猫歴68年その3にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。錯覚だから許してね。


 わしがキンペイ首相を殺しかねないことをしたことはイサベレの口からリータとメイバイにチクられたけど、その2人も玉藻前たちに似たようなことをしていたので歯切れが悪い。

 でも、イサベレも玉藻前たちと戦いたかったとスネていたので、この話はおしまい。戦闘狂を宥めるのは大変だ。


 次の日は、ようやく世界金融会議の開幕。発起人のアンジェリーヌが開会を告げたけど……わしは?

 またアンジェリーヌにいない者として扱われ、テーブル席に移動して着席したら、東の国と猫の国の為替研究チームが壇上に立ち、完璧な説明をして質問に答えている。


「しっかし、前回と違ってちゃんと会議になってるにゃ~」


 前回の世界金融会議は学力差がありすぎてついて来れる人がいなかったので、わしは感慨深く思ってアンジェリーヌに話を振った。


「ですね。おじ様が大学を開放してくれなかったら、ここまで賢い会話はできなかったでしょう。それがなければ、猫の国に騙されて搾取される未来が……」

「ないにゃよ? わしがそんにゃことしないって知ってるにゃ~」

「そうですけど、猫の国の誰かがやる可能性はありましたよね? 例えば、昨日のあの男とか……」

「首相にゃ~……権力持ってるから確かに否定はできないにゃ。でも、もう手遅れにゃろ」

「手遅れと言うことは……ま、まさか……」

「殺してないにゃ~~~」


 アンジェリーヌが青い顔して勘違いまでしていたので、擬似的に殺したと説明したけどあまり顔色は変わらない。この方法なら何回でも殺せるもんね。


「学力の話にゃ。もう他国を圧倒するようにゃことはやれないから安心しろにゃ」

「そういうことでしたか。つくづくおじ様がいい猫でよかったです。悪い猫なら、今ごろ世界中が魔猫王を倒せと手を取っていたでしょうね」

「わしも人換算してくれにゃ~~~」


 アンジェリーヌは納得したようだけど、話の中にちょくちょく「猫」が入るので、わしはいまいち話が入って来ないのであったとさ。



「にゃ? フランちゃんが出て来たにゃ」


 わしたちが話をしている間も会議は進んでおり、為替研究チームの目的やシステムなんかの説明が終わったところでアンジェリーヌの娘のフランシーヌが壇上に立った。


「おじ様は知らないみたいですけど、研究チームのリーダーはフランがやっていたのですよ」

「そうにゃの? にゃんで隠してたにゃ?」

「一度も会議に顔を出さないから知らないだけです……」

「わし、行ったことあるようにゃないようにゃ……」

「いつもどこで会議を開いていたか知ってます? 城でもサンドリーヌタワーでもありませんよ??」

「じゃあ知りませんにゃ~……すいにゃせん」


 言い訳は難しいので素直に謝るわし。こんな難しいこと、わしもやってられないから人員を送り込んだあとは経過を聞く程度だったから、そりゃ怒るよね~?


「ありゃりゃ。めっちゃ紛糾してるにゃ~」

「ええ。さすがにお金の価値を勝手に決められたら怒るでしょうね」


 フランシーヌの担当は、一番揉めるところ。きちんとした基準をもうけて説明しているのに、納得がいかないと出席者はいきどおっている。


「でも、フランちゃん、涼しい顔をしてるにゃ~。さすがは次期女王にゃ。アンちゃんの教育の賜物だにゃ」

「私は少しだけですよ。お母様が積極的に教育してくれた結果です」

「あのさっちゃんがにゃ??」

「私の時は、お婆様頼りにしていたことを反省しているんですよ」

「あ、確かにそんにゃこと言ってたにゃ~。でも、さっちゃんだからにゃ~」


 信じられないさっちゃん話を10分ほど聞いていたら、紛糾していた会議場はお昼休憩に。出席者の半分近くはまだ立ち上がらずに、ああだこうだ話し合っている。

 わしたち発起人は、控え室にて豪華なランチ。為替研究チームもリータたちもいるよ。為替研究チームはこんなところに放り込まれても、なんかブツブツやり合ってる。研究バカばっかだな。


 フランシーヌはチームのリーダーでも王族なので、わしたちと一緒に優雅にランチしてる。なのでわしはフランシーヌのことを褒めまくってあげたけど、社交辞令程度の返ししかしてくれない。なんなら話題もさっちゃんの話ばかりだ。

 それでも楽しいランチは後半になると、アンジェリーヌとフランシーヌの顔に緊張が見える。世界金融会議はここからが本番。これから各国の王を説得して仲間に引き込まなくてはならないのだから、気持ちを切り替えているのだろう。


 休憩時間終了が迫ると、2人は覚悟を決めて立ち上がるのであった……


「にゃ? にゃんで2人してわしの腕を組んでるにゃ??」

「ここからはおじ様に頑張ってもらわないといけませんので。てへ」

「お婆様からも『シラタマちゃんなら余裕余裕』と言われてますので。てへ」

「やっぱりさっちゃんの血筋にゃ~~~!!」


 一番面倒なところは白猫頼り。だから休憩間近に一番揉める話をして、わしに押し付けようとしていたからフランシーヌは涼しい顔をしていたのだ。

 2人にガシッと腕を組まれたわしは、床に足もつけられずに会議場に連行されるのであったとさ。



 会議場に戻ると、壇上には長テーブルとみっつのイスが用意されていたから、わしが連行されるのはプログラムの内だったのだろう。参加者もまだ全員揃っていないところを見るに、休憩時間もわしの聞かされていた時間では無さそうだ。


「おじ様、この通りやってくれたら丸く収まると思いますので」

「えっと……ちょっと待ってにゃ……」


 アンジェリーヌから渡された用紙に目を通してみたけど、わしはやりたくない。


「いや、これ、わしがめっちゃ怖がられにゃい? 東の国ばっかり美味しい思いしようとしてにゃい?」

「そんなことないですよ~。おじ様、お願い~」

「甘えられてもだにゃ……」

「「モフモフ~~~」」

「それは甘えてるつもりにゃの??」


 2人してお願いしているのかと思ったけど、ただモフモフしているだけ。ただし2人はわしを離してくれないので、逃げ出せそうにない。

 そんなことをしていたら出席者がどんどん着席して、会議が再開してしまうのであった。



「えぇ~……発起人の1人、シラタマにゃ。為替導入に反対意見が多々あるみたいにゃけど、にゃにが問題にゃの? あ、一斉に喋らないでくれにゃ。ここは~……西の王に代弁してもらおっかにゃ。マイク回してやってにゃ」


 アンジェリーヌとフランシーヌから異様に近い位置から挟まれていたわしは、全員の目が痛かったので仕方なく喋って、西の王と対決する。


「では、皆を代弁して言わせてもらおう。金の価値はいまのままでよいのではないか? そのほうが他国とのやり取りは簡単で迅速にできるだろう?」

「まぁそういうコスト面の心配はわかるにゃ。でもにゃ、資料の13ページを見てくれにゃ。モニターにも出してくれにゃ」


 後ろのモニターに国別に調査した商品の値段表が映し出されたら続きを喋る。


「この商品は、どの国にもあってできるだけ値動きが少ない物を抜き出しているにゃ。つまり、同じ値段じゃないとおかしい物だにゃ。どうにゃ? 大国ほど値段が高く、小国ほど安くなってるにゃろ? 見ての通り、大国は損をしてるにゃ。放置していていいにゃ??」

「うっ……しかしだな……」

「西の王が渋っている気持ちもわかるにゃよ? 鉱物の輸出が多いもんにゃ。でもにゃ。うちからしたら、西の国の鉱物ってお買い得なんにゃ。この表を見る限り、通貨の価値だけで5%引きで買えてるんにゃもん。にゃははは」


 西の王はわしに馬鹿にされたと思って、ちょっと怒った顔になった。


「シラタマ王は、それを知っていて取り引きしていたのか……」

「いんにゃ。調べて初めて知ったにゃ。だから、為替レートを決める機関が必要なんにゃ。わかってもらえたかにゃ?」

「うむ……」


 わしに言い負かされた西の王は、悔しそうに腰を下ろした。


「それでにゃ……先ほどフランシーヌ王女が説明した通り、ここで大事なのが、正確な情報にゃ。最低でも国の資産、国債の発行額、労働者の平均給料、指定した商品の価格……せめてこれだけは出してもらわないと話にならないにゃ」


 各国は猫の国と違って王制を取っている国が大多数なので、お金関係はあまり表に出したくない模様。わしがどんなに説得しても、唸り声ばかりが聞こえてる。



「しょうがないにゃ~……」


 ここまでらちが明かないのでは、わしも最終手段を使わなくてはならない。アンジェリーヌもフランシーヌも「行け! やれ!!」って口をパクパクしているのは関係ない。


「わかったにゃ。賛成してくれる国だけでやるにゃ。そのかわり、反対してる国は、計算がおろそかになるかもしれないのはわかってくれにゃ」

「「「「「ちょちょちょ……」」」」」


 やっぱり困るらしい。わしの言い方だと、明らかに通貨の価値を落とされそうだもん。アンジェリーヌたちはガッツポーズするなよ。わしが恨まれることが、そんなに嬉しいのか?


「勝手にやられるのが嫌にゃら、賛成に回れ……にゃに? にゃ??」


 わしが最後通告をしている時に、フランシーヌから肩を叩かれたのでそっちを見たら、逆からアンジェリーヌにマイクを奪い取られた。


「では、これならどうだ? 国の資産公開だけは大目に見るというのは? それならば、皆も表に出しやすいだろう?」


 そして落とし所を言うだけで、各国は全員賛成に回った。


「し、してやられたにゃ……」


 そりゃ最強のわしが強く出て、東の国が緩和したら、各国も落としやすいでしょうね! しかも、資産公開は外す予定で書かれてやがったのだ!!


「「てへぺろ」」

「ブチッ……」


 ダブルてへぺろはさすがにわしの血管もキレちゃった。しかし、せっかく全員賛成で決まったのだから、怒るに怒れないわしであったとさ。



 世界金融会議は全会一致で為替導入が決まったので、全ての国からサインだけいただいたら、あとは後日に実務者レベルで早い導入を目指す。

 今日は思ったより早く終わってしまったので、後夜祭も前倒しで。パーティー会場では、わしは「にゃ~にゃ~」文句タラタラだ。


「筋書きと違うにゃ~。2人はわしを宥めて信用を勝ち取るってなってたにゃろ~」


 そう。アンジェリーヌから渡された台本には、怒ったわしを宥めるとなっていたのだ。


「それを言ったら、おじ様もぜんぜん喧嘩腰にやってくれなかったじゃないですか? 論破しても怖くありませんよ」


 そう。わしも台本通りやってない。昨日もやらかしたのに、これ以上怖がられたくないの。


「わしは優しい猫さんにゃもん。口で勝てるなら口で勝負するに決まってるにゃ~」

「それなんですが、なんであんなに詳しかったのですか?」

「馬鹿にしないでくれにゃい? ちゃんと資料に目を通して来たにゃ~」


 アンジェリーヌたちはわしが会議に参加しないので、無策で乗り込んで来たと思っていたから、あんな悪役猫に仕立てる作戦を立てたらしい……


「それにしても、第三世界の為替とは大きく違った形になってしまいましたけど、本当にこれでよかったのですかね?」


 わしたちが作ろうとしている為替機関は、他者が介入できない各国のお金事情だけで決まるから、アンジェリーヌも少し心配なようだ。


「いいんじゃにゃい? これにゃらマネーゲームに使えないにゃろ。国が介入したり、噂や企業の倒産だけでお金の価値が乱高下されたら民の生活に影響が出るしにゃ」

「ウフフ。自分の国の民だけでなく、世界中の民の暮らしを心配するなんて、おじ様らしいです」

「そうかにゃ~? どちらかというと、汗水流さずマネーゲームだけで儲ける人が嫌いなだけにゃんだけどにゃ~」

「どちらでもいいんじゃないですか? 結果、民が幸せになるなら」

「やめてくれにゃ~」


 ここまでヨイショされると、わしも恥ずかしい。後夜祭もお開きになったら、わしは気分良く猫の国に帰るのであった。


「お母様の言う通り、思ったよりチョロかったわね」

「はい……敵に回したら怖いですけど、これだけチョロかったら操れるのでは?」

「それはやめるようにお母様に言われているでしょ。末永く友好的にしていたほうが、東の国のためになるはずよ。絶対におじ様を怒らせてはダメよ」

「そうですね……馬鹿ではないのですから、下手な策略は見抜かれますね。ここぞという時に、お願いしていきます」


 しかし、アンジェリーヌとフランシーヌは陰口。さっちゃんの手の平の上で踊っていたとはわしは気付いていなかったが、この行為は危険を伴うから友好的にするしかないと、2人は勝って兜の緒を締めるのであった……

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