第十話 選ぶ道を決めるのは
「と、いうわけなのアメリー」
「なるほど、と、いうわけなのね……」
母の友人を名乗る魔法使い(アピロ)の来訪の翌日、
私は再びアメリーの家を訪れていた。
アメリーは私の話を聞き神妙な表情になりがらポットから注いだ紅茶を私の目の前に用意する。
「結局その場で答えは出せなくて、この村から出ていくことにもなっちゃうし。そしたらアピロさんが後日改めて手紙でも何でもいいから連絡してって言われたの。えっと、これがその時貰った住んでる場所の住所が書いてある紙で……」
「ふーん、それでエーナはどうするつもりなの?」
「それがまだ考えが決まってなくて、それでアメリーにも相談をって」
「相談ねぇ……」
アメリーは先程よりも顔を険しくしカップの紅茶を一口すすると大きなため息をついた。
「じゃあ私からありがたいアドバイスをあげるわ。
いい?断りの連絡をいれなさい?すぐに手紙を書くわよ。
紙とペンは貸してあげるわ、手紙を届けるのに信頼できる人もいるから私が届けるように手配して……」
「判断が早くない!?」
「あなたね、判断が早いもなにも明らかに胡散臭い話でしょうが!
夜突然家をにきて、母親の友人だって名乗って、
エーナが知らないところで勝手に魔法の学校への入学準備進めてて、
何もかもが怪しいじゃない!
大体その人が本当にあなたの母親の友人かさえも本当かどうかわからないじゃないの!」
「……そういわれると確かに」
「もーなんでそういう所にすぐ頭が回らないのよ。
エーナはいつも場の雰囲気に流されすぎ。大体夜中に女の人が一人でこんな辺境な村にくること自体怪しいでしょうが!挙句に家にまでいれるなんて……」
「言われれば言われるほどその、なんというか、確かに考えてみたら私なんであんな簡単に家に入れちゃったんだろう……」
確かにアメリーの言う通りだった。
昨日アピロが訪ねてきた時、私は緊張と警戒こそすれどアピロに対して不信感や恐怖というもは感じず、さらには彼女が話す言葉にも驚愕はしたが疑うような考えには至らなかった。
もしかすれば、自分の話に信用を持たせるような魔法を使っていたりしたのであろうか?
けれどあの女性から感じた印象は怪しさというよりも……。
「とにかく、いろいろ怪しすぎるし断りの連絡はちゃんといれなさい。
ウルの件もそうだけど、エーナは自分で判断できなさすぎ。
この村の人いい人ばっかりだから今までは言われた通りやっておけば問題なかったかもしれないけど、村を出ればそんなことはないのよ。
そうやって今みたいに言われるがままで行動してたらすぐに身ぐるみ剝がされるわよ!」
昨日よりもきついお叱りがアメリーから発せられる。
私はそのごもっともとしか言えない正論に俯きながらはい、すいませんという言葉をつぶやく事しかできなかった。
「なんか今のエーナ見てると色々心配で、王都に安心して帰れもしないわよ」
「あ、そっか。アメリーも王都に帰らないといけないんだよね……。アメリーはいつ王都に戻るの?」
「本当は荷物の整理とかお父様への用事とか済ませたらすぐに戻る予定だったのだけど、肝心のお父様が数日は戻らないからそれまでは留守番も兼ねて滞在になるかしらね。
だからエーナ、私が帰る迄にはウルの事もその怪しい魔法使いの事も全部片つけて私を安心して旅立たせてちょうだい?」
「やっぱり、話はそこに戻るんですね……」
とはいえアメリーの言う通り、誕生日から起こり続けている問題については早めに解決した方がいいのは確かである。
特にウルの件は直近の課題であり早々に解決すべき事である。
誕生日から既に二日、ウルは明日にはこの村から出て行く予定だったはず。
できれば今日中にはウルに対して答えを伝える事が最善である。
ウルに対する回答、昨日とは違い今の心中ではある程度決まっていた。今のアメリーとの会話でも言われたが私は流されやすく自分のにとっての良し悪しも上手く判断が出来ない。そんな私がウルの使用人と学業を両立する事は出来るだろうか。
「よし、わかったわアメリー、
私まずはこれからウルのとこに行って例の件断ってくる」
「やっとその気になったのね」
「うん、やっぱり私には使用人との兼業なんて出来なさそうだし、もうちょっと自分でどうしたいか考えてみる」
「ならさっさと行ってきた方がいいわよ。あの子あなたと一緒に村から出て行くって未だの言いふらしてるだろうし、スパッと行ってスパっと断ってきなさい?」
「わかったわ。ありがとうアメリー、色々相談に乗ってくれて!」
「と、言うわけで来たはいいけど……」
アメリーの家を後にし私は今ウルの家の前に来ている。
ウルの家はこの村の中心付近に位置しており一際大きな建物だ。豪邸、ではないのだろうが家は3階まであるし外装も他の家とは比べ物にならないし門まである。
私の感覚で言うのであれば豪邸呼べる程のものだ。
今は人が住んでいるわけではないが定期的に清掃がされており、外部からウルの親戚またはその関係者であろう裕福そうな人々が偶に使用する別荘の様な位置付けになっている。
私はギィギィとなる門を開けて玄関前へ行き備えられている呼び鈴を鳴らす。
暫くしてドタドタとなる足音共に扉が開き現れたのは使用人ではなく私の目的のその人であった。
「やっぱりエーナだわ!いらっしゃい!」
「こんにちわウル。あのね例の話の件だけど……」
「まあ、答えが決まったのね!とりあえず中に入って!今後の事も決めないといけないし」
「いや、あのねウル、私やっぱりウルの使用人にはなれな……」
「いいから入って入って!美味しいお茶とお菓子用意するから!」
「ちょ、ウル待って!私の話を聞きいて」
ウルはこちらの言い分も聞かずに腕を掴んだまま私の家の中へ連れ込んだ。
そのまま流れる様にウルの部屋へと引っ張られた私は部屋のベットに腰をかけるように促される。
「ごめんねエーナ、私の部屋の家具も色々王都の方に移動しちゃったから席はそこで我慢してちょうだい。私は床で大丈夫だから」
「その、そんなに気を使わなくても大丈夫よ?あのねウル、今日は例の話について断りに……モガッ!?」
突然喋っている私の口に何かが詰め込まれた。
「それはさっき焼いて貰ったクッキーなの!私も半分くらい作るの手伝ったのよ。
どう?アメリーの焼いた奴よりも美味しいでしょ?」
私はもがもがと口に詰め込まれたクッキーをどうにか砕き、喉へ押し込む。
突然すぎて味などを感じる余裕などなく、私はけほけと咳こんだ。
「突然何するのよウル!
そんな急に詰め込まれた喉に詰まっちゃうでしょうが!」
「だってエーナ、今つまらない回答をしようとしてたよね?」
その言葉と共にウルの顔は表情を失い、ゾッとするような冷たい視線が私を貫いた。
「私、そんな言葉エーナから聞きたくない。どうせアメリーの入れ知恵でしょ?
使用人と学業は両立出来ないとかそんなところかな。私が聞きたいのはエーナの答えよ、アメリーの答えをじゃないわ」
「違うわよウル!確かにアメリーにも相談したけど、私が自分で色々考えて出した答えなの。やっぱり私にはウルのお世話と勉強の両立なんて無理だなって……」
「出来るよ!だってエーナ、昔私が村の子達とケンカした時も取り持ってくれたし、私が拗ねて家出した時だっていつも探しに来てくれたじゃない!」
「それはそうだけど、その話と今回の話は別……」
「別じゃないわ、いつだって私の事をちゃんと見ていてくれたのはエーナだけだもの。
だからお願いエーナ、私と一緒に来てよ!」
今にも泣きそうな声でそう叫ぶとウルは私に向かって抱きついてきた。
少しだけ、懐かしい感覚が頭をよぎる。
昔よく彼女がケンカした時や悲しい事があった時はこんなふうに抱きつかれた記憶がある。そんな事を思い出して、少し心が揺れそうになる。けれどやはり、私の答えは変わらなかった。
「ごめん、ウル。やっぱり私一緒には行けない。自分の事もちゃんと決められない私が、他人の世話するなんて難しいと思うの。だからその話を受けても、逆にウルの足を引っ張って迷惑をかけちゃう。だからごめんね、ウル」
抱きついてきたウルを諭すように私はそう喋りながら彼女を抱き返した。
そのまま暫くの静寂が流れる。
そして数分経っただろうか、落ち着きを取り戻したのかウルはゆっくりと私から体を離した。
「そっか、そうだよね。
ごめんね、我儘言っちゃって。
エーナは私の事も考えてくれてその結論になったんだもんね。やっぱりエーナは優しいね……」
「だって、私達友達でしょ?
迷惑や心配をかけたくないのは当然じゃない」
そうだよね……、とか細い声で彼女はつぶやく。
どうやらわかってくれたらしく、私は少しだけ安堵すると同時に彼女を落胆させた事に少し罪悪感を抱いた。
けれどやはりこれが得策だ。
外界も知らない無知な自分が突然外へ放り出されたところで彼女の足を引っ張るだけだろう。
「ごめんねエーナ。わかったわ。
無理矢理私が説得しようとしたところで、エーナが納得出来ないならダメだものね」
「まあ、そんな感じかしら?
とにもかくにもそんなわけで、今回の件はこれでおわ……」
そう口にしようとしたら瞬間だった。
言葉を遮るように、突然私は何かに口を塞がれた。それと同時に両手を何かに引っ張られ私は仰向けにベッドへと倒れ込んだ。
余りの突然の事に声を出そうとするもの口は何か黒い蠢く影のようなものに覆われおり声を出す事ができない。
同じく両手と両足も同じような謎の影にベッドへ縫い付けられるように縛られており体をまともに動かす事さえ出来なくなっていた。
「ごめんねエーナ、本当はこんな事はしたくなかったの。でもね、こうでもしないとエーナは私と一緒にいてくれないから」
状況が理解出来ない私を前にウルゆっくりと立ち上がり、ベットに縛り付けられた私に向かって先程まで泣き出しそうだったはずの顔を向ける。
「だから、エーナが納得する理由が見つかるまで、私がエーナの面倒を見てあげるから」
そこにあったのは私の知る友人の顔ではなく、見た事もないほどの悍ましさを感じる不気味な暗い笑みだった。
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