秋乃は立哉を笑わせたい 第27.5笑
如月 仁成
水の日
~ 八月一日(月) 水の日 ~
パパ―! やばいわこれ!
どうしたんだい? って! 焦げ臭っ!?
こないだのアレ、チャレンジしてみたんだけんども!
なにそのキッチン一面に横たわる黒いもこもこ。
だからこないだの!
教えた覚えないよ、巨大へび花火の作り方なんて。
あれだよあれ! バラを咥えたドレスの女!
多分正解だと思うけど正解だったら嫌だなあ。……まさか、カルメ焼きかい?
そうそれ! カルメン焼き!
ぼく、発音おかしい? ンの字が聞こえた?
バイト先のみんなに食わせてやりてえって思ってな!
いっぱい作ろうと?
そそ!
このヘビの胴体と我が家の寸胴が同じくらいのサイズなのはただの偶然だと信じたいよ。
すんげえ勢いで吹き出して来てさ! おもろくて見て欲しかったのに!
そっちのやばいだったんだね。でもぼくとしては違う方のやばい気持ちでいっぱいだね。
おもろかったけど掃除大変だなこれ!
何ゴミで出したらいいのかさっぱりだね。まだ成長してるけどガスは止めた?
そりゃもちろん! バイトで学んだからな、おめえはまず火を止めろって!
自殺行為だよね、ワンコ・バーガーさん。
ほんとな! 凜々花をキッチン担当にするなんてな!
自覚があってよかった。ねえ凜々花ちゃん、早く逃げないと蛇が足に絡みつき始めてるよ?
平気だって! 予想外のもんが生み出された時の対処法も教わってっから!
なんて?
こういう時はな? おにいに助けんさいって言うように教わってんだ!
そうか。お兄ちゃん勉強中だからぼくを呼んだんだね?
ううん? おにい、最近凜々花がやらかすと涙ぐむようになったから。
それほどにしょっちゅう?
それほどにでもねえよ? だって凜々花の打率、あの大谷並みなんだぜ?
それほどにだね。
でもこんな料理上手な凜々花でもさ。
その十割バッターですら広げない風呂敷、どこで売ってたのかな?
おにいみたく、舞浜ちゃんに毎日こさえんのはちょいと骨だなって思うんさ。
確かにすごいよね。おにいちゃん、告白上手くいったのかな?
暫定一位って言うとったよ?
それ、番組演出的には最後まで残ってないパターンじゃない。
そう思うよな! だから凜々花が一番得意なご飯作って横取りしようって思ってな?
可愛そうだね。何を作る気だい?
パン!
得意なの?
打率三割!
手を加えなければ十割バッターなのにおかしな話だね。
パンはパンでも食べられないパンは、パーンダ!
やれやれ。料理はね? 愛情を持って丁寧に作れば必ず成功するんだよ?
おお……。確かに料理下手なパパでも、なんとか食えるもん作ってくれるもんな。
上げるとこだよ?
でえじょうぶだって! パパが作ってくれたもんで、思い出に残ってるもんちゃんとあるから!
へえ! じゃあ、一番思い出に残ってるのは何?
みず。
……どういう訳か、勉強を終えて居間に降りてみたら。
『富士山に水を汲みに行って来る』という訳の分からないメモ紙が置いてあった。
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