第4話 ねいねを見ててね! ほづみ君!

それから更に1ヶ月後。


「うわー。ねいねちゃん広いねここ!

 中でコミケ出来そう!」

「流石にそれは言い過ぎw

 でも、巨大ロボが一堂に集まるなら

 これくらい広くないと駄目なんだろうね」


と、周りをゆっくり見渡しながら

設営中の会場を歩く知奈とみぅ。


ここは湾岸にある資材用の大型倉庫。

これからロボバトの開会式を行われる為

照明や音響の最終調整中だ。


各チームのロボ発表会もかねているので

追放天使のお披露目となる。


「んー。それにしても……」

知奈は会場の雰囲気にアウェー感を感じていた。


今まで私が見た事のあるスポーツ会場、

同人誌即売会、モーターショーとも全く違う雰囲気。

ショーというよりビジネス臭が遙かに強く、

更に客層がガテン系に偏っている気がする。


この人達の中で何人が今のアニメやVTuberを

見ているのかしら……まって。この人達の前で

お店の制服着けないといけない訳!?

めっちゃ浮くじゃない!えーっ!


知奈は終わったら店長に昇給交渉をしてやる!と

改めて心に決めたのだった。


「知奈さーん」

「そろそろ準備してくれと会長が呼んでます!」

浅野と岸田が私達を呼びに来てくれた。


いよいよね……

実際にロボに乗って1ヶ月。

訓練を繰り返してきてどうにか

思い通りに操れるようになった。

ここまで来たらやるしかないわ!


知奈は気合を入れて待機場に向かった。


……

………


「あらっ。暗転しちゃった」

「音楽も消えたね。もう始まっちゃうのかな?

 ねいねちゃん」


着替えやセッティングも全て終わり

しばらくして開会式が始まった。


一転して煌びやかな光や大音量が会場を包み、

巨大スクリーンからもムービーが流れて

観客の気持ちを盛り上げていく。


一方、出場する各チームは

その端でひっそりとその光景を眺め、

緊張感に包まれる者、逆に気持ちが昂る者と

様々な反応を見せていた。


広い会場は巨大なシートで区切られており、

左半分はロボの待機場となっている。

この後、司会から呼ばれて1機ずつ

入場していく手筈だ。


ここには16機のロボが待機しているが、

並んでみると追放天使の特異さが際立つ。


これは"大人と子供"どころではない。

むしろ"モンスターと人間"に近い。

それくらい差が大きいのだ。


あまりにもチームの雰囲気が違うからか

他チームから話しかけられはしなかったが

雰囲気や表情だけでわかる。


奴らは完全に同好会を舐めていた。


そのオーラを全身に浴びて気圧されている

メンバーの中、二人の男は逆にたぎっていた。


「クククッ。見ていろお前達を驚愕させてやる!」

「これはあなた方から見たら遊びでしょうね。

 そうです。これは遊びでしかありません。

 しかし、遊びだからこそ出来る事もあるのですよw」


…………


主催者による開会の宣言が終わり

司会の声が会場に響き渡る。


『それでは皆様お待たせいたしました!

 今回熱い戦いを繰り広げてくれる16機の

 スーパーロボット達の登場です!!』


待機場にいた運営スタッフの動きも

それに合わせて慌ただしくなってくる。

ついにメインイベントが始まったのだ。


……


一機、また一機と各チームのロボが

チームメンバーと共に会場に入っていき

その都度、歓声と拍手が聞こえてくる。


その光景を見て、知奈は体操選手として

インターハイに出場した時と似た

緊張感と高揚感に包まれていた。


『さぁ、10チーム目は21世紀枠の異色チーム!

 水道橋大学ロボットアニメ同好会です!』


シートの向こうから歓声が聞こえてくる。

知奈は胸ポケットに忍ばせている

八月蒴日のお守りに触れながら祈る。



「ねいねを見ててね!ほづみ君!」




ウィィィン……ウィィィン……


スポットライトを照射されながら

まるで普通に人が歩くように

"追放天使"は自然に会場に入っていく。

その姿を見て会場がどよめきに包まれた。



「ちっちゃ!」

「何だよアレは!」

「パワードスーツ!?」

「あいつらオモチャで戦う気かよw」

「……人?巨人?」

「生身丸出しじゃん! ヤバいって!」

「女の子がパイロットって狙い過ぎw」

「マジかよ……」



そんな声がチラホラと聞こえてくる。

残念ながらほぼネガティブな内容だ。

異端児だから仕方ないのだろう。


その異様な雰囲気の中「どーもどーも!」と

笑顔で手を振りながら歩く会長と内海。


ねいねは大会慣れしてるので普通に歩いているが、

他のメンバーは雰囲気に飲まれてしまった。


そのまま所定の位置まで歩いた後

ゆっくり観客の方に振り向くねいね。

その間も残りのチームが入ってくるが

観客の視線はロボとねいねに注がれている。


運動に向かない可愛い衣装を着た小柄の女が

他のロボよりも遥かに小さいパワードスーツに

乗っているのだ。嫌でも注目されてしまう。


「ま、しょうがないか。

 この姿だと目立たない方がおかしいもんね」


ねいねはゆっくりと客席を見渡し

目をつぶって深呼吸をする。

体操部時代のリラックス法だ。


……


多少の波乱はあったものの

スムーズに全チームの入場が終わり、


『これから約2ヵ月間、この16機が

 死力を尽くし優勝目指して戦います。

 皆さん盛大な拍手をお願いします!』


という司会の声に合わせて

大きな歓声と拍手が巻き起こった。


ねいねはそれを見て安堵の表情を見せる。


「ふぅ。これでひと区切りかな?

 あとは記者やテレビの質問に答えるだけだよね?」


……

………


ねいねは大事な事を忘れている。

隣に立っている男が一体何者なのかを。


ロボットアニメ同好会会長の戸坂明という男は

「いよいよ私の出番だ!うわっはっはっは!」と

心の中で叫んでいるに違いないのだ。




「クックック……」

戸坂は不敵な笑みを浮かべている。




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【次回予告】

【9月12日更新!】


ロボバト開会式は

普通に終わる筈もなく、

戸坂会長がついに本性を現す!?


それを隣で見ているねいねは…


次回 推しVロボ第5話

「どうして? 私、ヒールになっちゃった」

お楽しみに!

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