第7話 無職88歳 女性
私は88歳で一人暮らしをしてる。
息子は3人いたけど、2人亡くなってしまった。
1人は小学校の頃、交通事故で亡くなった。それが三男だった。
もう1人は50歳くらいで心不全。結婚が遅くて、子どもがまだ小さかった。
孫に会いたいけど、お嫁さんが再婚してしまったから無理だろう。
1人生き残った長男は東京で働いている。
結婚して子どもが2人いて、〇〇〇〇(大手スーパー)の支店長として働いてる。
もう何年も会ってない。連絡はほとんど来ない。お嫁さんが嫌な人で、私に連絡するのをよく思わないみたいだ。
子どもがいたって、年を取ったら邪魔にされるだけ。
何のために子育てしたんだろうと思う。
主人の兄弟たちとももう何年も会っていない。
数年前までは、お金を貸してほしいという電話があったりしたけど、それもなくなった。みんな亡くなってしまったり、ボケてしまったから。
***
部屋を片付けていると、見たことのない黄色いノートが出てきた。
なんだろう・・・。
開いてみると、子どもが鉛筆で描いたような字だった。
老眼鏡を書けて読んでみたら、私宛に何か書いてあった。
『勝だよ。お母さん、交換日記しようよ。お母さんは僕が死んで悲しかった?』
勝!私はびっくりした。
小学生で亡くなった勝だった。
『悲しかったよ。3年くらい毎日泣いていたよ。今も時々思い出すんだよ。どうして、一緒に学校について行ってあげなかったのかなって、ずっと後悔してたよ』
『僕もまだ死にたくなかったよ。だって、小学校3年生までしか生きられなかったんだもん。友達ともっといっぱい遊びたかったし、お母さんのお手伝いをしたかった』
私は号泣した。そんな風に思っててくれたなんて。
『いいんだよ。勝は何かしてほしいことはある?お父さんとお墓に入ってて、仲良くやってる?』
『うん。お父さんも一緒にいるよ。だから、寂しくないよ』
『そう。よかった。何か持って行ってほしいものはある?』
『アマゾンのギフトカードを買って、その番号をここに書いてほしい』
私はアマゾンのギフトカードって何だかわからなかったから、デイサービスの人に聞いた。
そしたら、デイサービスの人がそれは詐欺じゃないかって教えてくれた。今度、ホームに来るとき、その日記を持って来てください。そしたら、見てあげますよ、って言われたの。だから、家に帰って、交換日記を探したけど、もう見つからなかった。
勝からの日記を楽しみにしていたんだけど、もう、なくなったと思うと寂しい。
***
しばらくして、また交換日記が見つかった。デイサービスの人に詐欺じゃないかって言われたから、別なものにしてって書いたら、もう返事がこなくなっちゃった。お墓参りに行きたいけど、連れて行ってくれる人がいないから、無理。
勝。もうちょっとでそっちに行くからね。
私は一人で交換日記を始めた。また、勝が何か書いてくれないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます