第37話 助言者

「……でデータ照合はできた。後は……」 


 部屋に差す日差しはすでに夕方だった。かなめは食事もとらずに検索を続け、ラーナは何とかパンをかじりながら端末で地味な照合作業を続けた。そして東都の一連の法術暴走事件が一人の法術師によって引き起こされたこと、その人物は豊川で死者を出す法術使用を行なったことがデータの上では証明することができた。


「さてと、後は本人を見つければ話は済むんだがな……まあ裁判所がこれを証拠として採用するかは別問題だ。とりあえずのこの資料の使い道は豊川署の馬鹿共にたたきつけるとすっきりするくらい……だな」 


 静かにカウラはそう言った。誠達も結局そうなることはわかっていたものの、これまでの労力を考えると憂鬱な気持ちになる。


 そんな時にコンピュータルームの電源が突然落ちた。周りを見渡す。独特の気配に誠達は嫌な予感に襲われていた。


『俺達の仕事になりそうだな!』


 聞き慣れた叫び声がすべてのスピーカーから響いた。


「島田の馬鹿の手下か……」 


『班長は関係無いですよ。それなら手を引くぜ俺達は。豊川署の署長はそいつを有効に使ってくれるかどうか……微妙なんだけどな……』 


「いえ!すみません!調子に乗っていました」 


 かなめは相変わらずの減らず口を叩く。そこで画面が映し出される。そこには頭にタオルを巻いた技術部の五人の技術士官の姿があった。


「農作業?」 


『仕方ないだろ?グリファン中尉がやるって聞かないんだから。今のうちに土と肥料をなじませないと来年の実りは保障されないんだそうな』 


 背後に耕運機のエンジン音が響く。思い切り脱力しながら誠達は画面をのぞき込んだ。


「今更出てきて何するつもりだよ」 


 かなめの言葉は冷たい。確かに以前から何度と無く協力を頼んでは断られていただけに誠も島田の真意が図りかねた。


『法術適正の際に採取した法術師のアストラルパターンデータ集が東都の住民管理局に眠っているわけだが眠っているだけじゃもったいないからな。それと照合すれば完全に裏が取れる。まあデータの件数は俺クラスじゃないと扱えない規模になるだろうけどな』 


「また無茶なことを……それにそんなところにアクセスするにはそれなりのパスが無いと無理なんじゃねえのか?」


 かなめの言葉に得意げ島田田は話を続ける。 


『そんなものは必要ないね。同盟厚生局とやりあったときに貸しを作ってくれたのはお前等だろ?その取り立てとしてみれば安いものさ』


 かなめの問いに答えながら島田はいい顔で額の泥をぬぐっていた。


「強引にねじ込む訳か……」


「本当にいいんすか?」 


 心配そうなラーナ。だがすでに画面の中ではすっかりやる気の島田がいる。彼がやると言ったらやるだろう。


「止めても無駄みたいね……じゃあお願いするわね」 


 アメリアの声に技術士官達が嫌な顔を浮かべていた。


『まあ……さっさと帰れよ。俺が何とかして明日には結果を出せると思うから』 


 端末の画像が途切れる。カウラが大きくため息をついた。


「ベルガー大尉。所詮我々でのローラー作戦なんて無意味ですから」 


「分かっているが……なんだか気になってな」 


 カウラはそう言うと首のネクタイを緩める。


「何でも自分で背負い込むのは止めた方が良いわよ」 


「なんだよ、アメリア。ずいぶんと知った風を気取るじゃねえか」 


 そんなかなめの言葉にアメリアはにやりと笑うと端末を仕舞う。カウラや誠も端末の終了作業を行なっている。


「で……簡単に分かるものなのか?」


 ネクタイを外したカウラの問いにラーナは苦笑いを浮かべる。


「証拠として採用できる範囲の情報があるかどうか……」 


「そうだよな。連中は犯人を見つけましたというかもしれないが証拠が無ければ逮捕と言うわけには行かないからな」 


「あら、かなめちゃん。『疑わしきは罰せず』と言う刑法の基本も知ってるのね」


 再びチャカしたアメリアの細い目をかなめがたれ目でにらみつけている。


「お二人とも!とりあえず終わりにしましょうよ」 


 誠の言葉で二人は舌打ちしながら離れていく。気分が悪いと言うようにかなめは終了した端末から首につながるコードを抜くとそのまま立ち上がり出て行った。


「単純!」 


 うれしそうに笑いながらアメリアはエラー画像が出た誠の端末を軽くいじって終了させてやっていた。

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