第3話 町の人との関わり

俺らは一度家に帰ってきた。俺が引ったくり犯にお金を渡してしまったので、ジュリの服を買う金が無くなってしまったからだ。

「どうする?少し休憩してから買いに行くか?それとも今日はやめておくか?」

俺が二人に聞いてみると

「俺は大丈夫だ。ジュリちゃんがどうかは知らんがな」

真式はそう答えた。

確かにジュリは今まで奴隷だったのから、まともな運動もしていないだろう。いきなりかなり歩かせたら疲れてしまうだろう。

「ジュリは大丈夫か?」

「大丈夫です」

俺が心配して聞いてみるとそう答えた。

だが俺には少し疲れているようにも見える。

「ジュリ、本当に大丈夫か?少し疲れて良そうだが…」

「…そうですね…まぁ少しは疲れたかもしれません」

ジュリは自分の意思をはっきり発言した。少しは心を開いてきてくれたのか?

「分かった。じゃあ今日はやめて…」

今日はやめておこうと言おうとしたら

「いえ今日行きたいです」と、止めてきた。

「そうか。なら少し休憩して準備してから行こうか」

ジュリの希望通りに今日行くことを言うと

「分かりました」

と納得してくれた。

時間を確認すると今は2時頃だった。3時ごろであればお菓子かなんか作ろうかと思ったが…。

「…何をしようか」

少しの休憩時間を何に使うか考えていると

「そういえばお前、仕事は大丈夫なのか?」

真式は聞いてきた。多分真式の言う仕事というのは作家としての事だろう。確かに今日はまだ何も手を付けていないな。

ジュリの事とかもあるしどうしようか。

「今日は別にやらなくてもいいかな。別にそんなに時間に追われている訳じゃないし」

「なら良かった」

そんなたわいもない話をしているとジュリが

「もう大丈夫です。行きませんか?」

と言った。まぁ多少は休憩したしジュリの顔色も大丈夫そうだ。

「分かった。じゃあそろそろ洋服店いこうか」

俺が座っていた椅子から立ち上がると

「いや、俺は残っていようかな」

とソファで寝転がっている真式が言った。

「どうしてだ?」

「別に服を買いに行くだけだろ?だったら俺は行かなくてもよくないか?」

真式の言う通りジュリの服を買って帰るだけだし別にこいつは来ても来なくても変わらない。

「帰りに多少食材を買って帰るつもりだが…」

「あー大丈夫。正直面倒くさいし。お前の飯はうまいから何でもいい」

やはり面倒くさいだけか。

まぁこいつをここに置いていくのは別にいいんだが…一つ心配な事がある。

「別に来なくても構わないが、俺の家の食材勝手に食べるんじゃないぞ」

「食べねぇわ!」

真式なら食べかねないからな。念には念を入れておいた方が良い。

「じゃあ、ジュリ。準備していこうか」

「はい」

そうして俺らは家を出て洋服店に向かった。


「着いたぞ」

俺らは少し歩いた所にある洋服店に着いた。


   ガシャ


俺が扉を開け後ろからジュリが入ってくると

「いらっしゃいませ~って功次じゃ~ん」

そんなゆるい感じで出迎えたのはここの店長の

アービティナ・フークリン。通称ティナ。

よう、ティナ。久しぶりだな」

「久しぶりね~。あなた、基本的に服に興味ないからあんまりここ来ないじゃない~。今日はどんな風の吹きまわしなの~?」

俺は基本的に動きやすくて外でも家でも着れるジャージとかパーカーしか着ないから滅多にここに来ない。

「今日はこの子の服を見繕って欲しいんだ」

そうして俺はジュリをティナに見せる。

「あら~?可愛い子ね~。誘拐してきたの~?」

「んなことしねぇよ。いろいろあって世話をすることになったんだよ」

何故こうも俺の知り合いはさらったやら誘拐したやらといったことを考えるんだ。

「まあ細かい話はまた今度にして今はこの子の服をどうにかすればいいのね~」

「あぁ頼んだ。俺はオシャレとか分からんからな。ここは専門に任せるよ」

「任されたわ~」

そうしてティナはジュリの全体を見つめる。

「なるほどね~。ジュリちゃんって言ったかしら?」

「はい?」

「あなたはどんな服が着たい?」

「?」

ジュリはキョトンとした反応を見せる。

「あー、可愛い系とかクール系とかあるわよ~」

少しの間ジュリは固まっていたら

「私は功次さんに迷惑がかからないもので構いません」

「そうなの~?でもね~ジュリちゃん。オシャレは女の子の嗜みなんだからそんなこと考えてちゃ駄目よ~」

「でも…」

ジュリはそんな風に困った反応をしていた。

「功次~?あなたお金とかは大丈夫なの~?」

完全に我関せず状態だった俺にティナはそう聞いてきた。

「全然大丈夫だぞ。別に一着だけ買いに来た訳でもない。それなりに替えが買える分は持ってきとるから遠慮せんでいいぞ」

いくら服を適当にしてる俺といえどもそれくらいの考えくらいは持ってるからな。

まあ下手に高いものとかを買われまくれば流石に困るが…。

「だそうよ~。ジュリちゃん。だから遠慮せず自分の好きなものを決めていいのよ~」

そこまで言われてもジュリはまだ葛藤していたがとうとう決心してジュリは

「じゃあ、あそこにあるものとこれとかお願いできますか?」

「は~い毎度あり~」

そんな風にジュリは色々な服を買っていった。

これは一応女子のものを買いに来ているので下着やらなんやらも買っていたので俺は窓から外を眺めていた。

「功次~?終わったわよ~」

軽く一時間程経った時ティナが聞いてきた。

やはり何故女子はこうも長時間買い物を行うのだろうか。

「うむ。で、何ソルになったんだ?」

「は~い。じゃあ2100ソルね~」

は?2…100?買いすぎじゃね?どのみちカフェに行った後にここに来ててもお金足りなかったな。女子って服装に金をかなりかけるとは聞いてきたがまさかここまでとはな。

「どうしたの~?もしかして払えないの~?」

服に対してそこまでの金がかかるとは思わず流石に動揺していたらしく少しの間固まっていたらしい。ティナがニヤニヤしながら聞いてきた。

するとジュリは

「やっぱりご迷惑でしたか?」

そんな風にジュリが不安そうな顔をしてきた。

やっべ俺がジュリに心配されてどうする。

「いや、大丈夫だ問題ない。どれくらいかかるか予想してはいたが思っていた以上にかかって驚いてただけだ。余裕を持って3000ソル持ってきていて正解だった」

「あら~それなら良かったわ~」

ニコニコしながらティナはそう言ってきた。

ティナはわざわざ高いものを買わせたりするやつではないはずだがやはり高い気がする。

そんなことを俺が考えていると

「あら~?なんか失礼なこと考えてる~?」

ティナは表情を変えずに聞いてきた。

怖いよ俺の心でも読む能力でも持ってんのか?お前は。

「大丈夫よ~。この値段は女の子がオシャレに基本使うお金と比べたら妥当な値段よ~」

そうだったのか…てか、これで普通くらいやったら女子大体金欠じゃないか?

「功次~これはあなたが女の子がどれくらいオシャレにお金をかけるか知らない、勉強不足だったあなたが悪いのよ~?」

ちくしょうあながち間違ってないから否定しきれねぇ。

「あと、一度に女子に必要なものを替えも含めて買おうとするとこれだけかかるわよ~」

続けて言われる俺の無知。…辛辣だな。

「悪かったよ。まあ払えるから許してくれ」

「そうね~。買っていく途中で功次がお金足りるのか少し心配になったし、また今度に払って貰おうかな~とかも思ってたらね~。よくそんなに持ってきてたわね~」

なんかあると不安だし実際に女子がどれくらい金を使うのか分かんなかったからかなり多めに持ってきておいて良かった。

「余裕を持つことは重要だからな」

「そうね~あなたならそんな考えになるわね~」

面倒事にならなくて良かった。

「あなたもいろんな服を着たら~?ずっと黒色のパーカーだとモテないわよ~」

「知ったことじゃない。俺はモテようとかは思わない」

俺はモテる必要はない。そんな願望はないからな。

「あんた後継ぎとかどうするの~?」

「俺の遺伝子は別に後世に残す必要はないぞ」

「そうなのね~」

そんな話をしていたらそこそこ時間が経っていた。

「そろそろ帰ろうと思うし払うよ」

「分かったわ~改めて2100ソルね~」

「あいよー」

俺は2100ソルを渡して買い物を済ませる。

ん?何か重要なのがいない。

「そういえばジュリはどうした?」

「あ~ジュリちゃんはね~今買った服に着替えてるのよ~。あんなボロボロの服のままいさせるわけにはいかないでしょ~?そろそろ出てくるんじゃないかしら~」

ふむ。確かに今まで着てたボロボロの服よりかは新しいやつを着ていた方がいいな。

「お待たせしました」

「ほら来たわよ~」

そんなことを考えているとジュリは着替えて出てきた。

「功次~なんか感想は~?」

感想か。ジュリは黒のワンピースを来ている。まあそこそこ動きやすそうだし、変に柄が着いてたりするやつじゃないシンプルなのでいいセンスだ。

「似合ってるよ」

「本当ですか?」

「嘘はつかないよ」

「良かったです」

俺が褒めるとジュリは喜んだ表情を見せた。

ジュリは笑っている方が良いな。

「じゃあまたなティナ」

「ええまた来てね~。次はジュリちゃんについていろいろ聞かせてね~」

「あいよー」

「ありがとうございました」

俺らはティナに別れを告げて店を出た。


「服、ありがとうございます」

店を出るとジュリはそう言ってきた。

「いいよ。ノベルさんも俺がお金に余裕があるのを見越してジュリを預けてきたからな」

「改めて沢山のものを買ってしまいましたけど大丈夫でした?」

うーん。やはり心配になるよなー。そこそこの金額いったし元々奴隷だったら自分のためにお金を使って貰えることなんてなかったと思う。

「大丈夫だよ。お金のことだったら相当なことがない限り困ることはないし欲しいものがあったりしたら言ってくれ」

「ありがとうございます」

ジュリには心配させたまま生活させるのは嫌だしな。

「そうだ。今日の夕飯買いたいから店に行ってもいいか?ジュリを家に送ってから俺一人で買いに行ってもいいけど」

「いえ大丈夫です」

「分かった」

そうして俺らは店に向かった。


「着いたぞジュリ」

俺らは俺がよく食材を買いに来るし家からそこそこ近い店、ヴェーラ屋だ。

「じゃあ入るか」

「はい」


「来たぞー。バルコルのおっさん」

俺がそう言うと

「おー来たか来たか。功次くん」

元気に返事をしてきたのはこのヴェーラ屋の店長バルコル・ヴェーラだ。

「今日は何を買いに来たんだい?」

笑顔で聞いてきた。

「そうだなー、ジュリ何か食べたいものあるか?」

「私は何でも良いです」

ジュリは本当に何でもいいという顔で答えてきた。

「そういえば功次くん。君が連れているその子どこかで見たことあるような…」

「えっ?」

俺は他の人と同じように説明をするために準備をしていたらバルコルはいつもと違う反応をした。とりあえずジュリについて説明した。

「あーノベルさんから頼まれたのか。僕のところにも彼は来たよ。生憎と僕も凄く裕福という訳ではないからね。仕方なく断ったんだよ」

なるほどだからジュリの事を見たことがあったのか。

「君ジュリちゃんだっけ?あの時は断ってしまってごめんね」

バルコルはしゃがんで申し訳なさそうにジュリにそう謝った。

この人は優しいから断ってしまったことに少なからず罪悪感があったのだろう。

「大丈夫です」

ジュリは何でもないみたいな声で淡々と答えた。

「そうか。でも良かったよ」

バルコルは笑顔を浮かべて俺の方を向いた。

「どうしたよ?」

分からずに聞いたら

「功次くんに預かってもらって。ノベルさんなら酷い人のところなんかには頼らないだろうからこの子がそんなところに行くことはないとは思っていた。だけどもしかしたら誰も引き取らなかった時の事を考えると、少し苦労を掛けても僕が引き取るべきだったんじゃないかなんて考えたりもしたんだ」

バルコルは立ち上がりながら俺にそう言ってきた。

「困ってたらお互い様だろ?それはあんたでもジュリだろうがノベルさんでも関係はない。余裕があるやつが動くのが正しいんだ」

「そうだね。君はそういう人だ。だから僕たちは信頼して君に頼る。まあ頼ってばかりで申し訳ないけどね」

バルコルは笑いながらそう言った。頼ってばかりとかは考えなくてもいいのにな。俺だって完璧超人ではない。どちらかというとろくでもないやつだと自覚している。

「まぁ話してばかりでもないで買っていきな。魚、野菜、肉、なんでも新鮮な物を置いてあるからね」

話を切り替えてそう言ってきた。

「そうだな。じゃあジュリなんかうまそうなものを見てきな。自由に選んでおいで」

「いいんですか?功次さんは食べたいものとかは無いんですか?」

ジュリは自分の自由でいいのかといった反応をした。

「俺は大丈夫だよ。この店の食材は全部うまいからな。料理をミスって炭にしない限り外れることはないからな」

俺がそう伝えると何か言いたげな顔をした。

「どうした?」

「その…真式さんはどれがいいのでしょう?」

ジュリは真式の食べたいものを聞いてきた。

「気にすんなあいつのことは。あいつは食えるものを出しておけば何でも食べるからな」

俺がジュリに気にするなと伝えると

「…分かりました」

ジュリは困惑した様子で了承して店の奥に歩いていった。

「相変わらず真式くんに冷たいねぇ」

俺とジュリのやり取りを見ていたバルコルはそう言ってきた。

「そりゃそうだろ?持ち金を賭けて全部溶かして友達の家に転がり込んでくる奴に心配をする必要はないからな」

俺がそう言うと

「彼、そんなことをしていたのかい?…普通なら仲の良い友人であろうと追い出すだろう。それでも君は彼を泊める気なんだろう?」

そう言われて俺は反論出来なかった。

「口ではそう冷たく言ってても心は嘘をつかないからねぇ」

笑いながらバルコルはそう言ってきた。

「…うっせぇ」

どんな反応を俺はすれば分からなかった。こういう時はバルコルは大人だなと思ってしまう。

そんな話をしていると

「功次さん。これはよろしいでしょうか?」

ジュリが食材が入ったかごを俺に渡してきた。

そこには三人で食べるには十分な野菜やら肉やら魚があった。しっかりと栄養が考えられている感じだった。

「ああ問題ないよ。ありがとうなジュリ」

俺はそう言ってジュリの頭を撫でた。

「あっ」

ジュリは顔を少し赤くして俯いてしまった。どうしたんだろうか?

「大丈夫か?熱か?体調が悪いなら言えよ?」

俺が心配してそう言うと

「…大丈夫…です」

本当か?ただジュリは大丈夫と言ってるし本当にやばそうだったらなんとかするか。

「分かった。じゃあこいつの精算頼むわ、バルコル」

そうして俺はバルコルに食材が入ったかごを渡した。

「毎度あり。それでもねぇ」

かごを渡して金を用意しているとバルコルはそんな意味深なことを言った。

「どうしたよ?」

俺が聞くと

「いやーあの功次くんにも春が来たのかなぁと」

「は?どういう意味だ?」

俺は意味が分からず聞いた。

「まあ今は気にしなくていいよ。でもそのうち気づくことがあると思うよ」

「はぁ」

バルコルはそう言って話を止めた。そのうち気づく?何を言っているのだろう?俺はジュリの方を見るとまだ顔を赤くして俯いていた。

…大丈夫か?

「まあいいや。それでいくらだ?」

雑談をしながらも会計作業を終わらせたバルコルに聞いた。

「いや、今日はいいよ」

「なんでだ?」

売り上げがないと辛いはずだろ。

「功次くんも知ってるだろうけどここの野菜と魚は僕が採ってるものだ。だから実際に仕入れの時のお金は肉だけだからね」

そういえばそうだった。ここの店の食品の内、魚と野菜に関してはバルコルの趣味の家庭菜園と釣りの副産物で成り立ってる。だから他のところに比べて仕入れの時のお金が安いんだったな。

「だからこれはジュリちゃんが功次くんのところへ来た記念だよ。だから今日はいいよ」

なるほど。

「相変わらず優しいもんだ。分かった、ありがとうなバルコル」

「うん。じゃあまた来てねー」

「あいよー。じゃあジュリ帰るか」

買った荷物を持って俺がジュリにそう言うと

「…はい。分かりました」

ジュリはそう答えた。俯いてはないがまだ少し顔は赤い。本当に大丈夫か?

そんなことを考えていたらジュリは俺の手にゆっくりと手を伸ばしてきた。

「どうした?疲れたのか?」

俺が聞くと

「…いえ大丈夫です」

ジュリはそう言って手を戻した。どうしたのだろうか。

「功次くん」

俺はバルコルに呼ばれた。

「どうした、何か忘れてたか?」

俺はそう訪ねると

「ジュリちゃんとはぐれちゃったら危ないだろう?だから手を繋いで帰ってあげな」

バルコルはそう伝えてきた。確かに人はまだそれなりにいる時間だ。はぐれたら困るしな。

「分かった。じゃあジュリ。手を繋いで帰るか」

「はい」

俺がそう言うとジュリは少し笑顔で返事してきた。なんだ?元気が出たのか?

そうして俺はジュリと手を繋いだ。

「じゃあバルコル。あんがとな」

「また来てねー」

俺らはバルコルにそう言って店を離れた。

歩き始めたときにジュリが振り向いてバルコルに手を小さく振っていた。


「帰ってきたぞー」

「ただいまです」

俺らは家のドアを開けてそう言った。

「おーうお帰りー。そこそこかかったな」

帰ってきて早々真式は文句を垂れてきた。

「何か文句があるならここに泊める気はないし、タダ飯食わせるつもりもないぞー」

俺がそう言うと

「すいませんでした許してください」

真式は勢い良く土下座してきた。

だったら最初から文句言うなよ。

「これからどうする?」

時計を見ると5時位だった。

「じゃあ部屋割りしとこうぜ」

そう真式は意見を出した。

「お前はいつもの屋根裏部屋でいいだろ。ジュリの方をどうするかだ」

二階にはまだ部屋は何個かあるし自由に選んでもらおうか…。

「私はどこでも構いません。どれだけ狭くても大丈夫です」

少し考えているとジュリがそう言ってきた。

狭すぎる部屋なんてないが…あったとしてもそんなところは指定しない。

「問題ない。部屋はまだまだあるしな。そうだな…」

俺は少し考えて

「じゃあジュリの部屋は俺の部屋の隣でいいか?何かあったときすぐに対応できるように」

俺はそう伝えると

「分かりました」

ジュリはそう答えた。俺の部屋の隣は俺の部屋と同じくらいの大きさだ。真式の屋根裏部屋よりも大きい。

「でもあれだな。あの部屋、普通の客人用の布団しか入れてなかったな」

俺がそう言うと

「別に何も問題ありませんよ?」

とジュリは返す。

元は奴隷だったんだ。落ち着いたところで寝たこともあるのか分からない。

だから俺は

「でもジュリにはちゃんとしたベッドで寝てほしいんだ」

という。すると

「いえ構いません。むしろその方が功次さんに迷惑がかかりませんし」

ジュリはそう言った。

「迷惑とかは考えなくていいよ。これから一緒に住んでいくんだそういう家具はしっかりと備えるべきだからな」

「でも…」

ジュリが申し訳なさそうにしていると

「まあ甘えとけ。功次は基本的に一度決めたら自分の考えを変えないやつだからな」

真式はそう言った。よく分かってるな。流石、付き合いが長いだけある。

「そういうことだ。別に俺に遠慮はいらないぞ」

ジュリは俺に遠慮する必要はない。むしろ今まで我慢してきた分、俺に甘えていいと思ってる。

「…はい」

ジュリは納得したようでそう返事した。

「でもあれだな、あの部屋にベッドはまだないからジュリ今日は俺の部屋で寝てくれ」

俺がそう伝えると

「それはできません。功次さんの寝るところがなくなるじゃないですか」

早速遠慮してる。まあ徐々に慣らしていけばいいか。

「大丈夫だ。今日はリビングのソファで寝るから」

俺はそう答えると

「なら私がソファで寝ますので」

「いや遠慮すんな。ジュリは俺のベッドで寝てくれ」

俺はお互いの意見が平行線になっていた。

ベッドで寝てほしい俺とベッドで寝ることに遠慮するジュリ。

俺らはお互い相手の事を考えてしばらくの間言い合っていると

「じゃあお前ら今日は一緒に寝れば良くね?」

俺らの言い合いの様子を見ていた真式はそう言った。

「へ?」

「え?」

俺とジュリはそれを聞いて固まった。

「お前らお互いにベッドで寝て貰いたいから言い合いしてるんだろ?だったら一緒に寝れば両方ともベッドで寝ることができるじゃねぇか」

真式は淡々と続けてきた。

「それは功次さんに申し訳ないです」

先に答えたのはジュリだった。

「そうだぞ、まず俺のベッドは…」

俺が言いかけると

「いや、お前のベッド別に小さくないだろ。二人で寝れるくらいの大きさあるだろ」

真式にそう答えられてしまった。

確かに俺のベッドは小さくない。二人は普通に寝ることができる大きさだった。

「お前らが言い合ってたらずっと平行線だろ?だったらこれで終わりだ。お前ら時計を見てみろ」

そう言われて俺とジュリは時計を見た。

時計の長針が6を少し過ぎていた。

「お前らは1時間近く言い合ってたんだ。俺は腹が減ったぞ。そろそろ飯にしてくれ」

真式にそう言われて俺らはかなり言い合っていたことを自覚した。

「はぁ分かったよ。確かに俺らが言い合っても終わる気配が無いもんな」

「そうですね」

俺とジュリの譲り合いは終わりを迎えた。

「じゃあ飯にしようぜ。正直すげー腹減った」

真式のその言葉に

「確かにな。流石に俺も腹減った。ジュリはどうだ?」

俺がジュリに聞くと

「私もお腹が減りました」

そう言ってお腹を押さえた。

「よし。じゃあすぐに作るわ」

俺はそう言って買った材料を取り出して台所についた。


「私も手伝いましょうか?」

私は功次さんに聞いた。待っているだけでは申し訳なかったのだ。せっかくこの家で生活させて貰えるのに何もしないというのは。

「大丈夫だよ。強いて言うならば三人分のコップを机に出しといて欲しいかな。そしたら真式と待っていてくれていいぞ」

別に何か仕事が欲しかったわけではない。ただお世話になるから少しでも手伝いをした方がいいと思った。でも功次さんは私に苦労をさせたくないのかそう言ってきた。

「分かりました」

そうして私は功次さんに言われた通りに三人分のコップを出して机に持っていった。椅子には真式さんが何やら本を読んでいた。

「何を読んでいるんですか?」

私はコップを机に置いて真式さんに聞いた。

「これか?これは功次が書いた本の一つだよ」

真式さんはそう答えた。そういえばそうだった。功次さんは本を書いて生計を立てているということを。

「その本は面白いのですか?」

私はそう聞き、本の表紙を見た。そこには

『たとえ全てが敵になっても』

そう書いてあった。

「うーん。まあ面白いと言えば面白いけどな」

真式さんは苦笑いでそう答えた。どうしてだろう?

「あの…何かあったのですか?」

私は気になって聞いてみた。

「いやなに、あいつが書く本の半分は自分の体験を元に書いてあるからな。あいつとは昔からの付き合いだ。だからこれに書かれているのがあいつの苦労した昔の事を少し思い出すんだ」

そう真式さんはなんとも言えない表情をした。

功次さんの過去…それは最初に出会った時から少し考えた。どこをどうしたらあのような性格になるのかが分からなかったからだ。

相手が誰であろうと優しくする、突然の事にも動揺しない。それが気になった。

そしてこの家、一人暮らしにしてはそれなりに大きい。部屋数も充分にあってしっかり設備も整っている。真式さんはよく泊まりに来るようなのでその部屋があるにしても他の部屋もかなりあった。

一体どれだけお金を持っているのだろう。

私の服もかなりの値段をしたはずなのに普通に払っていたしかなりもっているのだろうか?

「まぁ、あいつについて気になったなら直接聞くといい。もしもあいつが教えてくれなかったら俺に聞きに来な」

そう真式さんは私に言った。

「分かりました」

「出来たぞー」

そんな話をしていると功次さんが料理を持ってきた。

「よっしゃー功次の飯だ!」

真式さんは本をしまって喜んで料理を見た。

「ありがとうございます、功次さん」

私は功次さんに俺を言った。

「おうよ」

功次さんは笑顔でそう返事をした。


「じゃあお前ら冷めない内に食べな」

俺がそう言うと真式はガツガツ食べ出し

ジュリはゆっくり食べ始めた。

ちなみに俺が作ったのはジュリが持ってきた野菜で野菜サラダとスープ、サラダの中には肉も入っている。そして魚を焼いて塩をまぶしたもの、後はもともと家にあったパンだ。

俺も食べ始めるか。


「ごちそうさん」

「ご馳走さまでした」

「お粗末さま」

そうして俺らは夕食を食べ終えた。

一番食べていたのは真式だった。こいつの分を決めて量を減らしてやろうかな。そのレベルで食べていた。流石に俺とジュリが食べる分のサラダやスープは残していたがそれでも食べていた。

「いやー食った食った。普通にどっかの店で食うのもうまいがお前のやつも普通にうまいからな」

そう言いながら皿をキッチンのシンクに持っていく真式。

「そりゃどうも」

俺がそう返事をしていると

真式に続いてジュリも皿を片付けていった。

俺の分も持っていったのは申し訳なかったが…まあいいや。

「じゃあそろそろ風呂にしようかね」

真式はそう言った。時間は8時頃だった。

「誰から入るよ?」

俺がそう聞くと

「私は最後でいいです」

ジュリはそう言ってきた。

「じゃあ俺が先に入ってきていいか?」

真式が聞いてきた。

「いいよ。というかお前、着替えあるのか?」

俺がそう聞くと

「大丈夫、お前の借りればいいや」

そう言って二階の階段を駆け上がって俺の部屋に向かった。あいつなぁ…。

「じゃあジュリには風呂に入るとき色々教えるけど大丈夫?一人で入れるか?」

俺がそう聞くと

「大丈夫です。ありがとうございます」

なら良かった。

「じゃあ入るぞー」

二階から俺の服を持って真式が降りてきた。

「あいよー」

そうして真式は風呂に行った。

俺とジュリは軽く雑談して出てくるのを待った。

少しして真式は風呂から出てきた。

「出たぞー」

「うい。じゃあ先に俺が入るけどいいんだな?ジュリ」

俺がそう聞くと

「大丈夫です。ゆっくり入ってきてください」

そう言われて俺は用意しておいた自分の着替えを持って風呂に向かった。


少しして俺は風呂から出てきた。

リビングには椅子に座っているジュリだけだった。

「ジュリ、真式は?」

俺が真式の居場所を聞くと

「疲れたのでもう寝ると言って部屋に行かれましたよ」

そう言われた。あいつは自由すぎるだろ。

「分かった。じゃあ着替えを持ってついてきてくれ。いろいろ教える」

「分かりました」

ジュリは今日買った着替えを持ってついてきた。

そこから俺はどれがシャンプーやポディソープかなどを教えた。

「じゃあ一人で入れるんだな。一応リビングにいるから何かあったら呼んでくれ。ゆっくりしな」

「分かりました」

そうしてジュリと別れた。


「久しぶりに自由にお風呂に入れる」

そう私は呟いた。前にいたところだと月に一度入れたらいい方で、一部の使用人が隠れて入れてくれるだけだった。

「ふぅ」

私は体を一通り洗ってから湯船に浸かった。

温かい。安心してお風呂に入ったのはいつぶりだろう。あそこの奴隷になっていたときは落ち着けなかったから、村にいたときが最後か…。

もう何年も村に行けてないな…。

そんなことを考えて私は湯船から出た。


「お風呂ありがとうございました」

そうしてジュリは風呂から出てきた。

かなりボサボサだった長い髪はきれいになっていてしっかり女の子らしくなっていた。

「これからは入りたくなったら言ってくれ。基本的にいつでも入れることが出来るから」

俺はジュリにそう伝えると

「分かりました」

そう返事した。

時計は10時を回っていた。流石にいろいろあったし疲れたな。俺はそろそろ寝たいが、一緒に寝ることになったからジュリに合わせるか。

「ジュリは疲れたか?眠くなったら寝るからな」

「じゃあそろそろ寝てもよろしいでしょうか?」

ジュリはそう答えた。そりゃ流石に疲れるだろう。過ごす環境が変わりいろいろ教えたりもしたからな。

「分かった。じゃあ寝るか」

そうして俺らは二階に上がって俺の部屋に入った。

「ここが功次さんの部屋…」

ジュリはそう言って部屋を見渡した。

「面白いもんはないぞ」

そう面白いものなんて無い。

必要最低限の家具しか置いてないから質素でしかない。

「いいと思います。変にごちゃごちゃしてるのはよくないですものね」

ジュリはそう言った。気を遣ったか?

「では寝ますか?」

眠そうなジュリはそう聞いてきた。

待て、今思ったが一緒に寝ることは俺は手を出したことにならないよな?

今頃になってそんなことを考えた。

「あぁ、…寝るか」

そう言って俺は電気を消した。

「おやすみなさい…功次さん」

先にベッドに横になっていたジュリがそう言った。

「あぁおやすみだ。これからよろしくな」

俺がそう答えると

「…はい…よろしくお願いします…」

そう言ってジュリは寝た。

「…俺も寝るか」

ジュリが先に寝たから俺は下のソファで寝ようと思ったがそれはそれで何か言われそうなので諦めて寝ることにした。

ベッドに入るとすぐに睡魔は襲ってきた。


功次さんのところに来て初日が終わった。

いろいろなことがあった。

功次さんが襲われたり、服を買ったり、お店の人に気持ちをバレたりしたけど、一番気になったのはやっぱり功次さんの過去だ。

寝る前に聞こうと思ったけど聞けなかった。

また明日にでも聞いてみよう。

でも真式さんの反応を見るにそんな簡単には教えて貰えなさそうだった。

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