雪影小太郎
まあ、小太郎が機転を効かせて叫んでくれたお陰で悪漢どもが撤退してくれたのはありがてえが、それにしたってタイミング良すぎるというか都合が良いっていうか。
アゾットは完全に小太郎の事を警戒した様子で、無表情でじぃっと小太郎を見つめてる。
うん。ガラスの瞳で見られるのは氷の視線っつーか、ちょっと気味悪りぃな。一応注意しとくか。
「ええと、アゾットさん。コイツは冒険者志望の
「そうは言うがのう。ちと、都合が良すぎじゃないかのう。妾はこういう甘い面構えだけの人間はどうにも信頼が置けぬ」
「うん・・・そういうちょいと良さげな少年にでも騙されて魔封の縛鎖をはめられでもしたんですかいねえ」
「おーまーえーさーまーぁ?」
ひいっ!
ガラスの瞳がこっち見た表情ないのは怖い怖い怖い!
と、ちょっと引いてる俺を見て小太郎は徐に自己紹介し始めた。
「お初にお目にかかります。雪影小太郎です。
「ああー、そうかいそうかい。しかし、お
昨夜話した時は成人したから独り立ちしに来たみてえな事言ってた気がするんだが。
小太郎はため息を吐いて続ける。
「元服したばかりは資格にならないのだと。元服して一年、なにがしかの仕事に奉公した実績が無ければ、一人前とは認められないと門前払いされてしまって」
「ただし、向こう一年面倒を見る保証人が居れば、登録できると。そう言われたというのじゃな?」
補足を入れながらも警戒は解かねぇアゾットさん。
いや、まあ、俺も小太郎とは知り合ったばっかだし、そこまで信用しちゃあいねえが。悪い奴じゃあねえと思うんだよなあ。
アゾットの態度を左手で頬を掻きながら困り顔で見ていると、小太郎はふむと腕組みをしてアゾットを観察しながら口走りやがった。
「しかし、お姉さんは美人ですね」
「なぁにを当たり前の事を言うておる。エルフをベースにしとるんだから美人に決まっておろう」
「こうしてみると、なんだかお二人は恋仲のようですね。とてもお似合いです」
「そうであろっ!?」
おいコラ少年。
「なぁんじゃ、わかっておるのうお主! いかにもな! 妾とフィンクは何を隠そう
「ただの知り合いでござんすからね?」
皆が羨むほどの恋人同士なのじゃ!
「ただの、知り合いにござんすからねえ?」
そうかそうか、うーむ困った! わかる者にはわかってしまうようじゃなあ。なあお前さま?」
うーんこの。あえて言うなら、俺はお冬ちゃんみてえなちっちゃくて可憐な女性が好きなんだ。人形趣味なんてねえよ。
あ、いや、
どっちにしたって俺が好きなのはお冬ちゃんなんだよ!
「そうそう。わかっちまうようでごぜぇやすなあ。赤の他人って」
あ、またアゾットさんの表情が固まった。
動いてると分からねえが、こうして止まってると美人だけど人形ってすぐ分かるな。
「オマエサマ?」
え。何、その小声の早口。怖いんですが。
ガッション、と、アゾットの両手首がスライドしてカタールが飛び出した。
「おーまーえーさーまーあ?」
「ひいっ!?」
殺気を感じて、俺は咄嗟に駆け出して屯所を目指した。
鬼のような反応速度で刃を振り翳して追いかけてくるアゾット。
ああ、コレ、止まっちゃダメな奴だ。兎に角、屯所に逃げ込んで与力の旦那方に匿ってもらうしかねえ!
脱兎の如く逃げ出す俺と鬼の形相で追いかけてくるアゾットさん。
そしてそれに追い縋るように駆け出す小太郎が叫ぶのが聞こえた。
「ま、待ってください御二方! 喧嘩はいけません、お待ちくだされー!?」
あー全く。なんで俺がこんな目に。
とんでもねえ人外に目を付けられちまったモンだ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます