第15話

 突如浮上した頭デッカチ問題。


 それを何とかするために、私はサークレットをなるべくコンパクトにすることで対応しようとしている。


 そして、対応しすぎた結果、何故かカチューシャみたいな感じになってしまっていた。


 まぁ、これはこれで可愛いし、アリか。


 最初はゴツい近未来的なゴーグルを想定していたから、大分軽量化されたと言えるしね。


「なんか、スゲー緻密なティアラ作ってんなー……」


 ガガさんには、ティアラに見えるらしい。


 カチューシャって概念が、この世界にはまだ無いのかな?


 ちなみに、現在は火入れ、鍛造が終わり、研ぎの状態となっている。


 素材が鉄とはいえ、綺麗な出来栄えにしたかったので、丁寧に研ぎを重ね、煌めきが出てきたところで、【彫金】でひたすら模様を彫っている。


 最初に枠部分をきちんと彫って決めておいて、枠内にデザインを大雑把に刻んだら、後はひたすら細かく仕上げていく作業だ。


 こういうのは、浅く彫るよりも深く彫った方が迫力が出るし、遠目にも目立つんだよねー。


 というわけで、ひたすら繊細に、でも力強く彫っていく。


 フッフッフッ、こういう時のための物攻100オーバーなんですよ! 見た目は小娘の細腕でも、中身は筋肉がぎっしりと詰まっているのです!


 あ。


 やべ。


 深く彫りすぎて穴空いた。


 いいや! スケルトン的なデザインということで、所々、穴を空けてカッコよくしていこう!


 そして、集中すること二時間。


 ようやく完成!


 向かって左に繁栄の蔓草を、右に雲海や翼をイメージしたスピーディーなデザインを左右非対称アシンメトリーに配置してみたよ!


 格ゲーのキャラならキレられるけど、これは自由がウリのLIA。こんな細かなデザインをして、左右非対称でもちっとも怒られない!


 で、所々、穴を空け過ぎたせいで防御力はほぼお察し。


 いいの、いいの! 防具としての機能はほとんど求めてないから! 頭が飛ばないためのストッパーとしての役割しか期待してないから!


 そういう意味でも頑張ってね、サークレットちゃん!


「よし、出来た!」


 それにしても、手作業でやってたからか、思ったよりも時間が掛かっちゃったね。


 後は、これを卒塔婆――じゃなかった、平べったい棒に溶接して、鎧の背面にくっつける接続部を作ればオッケーだね。


 私の出来上がりの声に気付いたのか、ガガさんも難しい顔をして、眺めていた剣から顔を上げる。


「……お前は何だ? 貴族か王族でも目指してんのか? そんだけの繊細な仕事、一般人が身につけるシロモノじゃねーぞ?」

「いや、私、一応、首なしですので」

「だったらいいのか? いや、納得いかねぇ……」


 そうは言われましても……。


 でも、王族や貴族が身につけるレベルだって言われると、ちょっと嬉しい。


 ガガさん、口は悪いけど、思ったことは素直に言葉にしてくれるから、それだけ、私の仕事を良いものだって褒めてくれてるってことだからね。


 何か認められたみたいで、ちょっと嬉しいな〜。


「それより、腹減ったわ。飯にしよーぜ」

「じゃあ、今日はシーフードグラタンにしましょうかー。あ、炉の火は落とさないで下さいよ?」

「分かった。お前さんの作る料理はウメェからな、期待してる」


 …………。


 なんで、こういうことサラリと言うかなー?


 そして、それを聞いて、ちょっと嬉しくなってる自分がチョロ過ぎなんですけど!


 むー、ガガさんの分、少しだけ多くしてあげよう! もう、仕方ないなぁ!


 ■□■


「そういえば、ガガさんの魔剣の方はどんな感じなんですか?」

 

 食後の一服をして、ガガさんの険が取れたところで尋ねる。機嫌の悪いガガさんに、気軽に話なんて振れないしね。殴られるのが目に見えてるし。


「ミスリルを使って剣を作るって言ってましたよね?」

「おう。ミスリル合金は出来たし、それで剣も打った。けど、魔剣にはならなかったな」

「やっぱり、混ぜるミスリルが少なかったんですか?」

「あのなぁ……。ミスリルは混ぜる量が多ければ多いほど良いってワケじゃねぇんだよ。適量があんだ。今回はその適量を混ぜた上で、【獄炎草】の灰を剣を打つ時に混ぜた」

「えっと、どゆこと……?」

「ちったぁ考えろよ。ミスリル合金には魔力を通しやすい性質がある。そこに、炎の属性を宿してるっていう【獄炎草】を混ぜて打ったんだ。予定では、炎の魔剣が出来るはずだったんだが……」


 普通の【ミスリルの剣】が出来上がったと。 


「俺の予想じゃ、ミスリルの相方に選んだのが【鉄のインゴット】だったのが悪かったのか、それか【獄炎草】のアイテムレベルが低かったかのどちらかじゃねぇかと睨んでるんだが……」


 【獄炎草】は炎の属性を宿すといっても、所詮は商業ギルドのD級のレシピに載ってる存在なので、ガガさん曰く「ミスリルって高級素材に気後れして、効果を発揮できなかったんじゃねぇか」ということらしい。


 一方のミスリル合金に関しては、合金の相方に鉄を選んだのが、もしかしたら魔力の伝達を阻害して、【獄炎草】の効果を発揮しきれなかったのかも、とのこと。


 ガガさん的には、どちらかの問題を解消して、再度挑戦したいみたいなんだけど、【獄炎草】を超える素材にも、魔力伝達力に優れた合金用の素材にも心当たりがないらしく、頭を抱えているという状態のようだ。


 うーん、魔力伝達かぁ。


 魔力、魔力……。


 ん?


 あれ、どこかで聞いたことある気が……。


 あ!


「あのー。ガガさん、コレ使ってみます?」


====================

【水晶鋼】

 レア:6

 品質:高品質

 性能:生産素材

 備考:魔力を含む鉱物を好んで食べる生物から稀に取得できる鉱物。高い魔力と鉱物の如き硬さを誇り、加工するのも難しい。

====================


 【鑑定】のレベル上げで、手に入れたアイテムを片っ端から確認していた時に、そういえば、こんなフレーバーテキストを見ていたのを思い出したんだよねー。


 私が【収納】から【水晶鋼】を取り出して、ガガさんに手渡すと、ガガさんは難しい顔をして【水晶鋼】を見つめる。


 半透明の、見た目がガラスにも見える鉱物だから、不審に思ったのかもしれない。


「なんだこれ?」

「【水晶鋼】っていうアイテムなんですけど、それなら高い魔力を含んでいるみたいなんで、魔剣の素材に丁度良いかなーって」

「聞いたことも、見たこともねぇな……。希少な物じゃねぇのか?」

「結構、希少だとは思いますけど」


 だけど、私の【収納】の中にはゴロゴロ入ってたりするんですよー。


 ――とは言えずに、言葉を濁す。


 ガガさんには、クリスタルドラゴンの一件は話してないんだよねー。


 言っても信じてくれなさそうだし、ポカリとやられるだけだって分かってるからね。君子危うきに近寄らずってね。


「ちっ、分かった。言い値で買ってやる」


 どうやら、【水晶鋼】はガガさんのお眼鏡に叶ったみたい。


 けど、お金よりは……。


「だったら、その【水晶鋼】を使って打った魔剣が欲しいですね。ちょっと強い武器が欲しかったんですよー」

「魔剣にならねぇかもしれねぇぞ?」

「でも、ほぼA級の鍛冶師が打つ剣でしょう? 魔剣にならなくても、ミスリル合金を使った剣ってだけでお釣りがきますよー。むしろ、もう少しくらいなら追加で【水晶鋼】を出しても良いぐらいです」

「言ったな。追加であと五つで打ってやる」

「いいですよ、はい!」


 私が【収納】から軽い感じで【水晶鋼】を取り出すと、ガガさんは目を丸くする。


 希少な物の割に、扱いが雑だったのがいけなかったのだろうか? 驚いてる感じだね?


 まぁ、私としても希少な物だから、そんなに出したくはないんだよ?


 でも、現状、私の【鍛冶】レベルでは【水晶鋼】はインゴットに変えることも出来ない死蔵の素材。ほぼ【収納】の肥やしなのだ。


 だったら、当代最高ランクのA級……に近い鍛冶師に剣を打ってもらって、それを自前の武器とした方が、私としてはオイシイと思うのだ!


 まぁ、素材はまだあるんだし、腕が追いついたその時は、今度は私の腕で仕上げてやるけどね!


「分かった。国宝級をひとつ作ってやろうじゃねぇか」

「お願いしまーす!」


 というわけで、私はガガさんに剣の製作を依頼して、午後はそんなガガさんの邪魔をしちゃいけないと思い、工房の外へと出るのであった。


 ■□■


「さてと、そろそろ再開しよっかなー?」


 え、何を? って、そりゃあ【錬金術】と【調合】のクエスト消化ですよ!


 はい! 私、まだまだ『笑いが止まらない状態』になることを諦めてません!


 そう、ギルドランクを上げて、【蘇生薬】のレシピを手に入れて、プレイヤーに売って、左団扇でウハウハ計画はまだ頓挫してないのですよ!


「夏休みとか冬休みとかの長期休暇で旅行に行く時も、宿題は持っていっちゃうタイプだったからねぇ、私」


 やるとは限らないけど。


 やるとは限らないけど!


 というわけで、ガガさんに引っ付いて森の奥に行くと決まったその日に、ミレーネさんに準備するように言われた私は、何よりも先にD級の依頼掲示板のスクリーンショットを撮った。


 しかも、【調合】と【錬金術】の両方とも。


 それに加えて、ささっと冒険者ギルドにも立ち寄り、植物や鉱物の図鑑なんかにも軽く目を通している。


 うん、【バランス】さんだからね。


 軽く目を通すだけで、全部把握できちゃうんだ。


 というわけで、私は現在、視界の端で依頼の内容をチラチラ確認しながら、その材料を森の中で探している最中となる。


 一応、【鑑定】を掛けると、その素材の名前が分かるので、依頼のクリアに必要な物のレシピに名前があるかどうかを確認してから、素材を次々に【収納】の中へと放り込んでいく。


 【調合】や【錬金術】は専用の道具がないと出来ないので、今すぐに依頼の品が作れるわけじゃないけど、素材だけでも集めておけば、今度、街に行った時に数多くの依頼がこなせるようになるわけだ。


 そして、数多くの依頼をこなしたあかつきには、C級に上がれるというわけ!


 あと、何よりも、タダで素材が手に入るのは嬉しい!


 ミレーネさんから買ってた素材も、結構馬鹿にならない値段だったので、これは有り難い要素ですよ!


 というわけで、素材を乱獲、乱獲〜!


 【鑑定】しては、【収納】して〜、みたいな地道な作業をずーっと続け、空も暗くなってきたところで、そろそろ撤収の頃合い。


 別に夜遅くまで【採取】しても良いんだけど、お腹を減らしたガガさんを待たせるのも申し訳ないしねー。


 あと、夜はモンスターが凶暴化するっていうのもあるし……。


 というわけで、少し急ぎ足で工房に戻る。


 今日もなかなか良い素材が集まったなぁ、とホクホク顔で工房のセーフティエリアに足を踏み入れたら、中からおもむろに人影が出てきたよ。


 あら、珍しい。


「…………」

「あ、どーも」


 うわー、美人さんだねぇ。


 工房から出てきて、いきなり私を見つめてきたのは、金髪に軍服みたいな服を着た黒マントの女性。


 彼女は紅い瞳で私を睨むように見た後、


「ふん……」


 どこか、面白くなさそうな鼻息と共に、夜の森の中へと消えていった。


 いや、大丈夫?


 夜のモンスターって凶暴になるって話だよ?


 凄く危険なんじゃない?


 そんなことを思いながら、彼女の背を見送っていたら、


「玄関先で何やってんだ?」


 ガガさんに話しかけられた。

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