると、そこにいたのは
桜庭は長い黒髪を耳に掛け、声を掛けてくる。
「小森君、お一人ですか?」
「え、ああ。まぁな」
「あの、良かったらご一緒してもいいですか? 私も一人なんです」
「別にいいけど、なんで俺? 桜庭なら一緒に食うヤツなんて腐るほどいるだろ」
「残念ながらいないので小森君をお誘いしたんですけど……」
その言い方だと、『俺とご一緒するのはものすごく残念なこと』というふうに聞こえてしまうのだが、それは俺が卑屈だからか。うん、多分そうだな。
桜庭は「残念ながらいない」と言っているが、そんなはずはない。なにせコイツを慕うヤツは多い。一緒に昼飯を囲いたいと思っているヤツは腐るほどいるはずだ。
おそらく、『中庭でボッチ飯している哀れな顔見知りがいるから一緒に食べてやろう』という桜庭なりの優しさなのだろう。だけど別に気にすることはない。
「俺のことなら別に気にしなくていいよ。好きで一人でいるから。それより友達のところに行ってあげてよ。待ってるんじゃない?」
「え、えっと……。私、一人も友達いないんですけど」
「いや、そんなはずないだろ」
「そんなはずあるんですよ……。特に嫌われるようなことをした覚えはないんですけど、なぜか周りの人から避けられているみたいで」
「あー、なるほど……」と、桜庭の友達ゼロ人発言の真相に気が付いてしまった。
厳密に言うと、桜庭が周囲の人間に嫌われているというのは本人の勘違いだ。だが、周りに避けられているというのは案外間違いではないのかもしれない。
こんなボッチ風情が
俺は桜庭の身の上を知ってようやく慣れてきたが、周囲の人間からしたらあらゆる才能に恵まれている桜庭はやはり遠い存在のように見えてしまうのだろう。
そのことに本人は気付いていないようだった。
案外、不器用なのかもしれない。
「えーっと。なんて言うか、桜庭は別に嫌われてなんかないよ。ただ、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるだけでさ」
「……小森君は優しいですね」
俺の言葉を聞いて、桜庭は穏やかな笑みでそう言った。
いや、絶対わかってないな……。
説明するのがめんどくさいから訂正もしないけど。
桜庭は俺の隣にちょこんと腰を下ろし、小さな弁当箱を開ける。弁当箱の中にはミニサイズのおにぎりが二つと卵焼き、ウインナー、他にもレタスやトマトなどで綺麗に彩られていた。
「それ手作りなのか?」
「はい。弟と妹のお弁当を作るので、余ったものを入れただけですけど」
「へぇー」と、思わず感嘆していると、ちらと桜庭がこちらに視線を向けてきた。
その視線の先には俺が食べていた
「小森君のお昼ごはんはそれだけですか?」
「あー、ちょっとでかい出費があったから金欠なんだ……」
「よ、良かったら食べますか?」
「いや、いいよ。そんなつもりで褒めたわけじゃないし」
なんだかねだるために褒めたみたいで気が引けた。それに、こんな小さな弁当から分けてもらうのも申し訳ない。
だが、そんな気持ちとは裏腹に。中途半端に腹にものを入れたせいで、腹の虫がグルグルと音を立てた。オー、バッドタイミング……。
桜庭は苦笑いを浮かべながらスペードの爪楊枝が刺さった肉団子を差し出してくる。
「実は、朝ごはんをいっぱい食べすぎてお弁当を全部食べ切れるか心配だったんです。良かったら少し手伝ってくれませんか?」
「んー、まあそういうことなら……」
俺が頷くと、桜庭が口許に肉団子を寄せてくる。
アニメや漫画で見たことあるぞ、これ……。いわゆるアーン、というヤツだ⁉
「ちょ、自分で食べられ――んぐっ」
そのまま口の中に突っ込まれた。
瞬間。口内に米が欲しくなるような甘ダレが広がり、ゴマの風味が抜けていく。肉団子に歯を立てると肉厚な弾力があり、小さいながらにかなり食べ応えがあった。
てっきり冷凍食品だと思っていたけど、これは手作りのクオリティーだ。
「ウマッ⁉ こんな美味いの食ったらもうコンビニ弁当なんて食えなくなるな」
「大げさですよ。最近のコンビニ弁当はどれも美味しいですし」
「そうだけど、これは次元が違うよ!」
素直な感想を伝えると、桜庭は返答の代わりに爪楊枝で卵焼きをぶっ刺して差し出してくる。
なにげにまた食べさせられてしまった。なんか餌付けされているような気分だ……。
「お、この卵焼きも美味いな!」
「甘い味付けですけど、大丈夫でしたか?」
「ああ。我が家の卵焼きなんかよりよっぽど美味い」
我が小森家の卵焼きも甘い味付けだったが、母さんが作る卵焼きはまだしも姉の作るアレはほとんど砂糖菓子だったからな……。
それに比べ、桜庭の作った卵焼きは素材の味も感じられてまるで別物だ。多分小さいきょうだいがいるから甘い味付けにしているんだろうけど、ちゃんとおかずとして成立している。
前に妹代行サービスで作ってくれた肉じゃがも美味かったし、マジで料理上手だな。
久々に口にしたちゃんとした食事に
「小森君は本当に美味しそうに食べてくれますよね」
「まあ実際に美味いからな」
「そうやって喜んでもらえると作った甲斐がありました」
そう言って、桜庭は膝の上で頬杖をつきながら微笑みかけてきた。
もしかしたら、今までは遠くで眺めているだけだったからわからなかっただけで、本来の彼女は表情が豊かなのかもしれない。そう思うほど、魅力的な笑顔だった。
そのあともお弁当を恵んでいただき、二人ですべて完食した。
「ごちそうさまでした。ありがと、めっちゃ美味しかったよ」
「いえ、こちらこそありがとうございます。美味しそうに食べてもらえて嬉しかったです。良かったら、今度から小森君の分も作ってきましょうか? 小森君、少し不健康そうですし」
「いや、さすがにそれは悪いよ。俺の弁当を作るくらいなら睡眠時間を増やしてくれ」
「いつも四人分作るので、たいした手間にはならないですよ?」
「でも俺にできる見返りなんてないしさ」
「じゃ、じゃあ……」
ふいに桜庭の表情が硬くなる。膝の上に置いた手をにぎにぎしたり、内股をこすり合わせたりと、どこか落ち着きがない様子だ。
そんな姿に思わずドキッとしてしまう。よく考えれば今、すごい状況なんじゃないか? 女子からお弁当を作ってあげると言われ、その見返りに一体なにをお願いされちゃうの⁉
ふと、桜庭が意を決したように顔を上げた。
「――良かったら、私とお友達になってくれませんかっ……?」
一瞬、思考が硬直してしまった。え、それが見返り? いや、だって『付き合ってほしいの!』とまではいかなくても、デートのお誘いとかそういう流れだったじゃん?
俺は頬を引きつらせながら必死に愛想笑いを浮かべる。
「あー、うん。友達、友達ね……。うん、もちろん。ぜひよろしく……」
ほとんど俺が悪いけど、なんともぎこちない親交の結び方だった。
それにしても、まさか初めての友達がクラスの高嶺の花になるとは思ってもみなかった。
これ騙されてないよな? 急に校舎の陰からチャラい連中が出てきて爆笑されたりしない?
まだほんのり頬を赤くしている桜庭と視線がかち合って、思わずそらしてしまった。
そのとき、偶然視線をそらした先に見知った後ろ姿をとらえる。遠巻きからでもはっきりと葉山先生だとわかった。
まだ昼だと言うのに葉山先生はビジネスバッグを片手に校舎裏の駐車場へと歩いていく。昼休みも半分を過ぎた今から外食というには無理がある。それに、先生はいつも職員室でソシャゲのクエストを周回しながら一人寂しくコンビニ弁当を食べているはずだし。
――その後。先生の様子が気になって職員室を訪ねると、暇そうにゴルフのパター練習をしていた教頭が、葉山先生は体調不良で早退したと教えてくれた。
やっぱり、ピュアイノセントのことでかなり精神的にきているのかもしれない。
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