第40話:帰還
「ただいま、戻りましたー!」
元気よく挨拶をしてきた男性。
レンジャーのギイだ。
本当に、元気のいい溌溂とした声。
無理してないといいが。
「えっと……」
俺はギイを無言で抱き締めて、背中をポンポンと叩いてやった。
ここに戻ってきたということは、そういうことだろう。
……お前汗臭いな。
先に、風呂入って来い。
ガードとサーシャも。
俺の言葉に、サーシャがショックを受けたような表情をしているが。
お前たちは鼻が慣れてしまっているのだろうが、割とあれだぞ?
3人で、共同浴場へと向かっていったが。
サーシャがどんよりとした雰囲気で戻ってきた。
この3人、前にこの集落で捕虜になっていた冒険者だ。
そして、ジニーの仲間でもある。
「改めてお帰り……ところでなんで戻ってきたんだ?」
俺の言葉に、3人ともショックを受けているが。
ここ、ゴブリンの集落だぞ?
人の住む場所ではないのだが。
「他にも、人を増やしておいてそれはないでしょう」
ガードが呆れた様子で、首を横に振っているが。
せっかく帰れたのに。
「もう、人と暮らせない身体にしておいて、なんて無責任な」
その言い方は色々と語弊がある。
事情を知らないミレーネが凄い顔でこっちを見ているから、悪ふざけはやめなさい。
「ここに戻ってきた時点で、分かるでしょう……真っ先に察してくれたくせに」
ギイに関しては何も言えない。
例の渡り鳥の彼女に、振られたのだろう。
「それよりも、まずはこの場所の事を漏らしてしまい申し訳ありません」
「あのあと、軍が送り込まれたと聞いたのですが……大丈夫そうですね」
ギイがいきなり頭を下げてきたが。
あー、それね。
サーシャも集落の様子を見て、ホッと胸をなでおろしているが。
うん。
ガードもすぐに気付いていたらしく、サーシャの脇腹を肘でつついていたが。
そして俺の横では……なぜかすぐ真横に立っているミレーネが微妙な表情を浮かべているが。
そのミレーネを見て、ギイとサーシャが固まる。
そして気まずそうな表情。
「いや、気にするな。お前たちの忠告を無視した結果がこれだ……私も人の国に戻れるような身体ではなくなってしまった」
俺に腕を絡ませようとするな。
サーシャの周りの空気が、少し冷たくなってる気がする。
「色男は辛いですね」
ギイがひがんでいるが、俺は平凡な容姿……そういえば、こっちの世界で器量をいじって若干イケメンになってるんだった。
しかし、見た目だけで……
「わ……私はもうサトウさん以外の作った物は食べられそうもありません」
「私は、最近毎日食べているぞ?」
ああ……
胃袋の方ね。
「それを言ったら、俺もだな」
「ああ、俺もだ」
……大半が調味料の力ではあるが。
そこまで言われてしまったら、仕方ない。
チョロいと言われようが、気にしない。
遠慮せずに食うがいい。
ただ……あれだ。
菓子類は、イッヌに作らせた。
俺以外にも、美味しい物を作れる人がいることを教えるためにも。
「美味しいです!」
「サトウさん、町にお店を出す気はないですか? ゲイルとグレンからかなりひがまれてまして」
「あいつらは、嫁さんの作った美味しい飯でも食ってたらいいんじゃないか?」
結婚組からひがまれたと言われてもな。
ガードがそんなことを言っていたが、その横でギイが闇落ちしているぞ?
***
「それじゃあ、戻りますね」
そう言ってジニーが3人と一緒に家に帰っていったが。
その足取りは軽い。
なんだかんだで、寂しかったのだろう。
そして、やけにミレーネがベタベタしてくる。
「また酔ってるのか?」
「むう……」
俺の言葉に、ミレーネが頬を膨らませているが。
こんなのでも、どこぞの国のお姫様だからな。
なんとも、残念な世界だ。
ちなみに3人とも、アスマさんとの再会も喜んでいた。
それにゴブリン達との再会も。
エドとシドを紹介したが、驚いていたな。
ドワーフが技術指導員として、ここに来ていることに。
竜の鱗が対価だといったら、余計に驚かれた。
そのエドとシドだが、今はこの竜の鱗で酒を目いっぱい用意してくれと俺に交渉に来ている。
ただ、竜の鱗を地球でジャッキーさんに換金してもらう訳にはいかないし。
竜の鱗の価値が分からないので、手元にある酒を渡してごまかしてはいるが。
その鱗の持ち主である火竜が先日までいたと教えたら、残念がっていた。
冒険者にとって、竜はロマンらしい。
竜の鱗を素材として作った防具を持つことが、冒険者のステータスだのなんだと言われたが。
砕けたり割れた鱗ならあるぞ?
「手持ちじゃとてもじゃないですが、支払えません」
この世界の貨幣価値が分からないから、何とも言えないが。
簡単に手に入る気もするし。
まあ、色々と今後のことも考えて残してはいるけど……
知り合いの皮膚だと思うと、ちょっと気持ち悪い。
次の日は3人を連れて、改めてあいさつ回り。
イッヌは、普通に挨拶をしあっていたが。
カマセ子爵家の子息だと伝えたら、3人が慌てて平伏しようとしてた。
それを押しとどめたのイッヌ本人。
「今は、この集落のただの新参者ですよ。お菓子作り以外では、あまり役に立ててませんが」
謙遜まで……
本当に変わったと思う。
役に立ててないことはないぞ!
他の事でも、微妙に役に立ってるぞ!
そのあれだ……いないよりはいてくれた方が良い程度には。
うん……笑顔でお礼を言ってくれたが。
余計なことを言ったかもしれない。
ただ、やる気はあるみたいだ。
「ミレーネだ」
ミスト王国第三王女とは自己紹介しないのね。
フルネームでも。
「ふん……王族の恥となった私が、家名を名乗るわけにはいくまい……いずれは、サトウと名乗るつもりではあるが」
ちょっと、何言ってるか分からない。
あと急に偉そうだな。
こういう姿を見ると王族だなと、改めて感心する。
「照れるではないか」
すぐに
今度こそ3人が平伏している。
「ミ……ミレーネ殿下におかれましては「よい。もはや、ユベンタークの家名は捨てた」」
ギイの挨拶をミレーネが手を振って、制止しているが。
それなら、もう少し態度を軟化できないのかと思わなくはない。
何がしたいのか、よく分からないのだが。
「サトウさんの前で良いところを見せたいんですよ、きっと」
ジニーが耳打ちしてくれた。
割と大きな声だな。
耳打ちの意味がない。
ミレーネが睨んでいるぞ?
「俺は最近のミレーネの方が好きだが」
ちょっと、とっつきにくい印象を受けるし。
「身分のことなんか気にしなくていいよ! うん、皆で仲よくしよう」
急に気安くなったな。
でも、最近でもそこまで気安くはなかったと思うぞー?
流石に色々と感づいてしまったが、気付いていないことにしておこう。
鈍感系ってことで、乗り切れないかな?
ミレーネがどうこうってわけじゃないけど。
ちょっと、居候として同居させてるからな。
問題が起こると、後々気まずいだろうし。
盛大に舌打ちをされたが。
お姫さまって舌打ちするんだな。
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