第十九話 ひとつ終わってひとつ始まる③

 結局そのまま私はアメリーに抱き着かれたままひとしきりのお小言を貰う事になった。

 心配したんだから、どうしてそんな無茶したの、相談してくれなかったの、等々いろいろな言葉が飛び交っていた。

 ……途中からは私を巻き込んだアルバートさんへの罵倒へと変わっていた気がしたけれど。

 その後一旦言いたいことをすべて言い終えアメリーが落ち着いたところでいったん本日の追求は終わりという事になった。

 私は念のため今日まではアメリーの家で様子を見る事になりそのまま次の日を迎えることとなった。

 王都の件については既にアルバートさんからアメリーに話が通っていたため、念のためという事もあり後日準備を終えてから向かう事に決まった。

 本当はアメリーも私達と同じタイミングで王都へ帰りたかったそうだが、私の看病のために無理をして村に残っていてくれたようで、急ぎ戻る必要があるとの事で翌日の昼、王都へ向かっていた。ちなみに入れ替わりでアメリーのお父さんが用事から帰ってきたためアルバートさんは一つ用事を済ませられたようだ。

 そして私はというと


「うーん、この服も持っていきたいけどこれ以上はカバンに入らなさそうだし……」


 と、自分の部屋のクローゼットの前で旅行鞄の内容量との格闘を行っていた。


「この服も良さそうだけど季節的にすぐ着なくなるだろうし……、でも今着ないともう着る機会もないかも?」


 そんなことを言いながらクローゼットを物色する。

 別にお金持ちで服がいっぱいあるわけではなく、自分より年上の村娘達からおさがりを貰う事が多く、田舎の一人暮らしの少女としてはレパートリーがそれなりに存在する。ただそれとは別に母が私のために残したと思われる服もそれなりにあるのだが。


 現在私は王都へ行くための荷物を準備しているところだ。

 本来、検査に行くだけなら長くとも一週間程度で戻ってこれるためここまで服などにこだわる必要はない。

 検査に行くだけであれば。

 私には王都へ行く以外に、もう一つの目的があった。

 それは、タリアヴィル……アピロさんが住んでいる都市へも足を運ぶことだ。

 これはアメリーには内緒の話だ。

 アメリーが旅立った後、私はアルバートさんに数日前に訪問してきた魔法使い、アピロさんの事を相談したのだ。アルバートさんは魔法協会に所属していると言っていたためアピロさんの事を知っているかもしれないと思ったからだ。


『ああ、アピロ・ウンエントリヒの事ですか。もちろん知っていますよ』


 結果予想はあたり、アルバートさんはアピロさんの事を知っていた。

 アルバートさんの話によると、だが悪い人物ではなく、魔法使いとしてはかなり優秀で有名な人物との事だった。

 それにアルバートさん自身も面識があり何度か信頼できる人物との事だ。

 それを聞いて私の心は決まった。

 まだ、魔法使いになるという決心についてはまだ固まっていない、けれどあの人が持ってきてくれた母からの贈り物、そして魔法学校の件。

 あの時聞けなかったこと、ちゃんと聞きたい事が今は山ほどある。

 そしてそれとは別に今回の一件を体験して、私は魔法というものにより強い興味を持ってしまった。

 だから彼女の元へ赴きたいのだ。

 というわけで現在私は王都及びタリアヴィルにしばらく滞在しても良いように荷物をまとめているのだった。

 村の外へ出るのはこれが初めて、正直にいって少し怖い。

 だけど、今回は絶好のチャンスだ。

 普段の私なら結局なあなあで村か出ずに終わってしまうだろうが、今度はきちんとした村を出る理由ある。それならこのチャンスを活かさない理由にはならない。

 一応この計画についてはアルバートさんに相談しており、タリアヴィルについていくことはできないが王都からタリアヴィルへ向かう馬車などについては教えてもらう事になっている。もちろんアメリーには内緒という事で伝えているが……。


「よし、荷物はこれでいいかなっと」


 荷物を詰めてパタンと旅行鞄を閉じた私はそれをもって限界へと向かう。

 そしてキィキィと鳴く建付けの悪い扉開くとそこには支度が終わるの待っていてくれたアルバートさんの姿があった。


「もう準備はよろしいのですが?」

「はい、一応必要なものはすべて詰め込んだので」

「村の方々へのご挨拶などはもうお済で?」

「一応おじいさんとおばあさんには暫くの間の留守にすることは伝えてます。

 あとは念のためアメリーのお父さんにも」

「暫く……ですか。……承知しました、それでは早速向かいましょうか」


 少し含みのある返事ではあったが、アルバートさんはそのまま足を進め始めた。

 王都までの道のりについてはアルバートさんが一緒について行ってくれる事になっていた。忙しい身であり本来は数日前に王都へ戻っていなければならなかったらしいが今回の件で私を巻き込んだ事もあり、案内も含めて態々待ってくれたらしい。

 アメリーといい、私の周りの人達はみんなとてもやさしい。友達や知り合いだけにはものすごく恵まれているといっていいだろう。


(本当にいい人ばっかり、おじいさんにおばあさん、アメリーにアルバートさんも。それに……)


 頭の中でウルの事がよぎった。

 今回の一件の後、結局会話をできずに別れてしまったが王都へ行けば会える機会もあるはずだ。結局お互いに嚙み合わないような状態での別れとなってしまったこともああり彼女ともいろいろと話しをしておきたい。

 会えるはずだ、きっと。

 あれそういえば


「あの、アルバートさん王都へ行くのはいいんですがどうやって行くんですか?

 この時間だと商人の馬車も村にきていないような……」

「ああ、馬車は使いませんよ。ちょうど来ましたね、私達が使うのはです」


 そういって手で空を指す。

 その時だった、突然風を切るような音とともに大きな影が地面に現れたのは。

 そして強い風と共に目の前に現れたのは厳つい鳥のような頭に四本の足、大きな翼を生やした巨体の謎の生き物であった。


「なっななななななんですかこれ!?」

「グリフォンです、ご存じないですか?」

「いえ、ご存じありません……」

「そうですか、結構メジャーな生き物だとおもっていたのですが……。

 まあ安心してください、この子は私達を王都へ運ぶために態々ここまでやってきてくれた子ですよ。ちなみにこの子も私と同じ魔法協会の執行機関所属ですよ」


 そう説明すると同時に鳥のようで少し違う鳴き声を上げた。

 グェー、とでもいえばいいのだろうか。


「馬車では時間がかかりすぎてしまいますからね。今回はこの子に乗って移動しようと思います。まあ、ここからならもあるのですが……」


 鞄はここにと、私の手から荷物を取るとグリフォンと呼ばれる生き物の背についた鞍横に紐で固定し、その後背にまたがるとどうぞと私に腕を差し出す。

 私は少し戸惑いながらおずおずと手を取り私も彼の前に跨る。


「しっかり掴まっていてくださいね。それでは行きますよ」


 その声と同時にグリフォンは首元から生やした大きな翼を羽ばたかせ地面しだいに地面を離れていく。

 気づけばその高さは村を一望できそうなほどのになり後ろを向くと自分の家が小さな粒のような程の距離になっている。

 もう少し名残惜しい気持ちと共に村を出るものかと思っていたが思わぬ移動方法によりあっさりと村から出る事になってしまった。


(だけど、これから私は行くんだ。私の知らない未知の場所へ……)


 そんな不安と好奇心の混じった気持ちと適度な緊張感に私はこれから先起こるであろう出来事に胸を膨らませるのであった。

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