夜にその破壊力は……色々とヤバい
それはとある日。晩御飯が終わり、ゆったりとした時間が流れている時だった。
天女目家のリビングでは、
「「ゴー! ゴー! レッツゴー! 」」
華やかな声と共に、2人によるチアリーディングが行われていた。
「「け~い~な~ん」」」
美由と美世ちゃんは、京南中・高のチアリーディング部に所属している。しかもチア部は基本的に中高で一緒に練習しているらしくて、その動作もほとんど一緒だようだ。
そして今日は正式にユニフォームが渡されたそうで、
「「フレッ! フレッ!」」
こうして、お披露目会が行われている。
しかし、遠目でしか見た事なかったけど……家の中とはいえ動きダイナミックだよな。まぁ、前の学校……
私立鳳瞭学園。幼稚園から小・中・高・大学までその全てが広大な土地に存在する学園で、有名一流企業への就職率全国トップレベル。さらに全国大会優勝経験、出場常連の部活動が数多くあり、まさに文部両道を掲げる名門校だ。
ぶっちゃけ、京南も同じ形態で歴史はあるけど……鳳瞭には一歩及ばないってのが正直なところだ。
長らく女子校だったのを共学にしたのも、少しでも迫りたいという現れだと思う。まぁ未だに女子生徒の数の方が多いけどさ。
にしても……
「「ゴー! ゴー!」」
2人共、滅茶苦茶揺れてんな。って、何処見てんだよ。純粋にチアの光景を見なきゃダメだろ。
動き動き……うぅ。それにしたって、チア部のユニフォームってなんであんな丈が短いんだ? 動くたびにウエストが……しかもおへそまで見えるんだけど? はっ、恥ずかしくないのか? 2人共。
「「ファイトッ!」」
うおっ。美由の奴足凄い上がるな……って!
明るい掛け声とともに、足を上げる美由。心の綺麗な人なら、純粋にその高さに驚くんだろう。しかしながら、俺の目に映ったのは……青と白のストライプ柄のパンツだった。
ばっ、馬鹿……なんで普通にパンツ? そこは短パンとかだろ!? いかんいかん、美世ちゃんの方見ておこう。
「「ファイトッ!」」
これ以上注視してはいけないと感じた俺は、即座に美世ちゃんの方へと視線を向けた。だが……またしても邪な心が浮き出てしまう。
おぉ! 美世ちゃんも流石に足上がるな……って!!
先程と同じ明るい掛け声。それと共に次に足を上げたのは美世ちゃんだった。心の綺麗な……以下略。目に映ったのは、黄色と白のストライプ柄のパンツだった。
なっ! 美世ちゃんまで!? これは困った……
純粋に動きを見れば、そのたわわに揺れる胸に目が行く。
チラッと衣装から零れるウエスト部分にドキッとする。
別なところに目を向ければ、パンツがチラチラ姿を見せる。
かといって、せっかくのダンスを見ない訳にも行かない。
どうすりゃいんだ? 俺はどこを見ればいいんだ?
「おぉ! 凄いなぁ2人共」
「ほんとねぇ」
いやいや、父さん? 美耶さん? 何普通に見てるの。特に父さん! 呑気に手拍子なんかして、なぜそこまで余裕なんだ!?
まっ、まさかこれが……
「ハイハイハイッ」
大人の余裕なのか!? 流石だぜ……父さん。
★
「「ウゥゥ~! 京南~!!」」
それからしばらくの間、キレのあるチアダンスとノリノリな父さんと美耶さんの掛け合いが続いた後、2人が手を上げて無事にフィナーレを迎えた。
俺はというと、ダンスの光景を目にはしていたけど……なるべく焦点を合わせないようと尽力した結果、その大半をボヤケ眼で過ごす事となった。
「ブラボーブラボー」
……あのさ? 息子が苦しんでる時に、なに心の底から楽しんでるのよ父さん。
結構明るいしノリが良いのは昔から知ってるけど、ガッツリ見てましたよね? あれとかそれとかバッチリ目に入ってますよね?
やっぱ経験の差か? それにしても……
「最高だよ2人共~!」
そのニヤケた顔は少しムカつくぞ?
「うんうん。2人とも凄いわ。けど、ちょっといいかしら?」
いいぞ美耶さん。この変態親父に喝を入れてやってくださいよ!
「まず、2人共? いくら見せパンとは言えど、ユニフォームを着る以上それに見合った色の物にしないとね? 今の京南のユニフォームなら赤と黄色かしら。それに周りの人に違和感を覚えさせたらダメよ」
ん? えっと……美耶さん? 聞き間違えかな。父さんへの説教じゃないの? しかも見せパン? 見せパンツの事ですか……そうなの? 普通俺……なんかヤダ。妙に恥ずかしくなってた自分が嫌なんですけど!
「やっぱり色揃えないとだよね。じゃあ、また今度買いに行きましょ? 美世」
「だよねぇ。行こっ行こっ!」
って、こっち見るな! 絶対にランジェリーショップには入らないからな!
「次に美由?」
「何ー?」
「ユニフォームの仕様上、ウェストが見えるのは分かったわよね?」
「鳳瞭のユニフォームより丈が少し短いからね」
「少し見えたけど……美由? 少し太ったわね?」
「ギクッ!」
「些細だけど、自分が見られる対象だって事忘れちゃダメよ?」
「はっ、はーい」
えっ、そうなの? あれで少し太ったの? 全然分からないんだけど……普通にキュッてしてるような……
「こっ、こらっ! 空くん、お腹見ないでっ!」
「えっ! 見てないって」
って、自然と視線が向いてたよ。危ない危ない。
「次に美世?」
「いっ、嫌な予感……」
「足の上がりが甘いわよ? 柔軟必須ね?」
「うぅ……善処します」
……マジか、あれで上がりが甘い? いやいやガッツリパンツが見え……
「あぁ、お兄ちゃん! 変な事想像してたでしょ?」
「はっ、はい? 何の事だよっ!」
って、色々と思い出すとこだったよ。危ない危ない。
「無理はしない程度に、もっと自分を磨かないとね?」
「「はーい」」
にしても、ここまで厳しい事言う美耶さんも珍しいよな? 娘だからか? いや、いつもの様子とも違う。
もしかして、美耶さんもチアやってたとかかな? 同じ運動をしていたからこそ、厳しく見てしまうとか……いや? 美由、美世ちゃん以上のボン、キュッ、ボンだぞ? ちょっと難しいんじゃないか。
「流石にOGのいう事は違うね」
「おかげで美世達のハードルが上がって大変なんだよっ?」
「えっ? 今なんて……」
「ん? あれ、言ってなかったっけ? お母さんも京南出身なんだよ?」
「しかもチア部キャプテンっ!」
「えぇ!?」
マジか、初耳なんですけど? て事は、昔は美耶さんもこんな風に……
「ねぇ空くん? 変な事想像したでしょ?」
「お兄ちゃん、変態~!」
「なっ!」
「こらこら2人共? 昔の話だから気にしないでね? 空くん」
「じゃあ美耶には今日、俺の応援してもらおうかな?」
おいそこのくそ親父! ド下ネタ発言を軽々しく言うんじゃない! 2人の娘が抱く優しくて頼りになるお父さん像がぶち壊れるぞ?
「えっ?」
「応援……?」
ほらみろ。2人共ドン引きだ。
「それは言わない約束よ? 陸さん」
「ははっ、ごめんごめん」
……いや、置いてけぼりは子どもらだけか。
「はぁ……ラブラブで良いねぇ」
「ほんとにねっ!」
いや、切り替え早っ!!
「2人がそうなら、私達だってそうさせてもらおっと」
「そうだねっ!」
「ん? なんでこっち見てんだ? しかもその顔! 何か企んでるだろっ!」
「そんな事ないよ? ねぇ美世?」
「うんうん! 全然だよっ? ねぇお姉ちゃん」
「「今日も一緒に寝ようと思ってるだけだから」」
「はぁ? 待て待て……」
なっ、何を言ってるんだこの義姉妹は! しかも父さんたちが居る前で堂々と……
「2人共積極的ねぇ」
「ドンと受け止めてやれよ空」
こっちもこっちで何言ってんだよ! なんだこの雰囲気……なんだこの空気……
こうなりゃ、逃げるが勝ちだっ!
「おっ、お休み!」
「あっ、逃げた!」
「待て待てっ!」
こうして天女目家の夜は……過ぎ去っていく。
「まぁまぁ2人共。空の寝る場所は分かってるんだ。焦らずとも大丈夫だよ」
「そうそう。寝てからの方が都合良いわよね?」
「そりゃ違いない。はっはっは!」
くっ、見てろよ? そこの馬鹿夫婦。
お前らの思い通りには……させないからなっ!
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