第46話:チョロフ

 エルフがこの集落に来て2日目。

 うん、まだいる。

 昨日、集落から追い出そうとしたが……


「ロードに信頼を得られるよう、粉骨砕身頑張るつもりです」


 何を言っているのかが分からない。

 そもそも、俺はエルフロードではない。


「私たちは、刺激を求めて集落を飛び出したもので。冒険者に習って4人でパーティを組んでいたのですが」


 襲い掛かってきたハンターは手練ればかり20人。

 大型の魔物を捕まえに来たハンターに、運悪く見つかったとのこと。

 同じ人数相手なら、負けるはずはないと言っていたが。

 いや、そのハンターを追い返したの、ゴブエモン達3人らしいけど。


「……」


 俺の言葉に、4人が黙り込んでしまったが。

 どうやら、この村は彼等にとって色々と刺激が多かったらしい。

 気になるものが、泊めてもらった家だけでも沢山。

 村の中の設備やら景観も初めて見るものが多く、また持ち帰れそうな技術も見られるらしい。

 真剣な眼差しでここに滞在して、いろいろと学びたいと言ってたけど。


「それに知恵の探究者の代名詞たるアスマ様が、この地にはあらせますし」


 アスマさん色々な二つ名持ってんなー。

 ただの、こじらせ骸骨だと思うんだけど。

 

 だったら、ここにいいるのはなおさらお勧めできないかな。

 きっと、幻滅する。


 ちなみにゴブエモン達の話だと、見たところ人種は彼我の力の差を図るのが苦手っぽいとか。

 アスマさん曰く獣人はそういった部分に長けているようだけど、相手が自分より強者でも喜々として襲い掛かってくるものが一定数いるとか。

 獣人迷惑だなー。


 でもじゃあ、俺の前で腹を出しているこの犬耳の女性は?


「流石に、あまりに力量差があるとな」


 そう言って、カッカッカと笑っていた。


 この犬耳女性も、ゴブエモンが拾ってきた。

 昨日のハンターたちがまだ居たらしくて、仕方なく追い払ったらこの子が最後まで抵抗していたらしい。


「普段は大型魔獣専門なのですが、たまたま依頼主が同行してまして……」


 それで目の前のエルフに目が眩んで、確保するように指示されたらしい。

 どうりで積極性が感じられなかったとは、ゴブエモンの言葉。

 逃げることを期待していたようだけど、エルフ達がプライドを刺激されて果敢に挑みかかっていたとか。


 どっちかっていうと、エルフが一番迷惑だな。

 やっぱり野蛮だこいつら。


「わ……私たちだって、だてに100年も研鑽を積んできたわけじゃありません! それをたかだか20~30年程度しか鍛えてない人間どもが」


 その結果がこれなんだけど?


 ちなみに、今回のハンターの目的はゴブエモン達とのこと。

 一風変わったゴブリンに、きっとユニーク種に違いないと依頼主がはっちゃけた。


 その依頼主、殺してもいいんじゃないかな?


「私も、全力で支持いたします」


 とは、犬耳女性の言葉。

 悪い顔してる。

 よほどに、フラストレーションが溜まっていたらしい。


 仕方ないから、エルフの世話はアスマさんの下についている、ゴブリン長老に……

 あっ、寝泊まりは今のまま?

 さっそく、ほだされたのかな?

 うちのゴブリン達、やり手だな。


「まだ、身体は許してませんから!」


 時間の問題だと思う。


「その……なんていうか、雌ゴブリンの仕草なのにあざといというか……」

「オスのゴブリンも、こう的確に女ごころを揺すってくるというか……」


 その辺は、一生懸命勉強してるもんな。

 女性陣はあざといという概念をしっかりと、男性陣はロマンチックな演出を重点的に。

 意識をしっかりと持たないと……


「特にあの、風呂上りに髪を結わえるときに口にゴムを咥える姿とか、手で後ろ髪をあげた時に見えるうなじとか……」


 時間の問題だなー……


「たとえロードが歓迎されずとも……いや、この村の皆が貴女を歓迎しなくとも、私だけは貴女を心から歓迎いたします。この出会いを、貴女は不幸な偶然だと思われていることでしょう……でも、私は幸福のための必然だと信じたい。なんて目を見て言われちゃったらねぇ」


 手遅れかもしれない。


 ちょっと離れた場所にいるイケゴブを、うっとりとした目で見ているミーシャを見て溜息を吐く。

 オットーは……


 だめだな。

 本人にはなんてことない顔をしているが、目でしっかりと昨日連れて行ったビジョゴブを追っている。

 もしかして、うちのゴブリン達ってチャームが使えたり……


 しないのね。

 しないよね。

 ステータスで確認したけど、そんなスキル名ないもんね。


 最後の砦……と思われた女エルフは、流石だな。

 完全に無表情で、俺だけを見てここに住みたいと訴えている。

 

 あっ、昨日連れて行ったイケゴブが近づいてきてるけど。


「なっ、なに?」


 真剣な眼差しのイケゴブに近寄られて、女エルフが後ずさりしている。

 そして、壁に追い詰められて。


「俺以外の男を、見てんじゃねーよ!」


 壁ドンかー……

 強めの口調と、迫力のある表情。


「お前は、俺だけを見てたらいいんだよ」


 からの、優しい声と柔らかな笑顔。

 女エルフの髪の毛を指ですくって、顔が見えやすくするオプション付き。


「……はい」


 顔真っ赤。

 意味違うけど。


 落ちちゃったなー。

 早すぎやしないかな、君たち。

 まあ、本人が望むなら俺は何も言わない。


 でも最後のイケゴブに言いたい。

 俺を出汁にするのは、どうかと思うぞ?


 茶目っ気のある笑顔でウィンクしながら、片手で謝っているけど。

 俺に色目を使ってどうする。

 お前らが、緑のハゲ猿だった頃からの付き合いだ。

 全然、効果ないからな。


 あと、アスマさんが満足げに頷いているけど。

 余計なことを教えないでくれるかな?

 

「失礼な! あれは、黒狼様がこの間の宴会で手ずからゴブリン達に教授なされた技術だ!」


 合コン連敗中の狼のアドバイスなんか、なんの役にも立たないと思うんだけど。

 実際には立ってたな。

 ただ、狼の壁ドンは捕食まったなしじゃないかな?

 そのまま首筋に噛みつかれて、美味しく頂かれる未来しか想像できない。


 あと、ミレーネ。

 壁にもたれかかって、期待した目で俺を見ているけど。

 俺には無理だぞ?

 とてもじゃないけど、恥ずかしくてできないし。

 あれは、かっこイケメンに限るってやつだ。


「サトウもかっこいいぞ!」


 いや、まあそれは自覚している。

 器量を伸ばしてしまったから。

 ちょっと増やしただけで自分の顔と思えなくなったので、最初の一回だけだけど。

 その時は、俺も緑色の猿の仲間入りしたと思っていたからな。

 

 しかしまあ、恥ずかしげもなく褒めてくれる。


「あー! ロードが、顔真っ赤っす! 怒ったんすか?」


 キノコマルは進化しても、器量伸ばしても相変わらずでほっこりするな。

 うんうん、こうやって気楽に話掛けてくれるのも嫌いじゃないぞー。

 だからなキノコマル……ちょっと一発本気で殴らせろ!


「なんすかもー! パワハラっすよー!」


 あっさりと、かわされてしまった。

 あと誰だ?

 キノコマルに余計な言葉を教えたのは。


 アスマさんが、目の前で思いっきり手を横に振っているけど。

 これも、ジャッキーさんか。

 畏怖してるわりには、あっさりと売るんだな。


 うん、次ジャッキーさんに会ったら断固抗議させてもらおう。

 パワハラの定義に則ると、キノコマルに対する肉体的指導は業務の範囲内だと。


「避けるな!」

「いやっすよー! 当たったら、めっちゃ痛いっすから」


 当たらないから、余計に腹が立つ。

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