30:ヴェパー伯爵領②
準備を終えて玄関に降りるとフリードリヒが待っていた。
「ところでリューディア伯母上は何が好きかな?」
「もしも伯母のご機嫌を取ろうと手土産を持っていくおつもりでしたらいりませんわ。
伯母はそう言う手合いをとても嫌っていますので」
「そうか。だが初めてお会いするのに手土産無しと言うのも失礼だろう」
「それもそうですね……
では伯母にではなく、弟のアルフォンスにお菓子を持っていくのはどうでしょう」
「ふむぅそれで失礼が無いのならばそうしよう」
本来は伯母の子に~が最適なのだが、従兄らはわたしよりもぐんと年上だ。
そこにお菓子を持っていっても喜ぶわけないわよね。
船便の時刻は調べてあったから待つことも無く乗った。
借りた部屋が二等客室なのはわたしが勿体ないと言ったからで、フリードリヒは今日くらいは~と一等客室を取ろうとしてくれた。
その気持ちだけで十分。
だってここに伯母様の眼はないのだもの。
船を降りれば今度は馬車だ。
伯母の領地は伯爵家。当然のように乗合馬車の便だってある。
しかし船とは違って今度は伯母の目が届く場所に入るから、乗合馬車には乗らず個別に馬車を借りてヴェパー伯爵領に向かった。
「ふうやっと着くようだな」
ようやく見えてきたヴェパー伯爵領の境界。それを見たフリードリヒがため息交じりにそう漏らした。
「そうですね。
わたしの記憶ではもう少し近いイメージだったのですが、今日はとても長く感じましたわ」
「時間はそれほどでもないのだがなぁ。
ううむ汽車に慣れ過ぎたかな」
「乗り換えがあったからだと思ってましたが、なるほど汽車ですか。
確かにあの速さを知ってしまうと馬車での移動は気疲れが多いように感じます」
「汽車があれば便利だが、貴族領にまで汽車が来るのはまだまだ先だろうなぁ……」
「その場合の費用は国が出すのでしょうか?」
「いや汽車が走れば人や物資が驚くほど動くから当然領地が潤う。ならば領主と折半ではないかな」
「うーんだとすると恐ろしく先な気がしますね」
お金が恐ろしく掛かると言う以外にも、王都とこの領地の間にも別の貴族の領地がある事を思えば、一人の決断でおいそれと引けるわけも無い。
「違いないな」
そんなことを話しているうちに、馬車の前方に領都の街並みが見えてきた。
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