打ち出の小槌



「なんでも願いを叶えてくれる打ち出の小槌。さっそく、一寸法師を大きくして差し上げましょう」


 おやゆび姫は、大きな打ち出の小槌をゆっさゆっさと揺らしてみました。


 揺らすたびに打ち出の小槌から金色の光が弾け飛んで、同時に一寸法師の身長を伸ばします。


 ゆっさゆっさ


 ぐんぐん


 やがて一寸法師は人間の大きさになりました。


「これで十分ですね?」おやゆび姫は笑いました。


「いやいや、大きな鬼を退治するにはもっともっと!!」


「それでは」


 ゆっさゆっさ


 ぐんぐん


 一寸法師は、6尺6寸(2m)鬼と同じ身長になりました。


「これで十分ですね?」とおやゆび姫は一息ついた。


「いやいや、もっと大きな鬼を退治するにはもっともっと!!」


「……そうですか、あなたも……」


 ゆっさゆっさ


 ぐんぐん


「これで十分ですね?」おやゆび姫はもう笑っていませんでした。


「いやいや、もっともっと大きな鬼を退治するにはもっともっともっと!!」


「あなたは自分の姿を見た方がイイですヨ?」


 おやゆび姫は、宝物庫から鏡を持ってきました。


 一寸法師が、鏡に写った自分の姿を見つめると、そこには、


「鬼だ……!!」


 大きな赤黒い凶暴な鬼の姿がありました。


「打ち出の小槌は、あなたの望みを叶えるのですよ? あなたは、鬼のように強い体を望みました。わたしとの幸せを望まずに……」



 おやゆび姫は、打ち出の小槌を振ると自分の願いを叶えました。


「待ってくれ!!」


 鬼(もと一寸法師)は、逃げるおやゆび姫を捕まえると、パックリと食べてしまいました。



 でも大丈夫。おやゆび姫は、花に隠れる魔法が使えます。こっそり隠れて、燕に乗って逃げてしまいました。


 最後におやゆび姫が打ち出の小槌に願ったのは、身代わりの魔法。鬼(もと一寸法師)が食べたのは、おやゆび姫に変身した打ち出の小槌だったのです。


 燕は言います。


「また小さな仲間に会えるといいね?」


「2度会ったのです。3度めも……」


 おやゆび姫は「次こそは」と月に願いました。



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