第44話:実験

「そーれ! そーれ!」


 村の中心から大きな掛け声が聞こえてくる。

 いまやっているのは綱引き。 

 31人で。


 なぜ奇数なのかというと……


 俺対、進化ゴブリン30人での綱引き。

 1対30だ。


 ちなみに、現在綱はぴくりとも動いていない。

 というか、ワイヤーだけど。

 綱でやったら、途中で切れてけが人がでてしまった。

 ゴブリン側に。


 俺はさして踏ん張ってもいなかったので、なんともなかったけど。


 で、ワイヤーを使って仕切り直し。


「本当に出鱈目っすねー」


 キノコマルが何か言ってるが、気にしない。

 とりあえず、片手で思いっきり引っ張る。

 

「うわわあ」

「わあああああ」


 これ、接待……されてないよね?


「本気でやってる?」


 俺の一言に、対戦相手の30人から怒気が立ち上る。

 本気だったのかな?


「もっと、呼んで来い!」

「このままじゃ、終われん」


 気が付けば50対1。

 うーん……


「本気でやってる?」


 今度は全員が両手両膝をついて項垂れた。

 満身創痍だ。

 俺が接待すべきだったかな?


「本当に本気を出したら、どれほどの馬鹿力なんじゃお主は……」


 このワイヤー引きちぎれたりして。

 流石に無理かなー。


「あっ……」


 思いっきり両側に引っ張ったら、ブチブチっという音が聞こえたので途中でやめた。

 ゴブリン達がドン引きしている。


「50対1の綱引きに耐えられた綱が……」


 たぶん、いままでの引っ張り合いですでにダメージを負ってたんじゃないかな?

 綱引きの途中じゃなくてよかった。

 洒落じゃすまないけが人が出るところだったなー。


 ここは安心するところだろ?

 そんな微妙な目でみなくても。

 どんよりとした100個の目って、意外と圧が凄いんだぞー!


***

 ジャッキーさんに相談。


「だったら、弱体化の魔法を自身に掛けたらどうですか?」


 なるほど……そんなこと、できるの?

 そっち方面の耐性、かなり育ててるけど。


「あー……じゃあ、まずは耐性を剥がす魔法から」


 その魔法の耐性も万全。


「……全ての耐性を解除する魔法を」


 もちろん、対策済み。


「……詰んでますね」


 詰んでるとか言わないで、一緒に考えてほしい。

 

「というか、魔王とか目指してます?」

「魔王ならこないだあったけど、あれはやりたくないかなー」


 魔王ってなんか、大変そうだし。

 そもそも魔族でもない俺が、魔族の王なんて無理無理。

 支持率0%で、秒で政権崩壊だな。


「力こそ全ての人達ですよ」


 脳筋の集まりかー。

 賢そうなイメージあったのに。


「いえ、魔力や知識等含めて才あるものこそ正義という、国民性です」


 なるほど。

 でも、やりたくないなー。


「ちなみに、私が言ってる魔王ってのはゲームのラスボス系の方ですよ? 基本、デバフ無効で物理も魔法も馬鹿げたダメージを与えてくる方の」

「俺の知ってる魔王は、眠るけどね」

「……特殊な例を持ち出さないでください」


 ジャッキーさんが諦めて会社に戻って2時間後。


「できましたよ! ステータス確認してください」


 ステータスを確認すると、スキルのところにNEWの文字が。

 見ると、全耐性絶対貫通膂力魔力割合自在変動付与スキル。

 長いスキル名だなー……


「マジーン様に特別に作ってもらいました。サトウさん専用スキルですよ」


 とりあえず、無料でくれるらしい。

 さっそく習得。

 で、ジャッキーさんに。


「ちょっとー! 何してくれてるんですか!」


 割合を一厘にまで減らしたら、地面にペタンと伏せてた。

 すぐに解除する。

 

「へえ、本当に凄いスキル……あれ? ジャッキーさーん?」


 ジャッキーさんが消えた。

 と思ったら、数分で息を切らして戻ってきた。


「人に向けて使えないようにしてもらいました」


 なんだ、無敵のスキルゲットだと思ったのに。

 まあ、別に人に向けて使う気は無かったけど。


「真っ先に私に打っておいて、何を!」


 いや、神に効くなら間違いないかなと。

 自分で実験するの、ちょっと怖くて。


「あなたは、神をなんだと思ってるんですか!」

「上司?」

「上司をなんだと思ってるんですか!」


 そりゃあれだ……責任を押し付けて、手柄を横取りする……


「酷い上司ですね……私は、そんなことしたことないでしょう!」


 まあ、そうだけど。

 人に働かせておいて、合コン三昧なのはいかがなものかと……


「それを言われると、ちょっと痛いところではありますが……」


 ちょっとだけスッとしたので、改めて自分に。

 おお、凄い!

 綱引きで使ったワイヤーで、指でブチブチ切れる。


「な……何を?」

「割合を10割増しにしてみました。いや、変動って書いてあったから」


 盛大に溜息を吐かれた。

 で一応、色々と調整して3分くらいまでに抑えると、不意に力が入ってもガラスのコップが砕けるてい……2分で調整しておいた。


 まあ、ステータスの方はこれ以上増やすつもりもないし。

 て、もしかしなくても人の町に行っても安全なんじゃないかな?

 護衛にゴブ美と……あとは、ジニーを連れて行ったら。


「問題ないとは思いますが」


 そっか、もしかしたら観光が出来るってことか。

 うん、ようやく異世界の町を見られるんだな。


「ある程度、覚悟はしておいてください」


 ん?


「中世風の文明度ですから……まあ、魔法のお陰である程度は衛生面はマシですけど、路地裏には入らないようにお勧めします。それと、民家と民家の間の狭い通りも歩かない方がいいですよ」


 なんだろう。

 スラムとかで治安が悪いのかな?

 でも、いまさら追いはぎやチンピラに絡まれたところで。


「上から降ってきますよ……その、人の排泄物とか」


 あっ、全然町に行きたくなくなった。

 ここの方がマシなのかな?


 ジャッキーさんが全力で首を縦に振るってる。

 マジかー……


「大丈夫ですよ! 大通りとか、表通りなら普通に綺麗ですから」


 なんの慰めにもなってないと思うけど。



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