006【ビルゲンとバオ】

「光に包まれ、目を開くとそこは故郷のゼリアオールス、我が領地ノイタジアであった・・・」


「もう、グラサーナ領ですがね! そんな事より、どう言う事なのでしょう・・・」


「さぁ・・・僕さっきまでガーデイルのダンジョンに居たよね?」


「ええ・・・確かに・・・」


ダンジョンから出たはずのビルゲンとバオは、故郷ゼリアオールスへ飛ばされていた。


長閑な葡萄畑が広がる先に、腰丈程の石垣に囲まれた町が見えていた。


ふたりは見覚えのある景色に混乱しながら、かれこれ1時間ほど立ち止まり、懐かしい故郷を眺めていた。


「ねぇバオ、やっぱりここは・・・」


「ですからそうです! いつまでもここにいても埒が明きません、動きましょう!」


ビルゲンの手を引き、町を目指し歩き出すバオ。


ビルゲンはまだ、夢の可能性を捨てきれないでいた。




「ビルゲン様! お久しゅうございます!」


「ビルゲン様、いつお戻りに!」


「「「 ビルゲン様! 」」」


町の入り口で領民に囲まれるビルゲン。


「やぁココット婆さん、お元気そうで! 皆も元気そうで何より!」


領民の中に居た老人の魔族が、


「ビルゲン様、今まで一体どちらにおいでで、あれからもう2年にもなりますぞ」


「ビルゲン様が、居なくなってから新たに来た領主が随分、兵を集め探しておりましたぞ!」


「ああ、こんな所にいるのが知れれば、またあの領主、ビルゲン様に・・・」


「そうじゃ、早くお逃げになった方が!」


集まる町の領民は、ビルゲンを気遣い逃げる様声を揃える。


「みんな、ありがとう! でも僕はもう逃げないよ! みんなには心配かけたね、必ずノイタジア家をこの地に取り戻して見せるからね!」


「「 おお〜 ビルゲン様! 」」


「ですので、今目立つのは不味いのです! 行きますよビルゲン様! 皆も我々が戻った事は内密にお願いします!」


バオに引っ張られ、町の中へ消えて行くふたり。


取り敢えず、バオのよく知る人物に助けを借りに、町の中の民家へ向かう。




コンコン。


「どなたじゃ?」


「ノイタジアの花を届けに参りました」


家の中からバタバタ慌しい音が聞こえドアが開く。


「おお〜 ビルゲン様! ご無事でございましたか! 爺はこの日をどれほど待ち望んでいたか、バオ! よくお連れした! さっさ、汚い所ではありますが、どうぞ中へ! ここでは目立ってしまう」


ガタイの良い白髪の魔族の老人。


右目に眼帯をし、羊の様なツノが、ビルゲンと違い、歴史の長さを物語っていた。


「突然すまないな[ルト爺]!」


窓から見える中庭の綺麗な花が、老人のささやかな楽しみなのだろう、全てを諦め余生を過ごす、平和そうな生活感を見せていた。


「ビルゲン様、この2年もの間、一体どこへお隠れに!」


以前ノイタジア家に支えていたルト爺に、バオが経緯を説明する・・・




「・・・そうでしたか」


ガタイの良い大きな老人は小さな椅子の上で、ハンカチで目元を押さえながら話を聞いていた。


「ビルゲン様、王がもう長くありません! ゼリアオールスは今、次期王を決めるべく、多くの貴族が名乗りを挙げ、争いも起きておるのです。領地を奪われ、貴族位をあのグラサーナに奪われたとしても、ワシも多くの領民達も、未だ掲げるのはノイタジアの旗! 返り咲くならこの老骨を、どうかお側でお使い下さいませ」


「ルト爺・・・すまぬな! また僕の為に、戦ってもらうぞ!」


椅子を降り膝を曲げ頭を下げる老人。


「ビルゲン様、先ずは変装して町に! 仲間を集めませんと!」


「ああ、だが無一文の僕に、どうやって仲間を集めるんだ?」


「申し訳ございません、爺も食事なら・・・」


「いえ、食べ物ならここに、惣一郎様に・・・」


「ソウイチロウ?」


!!!!!


「ビルゲン様! これ!」


マジックバッグの中には、渡したはずの大金と金色に輝く盾、それに大量の食糧が入っていた。


「ああ〜 惣一郎様! 僕は・・・」


「なんて寛大なお方なのでしょう! 依頼料もそのままに、このダンジョン産の盾と、私が頂いたこの弓を売れば、軍資金は揃いますよ! いえ、きっとお釣りが出ます!」


「ビルゲン様、そのソウイチロウと言うのは、どなたなのですかな?」


「僕に、子を授けてくれるお方です!」


「ビルゲン様、片付いたら必ず、また逢いに行きましょう!」




ビルゲン達は思わぬ後押しに、士気を高め、先ずは町でお金に換える為にと、3人で出掛ける。


フードを深く被り、外套で身を隠すふたりは、ルト爺の後を付いていく。


町の商人ギルドを訪れると、商人ギルドのギルド長が、出迎える。


「よう、ルト爺! またグルピーでも狩って来たのか? いい加減冒険者としてギルドへ登録したらどうだ。あんたならその歳でも問題ないだろうさ!」


「いや、今日は客人をお連れしての〜 こちらの方々が、売りたい物があると言うが、流れ者ゆえ足元を見られん様に、ワシが間にの!」


「へぇ〜・・・『って、アレ! ビルゲン様じゃないか! 何故? いやいやビルゲン様がお姿を隠して来てるって事は、事情がおありなのだろう! ここは気付かないふりをした方がいいな!』・・・あ、ああ! じゃ、部屋で品物を見せてもらえますで、ですか、しょうか、ねぇ!」


「「 ?? 」」


部屋に入りしばらくすると、大きな声が商人ギルド中に響く。


「おいおいおいおい! ダンジョン産の弓に盾だと! しかも魔弓に魔法の盾! これを売るってのか? いやお売りになるのですか?」


コクン。


フードのふたりが頷く。


「高額なのか?」


「ああ、弓は・・・そうだな2万ギーはするな・・・盾に関しては、次期を待てばオークションで200万ギーは、行くと思うが・・・」


ヒソヒソ


「その盾はそんなに高額なのか?」


「ああ、こりゃ魔法の盾だ、しかも回復系! 構えた側から回復魔法を自分にかける! こんな盾が出回れば、国まで絡んでくるかも知れないぞ」


ヒソヒソ


「時間がない待ってる余裕も! 今すぐ換えるとすればいくら出す!」


「ルト爺、茶番はやめよう! ビルゲン様! 私も先代も、ノイタジア家には大変お世話になって来ました、事情がおありの様ですが、もしノイタジア家再建の為ならば、この[ガバナ]、商人ギルド長としてではなく、元ノイタジア領の領民として、お力をお貸しする所存です! 盾はこちらで預かり必ず最高額で売ってみせます! 急ぎ必要な額は私がご用意しましょう!」


「ばれておったか! すまぬな、話の通り僕は、ノイタジアを取り戻す! その為に必要な軍資金をと来たのだが」


「ビルゲン様、今までどちらに! いや、こうして戻って来られたのだ、しかもこんな盾を手に入れて来られるとは、本気なのですね! ならば私も動きましょう!」


「助かるよ!」


「ええ、それで先ずは、グラサーナは自分の領地にいるので、ノイタジア家の屋敷はそのまま売りに出ています。それを買い戻しましょう!」


「おお〜! 屋敷が戻るのか! それは助かる」


「それと、同志をかき集めクーデターを起こしましょう! かかる費用はこちらが用意します! 先ずは、このふざけたグラサーナ領を認めないと領民が立ち上がるのです!」


バオ

「そんなに集まるのですか?」


ガバナ

「2年前、ビルゲン様が姿を消さなければ、皆も集まるつもりだったのですよ! もっとご自分の領民を信頼して下さい! なんでもご自分だけでやろうとせずに!」


ビルゲン

「ぞうであっだが〜〜 ずばぬな〜 ズズズ〜」


バオ

「良かったですね〜 ビルゲン様!」


ルト爺

「これでまた、ノイタジア領が・・・ズズズ〜」


ガバナ

「盾はお預かりします! 私は急ぎクーデターの計画を! ビルゲン様はお屋敷へお戻りに! 手続きや以前の使用人の手配も全てこちらでやっておきます!」


ルト爺

「皆も、戻るのか!」


ガバナ

「ええ、お屋敷が今まで売れなかったのは、売らなかったと言う事です!」


ルト爺

「お主・・・ズズズ〜」


ガバナ

「夜には仲間を連れ屋敷に向かいます。詳しくはその時に!」


鼻を赤くしたビルゲンとルト爺は、バオに連れられ、屋敷に向かう。






屋敷に戻ると、以前のままの状態で維持されており、庭に庭師がひとりで、黙々と作業をしている。


「[コンラット]!」


「まさか・・・ビルゲン様なのですか!」


背の低いドワーフの老人は、手に持つ農具を置き捨て走り寄る。


「ああ〜 ようやくお戻りに! 旦那様が生きておられれば、さぞや!」


「コンラットこそ、何故ここに? 屋敷は売りに出ていたと聞いたが」


「ここは私の大切な場所です! 旦那様達が2年前の戦争でお亡くなりになった後も、必ずビルゲン様がお戻りになると信じて、こうして庭の手入れを許可を貰い、無償でさせていただいていたのです」


「ゴンラッド・・・ズズズ」


「お久しぶりですねコンラット! 屋敷は買い戻しました! またここからノイタジア再建をビルゲン様と共に、必ず成し遂げて見せましょう!」


「バオ殿も、お元気そうで・・・よがった・・・信じて来てよがった・・・」


「コンラットよ、夜には皆が集まるのじゃ! また忙しくなるぞ!」


「ルトよ、ついにこの日が・・・旦那様もきっとお喜びになられておるぞ・・・ズズズ〜」


屋敷の中は、家財などが売られており、何も無い状態であったが、綺麗に手入れが行き届いていた。



そして夜を迎え、集まった領民が屋敷を埋め尽くす。


皆がビルゲンの帰りを喜び涙し、ノイタジア再建へ向けて進み出す。


そしてクーデターの日を迎える。


領地の端に立ち並ぶ元ノイタジア領の領民が、武器を手に、目の前に迫るグラサーナ軍を迎え撃とうしていた。


ルト爺

「皆の者! 正義は我々のものだ! 亡き[ドレーク・エレル・ノイタジア]様の仇を!」


「「「「 おおおおお! 」」」」


戦いは、苛烈を極め、双方に大きな被害をもたらす事になる。


だが、ビルゲンの魔法と、バオの弓が戦況を大きく変えて行き、グラサーナ軍が撤退を余儀なくされる。


多くの死者を出した初戦は、元ノイタジア領民に軍配が上がった。


王位継承争いの中で、領民にクーデターを起こされると言う事は、グラサーナの名を大きく落とす事になり、他の王位を狙う貴族達も、黙ってはいなかった。


弱ったグラサーナに追い討ちをかける貴族も出始め、ビルゲン達は思わぬ援護射撃に救われる事になる。


噂は広がり、グラサーナ領で貧しい生活をおくる領民も立ち上がり、クーデターが連鎖的に勃発し始め、悪い噂も流れ始める。


混沌渦巻くそんな中、最も王位に近いとされたサルベリーノ侯爵が、何者かに暗殺されるという出来事が起きる。


瞬く間に広がる噂に、犯人はグラサーナでは無いかと言われ始めると、その噂を病の床で耳にする王は、


「不正は許さぬ! 即刻グラサーナ伯の王位継承権を剥奪しろ! そんな奴に国民はついて来ぬ」


ビルゲン達は初戦を戦い抜いただけで、あれよあれよと、憎き親の仇からノイタジア領を取り戻す事になる。


だが、これで終わりでは無かった・・・


「オノレヨクモ・・・ユルサヌ・・ゼリアオールスナド・・キエテナクナレ・・・」




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