17:無礼な男①
半月に一度の
何度目かの夜会の後は、長い事わたしの首を飾っていたエメラルドも売れてくれた。その時は自分の事の様に喜んだのを覚えている。
だってあんまりにも長いこと売れなかったんだもん。モデルが悪い以外に理由なんてないじゃない?
これで解放された~と思っていたのに、実はこれはエンドレスだったようで、いまわたしの首元を飾っているのはなんと三代目だったりする。
と、まぁ。
それ以外はなにも変わらず、フリードリヒは知り合いを見つけるといつも通り景気の話を始める。景気の話から実際の地域や品物の名が出始めると、その話が長引くのもだんだんと判って来た。
さて先ほどから、この初老の男性とその手の話題が始まっている。
老人の名はオストワルト。
彼は男爵位を買ったフリードリヒと違って、子爵位を持つ本物の貴族だ。なぜそんな人が商売の話を~と思ったが、領地の実入りが少ない子爵には割とそう言う人が多いと教えて貰った。
二人の会話の様子を聞き、これはまだ掛かりそうねと内心でため息を吐いた。
「はぁ……」
内心で~のはずが実際に聞こえてきてギョッとしたが、それはわたしではなくて隣に立つオストワルト夫人の漏らしたものだった。
「お疲れですか?」
「ええ。この年になると立ちっ放しはちょっとねぇ……」
「よろしければご一緒にあちらのブースに行きませんか?」
わたしが差したのはもちろん休憩用のソファが置かれたブースだ。
「ありがとう。でもこんなお婆ちゃんを相手にしてもつまらないでしょう?」
「いいえとんでもない。若輩のわたしにどうぞ貴族の心得を教えてくださいませ」
「ふふふ若いのに良くできた
じゃあお言葉に甘えましょうか」
わたしはすっかり話しこんでいる彼らに「あちらのブースで待っています」と断りを入れた。話の途中だから、返事は無かったが目配せは貰ったので了解は貰ったと判断して、わたしは夫人の手を引きつつその場を離れた。
休憩ブースにオストワルト夫人を座らせてから、飲み物を配っているテーブルに行き、夫人と自分用の飲み物を頼んだ。
「おや君は確かフリードリヒの所の……」
斜め後ろから声が掛かり振り返ると、以前別の夜会で出会った男性が立っていた。フリードリヒと同じく爵位を買った若手の商人の一人。
えーと名前は確か……、ザロモン男爵だったわね。
「こんばんわザロモン男爵」
「今日はフリードリヒはいないのか?」
「いいえあちらに居ますわ。いまは他の方とお話が弾んでいるようです」
「ふうん……
ところで別の伝手から聞いたんだが、
ザロモンは口角を上げながら不躾にそう言うと、その視線をわたしの顔から胸をへて腰へと下げて行った。その視線はとにかく不快で、わたしはザロモンを睨みつけながら身を
「いくらだ?」
そう言われて思わず耳を疑った。
だが彼の口元は依然と、いやらしい笑みが浮かんでいて、いまのが冗談でも聞き間違えでもないと物語っていた。
わたしの中でザロモンは、不躾な男から嫌悪の対象に変わった。
「なあ金に困っているんだろう?
俺は一度貴族の女を抱いてみたかったんだ。たんまり払ってやるぞ」
ザロモンの手が無遠慮に伸びてきて、わたしの腕に触れようとした。
もちろん無抵抗に触れられるつもりはないから、その手を払いのけ、さらに後ずさりして体を離した。しかしザロモンは、それにもめげず、わたしが下がればその分だけ距離を詰めてくる。
払っても迫る手に怯え、一歩、また一歩と、ついに壁に突き当たり逃げ場が無くなった。わたしはさらに伸びてきた手に恐怖して首を竦めた。
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