第24話:タワーディフェンス後編
外壁の上から投げた石が、もののみごとにすべてお姫さんの背中を直撃。
相変わらず、命中精度えげつない。
小石だから、カンカンと音を立てて弾かれてたけど。
「くっ! 後ろからとは卑怯な!」
お姫さんがすぐに振り返って、剣を抜いた。
うーん、分かってないなー。
色々な意味で。
「上か! ちっ、なんて数だ」
後ろをキョロキョロと見まわして、外壁の上のゴブリンに気付くまでに数秒。
この間に攻撃を掛けられまくったら、何回死んだんだろう。
そして、小石とはいえ背中に攻撃が直撃したことの意味も分かって無さそうだ。
まだまだ、声に勢いがある。
普通は、小石で良かったと青くなりそうなものだが。
あとは、自分の油断を恥じたりとか。
「いやいや、今のは警告だからな? これが先の尖ったものとか、魔法ならお前は死んでたからな?」
姿を見せずに大きな声で呼びかけると、お姫さんが首を傾げている。
そもそも大きな問題として、俺の見た目って人とあんま変わらないんだよね。
だから矢面に立って交渉もできなくはなさそうだけど、集落の中を見せろと言われたら困るからやらない。
面倒くさいし。
姫さんの背後の騎士たちが、ゴブリンが人の言葉を喋ってるぞってざわついてるけど。
「……魔法だと? 笑わせる! ゴブリン風情が魔法を使うわけがひっ!」
本当に馬鹿だと思う。
そういう先入観で、いまだに無警戒で一人で突出してるの。
普通、背中を攻撃された時点で、盾で防御を固めつつ部隊に戻ると思うんだけど。
もしくは部下が前に出て来て、隊長をかばうはずなんだけど。
やっぱりそうなんだろうなと、ちょっと可哀そうな気持ちに。
だから強めの警告として、爆発が派手なファイア~ボ~ルを周囲に数発落とす。
女性らしい悲鳴をあげて、ようやく後ろに下がった。
そして同じ距離だけ、部下も後ろに。
……本当に本当に馬鹿なのかな?
お姫さんも、何も思わないのかな?
「た、ただのゴブリンじゃないぞ!」
「殿下、それこそ、好都合です! 今こそ我らの武勇を示す時です!」
「そ……そうか?」
慌てた様子で騎士たちに助けを求めようとするお姫さんを、部下の男がバッサリと切り捨てる。
いやいや、想定外のことが起きたなら撤退も視野に、威力偵察のために一当てして判断したりとか。
てか、お姫さん頭軽すぎるだろう。
そりゃ後継者争いの神輿として担がれてたとしても仕方ない。
神輿は軽い方がいいからな。
でも、もういいや。
「お前ら外壁の上に立って、総攻撃だ! 殺傷能力低めの魔法と、砕けやすい石を投げまくれ!」
「はっ!」
俺の指示に、全員が外壁の上で立ち上がる。
そして、投擲部隊と魔法部隊で斉射。
「うわぁ!」
「馬鹿な! こいつら、こなれてるぞ!」
「くそっ、攻撃が地味すぎる。遊ばれてるのか?」
スゴイナー。
訓練されたはずの部隊が、一瞬で取り乱して瓦解した。
周囲の状況についていけずに、隊長のお嬢さんが右往左往してるのが笑える。
アスマさんがジトっとした目で、こっちを見てくる。
ふふ、眼窩の中にあるのは、不気味な昏く揺れる光なのに視線の意味がひしひしと伝わってくるの凄い。
俺にも、精神攻撃仕掛けてる?
睨まれてしまった。
器用な骸骨だ。
まあ、精神攻撃は相手側にお願いしたんだけどね。
俺が。
アスマさん、ナイスアシスト。
とりあえず、背中を叩いて褒めておく。
骨だから、固い。
「お主、強いくせに卑怯じゃのう」
「堅実なんだよ。万が一すらあったら困る。こっちは総数に限りがあるから、減らすわけにはいかないからな」
大きなため息が返ってきた。
ちなみにアスマさんには、精神に揺さぶりをかける魔法を全体に薄く広く掛けてもらったけど。
効果絶大。
集団パニック状態に陥った一個小隊なんか、素人の烏合の衆と大差ない……はず。
素人の烏合の衆とも、パニックの騎士とも戦ったことないから。
それに戦術とか戦略とかよくわからない。
けど、成功したことだけは分かる。
だって隊列から離れていく騎士も、チラホラといるし。
「しかも、精神支配等ではなく、本能的に怯えさせるよう仕向けるとは。確かにわしにとっても、魔力の節約が出来て効率的ではあるが」
「俺もこんなに効果があってびっくり。凄いんだなエルダーリッチって」
「……」
「目標が孤立したな、よしゴブエモン! 行け! あのお嬢ちゃんを確保してこい!」
「はっ!」
無言の視線が痛かったので、急いで現場の方に視線を移してゴブエモンに指示。
姫さんには当てないように、かつ周囲に多めに攻撃を仕掛けているから徐々に周りから人が離れていっている。
姫さんも人の方に向かおうとするが、目の前に魔法が着弾したりと徐々に引き離されるように誘導されている。
本当に、うちのゴブリン共優秀だわ。
吹き矢の時にも思ったけど、命中率が半端ない。
器用さを上げるだけで、こんなに違うとは。
そして、門を開いてゴブエモン達が飛び出していく。
「えっ? きゃっ!」
ゴブエモンの後ろから、ゴブエルが光の魔法でお嬢さんの目を眩ませる。
ゴブエモンは背中を向けているから、目が眩むことはない。
むしろ後光を背負って駆けつける、窮地の姫を救う英雄みたいになってるのが笑える。
おっと、思わず笑い声が漏れてたみたいだ。
ジソチが訝し気にこっちを見てきたので、咳払いでごまかす。
「なんだ、今の光は!」
「やばい、次の攻撃の合図だ!」
「くそっ、撤退だ! 撤退!」
予期せぬ副産物。
他の部隊の連中が一気に、森の奥へと逃げていった。
これで、確実にお嬢さんに助太刀できる人はいなくなった。
「流石ですね。そこまでの効果を狙ってのご指示ですか?」
横でジソチが何か言ってる。
「いや、たまたまだけど?」
「御謙遜を。あまりに簡単に事が進んだので、思わず失笑されたのでは?」
……ここで、調子に乗ったりしない。
これ以上否定したりするのも逆に嘘臭いので、無視して現場に視線を。
だから分かってますみたいな雰囲気で、鼻で笑って満足そうに黙って頷かないでくれるかな?
褒められた俺が照れ隠しで、胡麻化してるみたいな空気作らないでくれるかな?
ほらあ……狙ってたみたいな空気が、周りに流れてるんだけど?
そして、真実を分かってそうなアスマさんの視線が痛い。
「きゃあっ! ちょっと、どこ触ってるの! この無礼者!」
ゴブエモンに担がれた、お嬢さんがめっちゃ暴れてる。
ガンガン叩きまくってるけど、ゴブエモンは気にした様子はない。
むしろ叩かれてることより、暴れられて重心が移動する方が面倒くさそう。
「うるさいから、黙るっすよー!」
「ぶふぁっ!」
俺もうるさいなーあの子とかって考えてたら、外壁の上にいたキノコマルが同じことを思ったのだろう。
いきなり眠茸の粉を袋に詰めて、全力で姫さんの顔にぶつけていた。
珍しく空気を読んだ行動だ。
お嬢さんがすぐに、眠りに落ちて静かになった。
ただ、ゴブエモンも頭から肩まで粉まみれになってるけど。
袋に詰めすぎじゃないか?
いいのかな?
まあ、耐性持ちだから問題ないとは思うが。
あっ、目に粉が入ったんだな。
立ち止まって片手で、めっちゃ目をこすってる。
こすったらだめだぞー。
水で洗い流さないと。
さらに人を担いで走ってる途中だったから鼻と口からも粉を吸い込んだらしく、思いっきりくしゃみと咳までしてる。
脱力したお嬢さんの首がゴブエモンがくしゃみをする度に、頭の重さに兜の重みも相まって凄い大きくガックンガックンなってるけど首大丈夫かな?
やんごとなき身分の人だろうに、ときおりヘルムのフェイスガードと目が開いて白目になってるのとか女性としてどうなんだろう?
色々と大丈夫じゃない状況。
すぐに気づいたゴブエルが、洗浄魔法でゴブエモンの顔を洗ってあげてたけど。
うわぁ、ゴブエモンめちゃくちゃ怒ってる。
キノコマルを、鬼の形相で睨みつけている。
「手伝ったのに、なんで睨まれないといけないんすかね?」
キノコマルが不満そうだが、それは本人に直接言ってくれ。
俺を巻き込むな。
この状況で俺に話を振られると、俺がお前に指示したみたいになっちゃうぞー。
そういうところだぞ?
そういうところで、空気が読めないからダメなんだぞ?
「お主らはいつも、こんなことをやっておるのか?」
「大体、石投げて追っ払ってるかな?」
「そうか……なんか、残念な連中じゃのう」
アスマさんが、失礼なことを言っている。
すごく効率いいと思うんだけどなー。
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