文字を失った僕、光を失った君

花宮零

プロローグ

 ある日を境に、僕は突然文章が書けなくなった。小説は勿論のことSNSに自分の感情を綴ることも、メモ帳に「ありがとう」の五文字を書くことも出来なくなった。



 絶望。



 僕は初めてその言葉の意味を体感した。普段だったら苦しいことや辛いことは全てノートに書き殴っていたのにそれさえも出来ない。ペンを握ると、手がどうしようもなく震え、「あ」と書こうとしても、いつか保健の教科書で見たクスリをやっている人の描く丸のようなものがノートの上に出来上がるだけだった。SNSも同様、キーボードをフリックする手が震え、何とか一文字入力できてもそこで書く気力が失せてしまう。

 どうしたらいいのか分からなかった。だって、僕の生活に、僕の人生に文章は強く根付いていたから。僕にとって文章はかけがえのない存在だった。幼い頃からたくさんの本に触れ、小学生になった頃には自分で小説を綴り、中学生になってからは……何とも言えないポエム集が出来上がっていっただけだったが、とにかく一日に必ず一話は小説を進め、日記をつけていた僕は、この現状を受け入れたくはなかった。




 識字能力失調症。




 それが僕の罹患した病名だ。聞いたことのない病気だった。僕の担当医も初めてのことで動揺していた。全く、医者が患者の前で動揺することほど不安になることはないのだが過ぎたことだから水に流そう。何故僕がこの病気にかかったのか。そもそもこの病気は何なのか。そしてどのようにして治療をし、現在当時の病状を綴ることが出来るようになったのか。長くなるだろうが話そうと思う。

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