猫歴68年その1にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。穏やかな人ほど怒ると怖い。


 猫会での居眠り禁止法案を政治家にムリヤリ作らせたのはわしなのに、その猫会でお昼寝していたのだからリータとメイバイにこっぴどく怒られた。

 これで終わればよかったのだが、元天皇陛下のウロからはめちゃくちゃ丁寧な言葉でしっとりと怒られたので、こっちのほうが怖い。新手の拷問なのでは? 掻いたことないような汗を掻いたもん。


 この3人の拷問をなんとか乗り切れば、わしの猫会通いは停止。反省した姿を見せて、狩りやボランティア、時々遺跡発掘。空いた日はだいたい他所様の家の屋根でお昼寝。眠いの。

 これならバレないから野良猫になりきり、週末なんかはウロと一緒に第四世界観光。今回は世界中の大都市巡りなので、中世辺りの建築物や遺跡が大量にあるからウロも感動だ。


 そんな感じで遊んでいたら、アメリヤ王国ではウロが大爆笑。こんなにはしたない天皇陛下を初めて見たよ。


「にゃにがそんにゃに面白いにゃ?」

「ヒッヒッ……自由のネコゴン。ヒーッ!」


 巨大建造物、大怪獣ネコゴンがツボに入ったらしい。でも、天皇陛下って引き笑いだったのね。いい加減にしないと息止まって死ぬよ?


「小説には載せてないんにゃけど、ネコゴンの口から空一面に炎を吐いて、アメリヤ王国を脅したんにゃ」

「ヒーーーッ!?」

「いわんこっちゃにゃい……」


 笑いを止めてあげようと怖い話をしたら、ウロは笑いすぎて失神。とか思っていたけど、わしの脅威を知ってるから驚いて失神したんだって。本当はわかってた。

 というわけでウロはわしに怯えて震えているので、アメリヤ王国は原住民を奴隷にして酷いことをしていたからお灸を据えたと説明したら、なんとか落ち着いてくれたのであった。



 そうこう楽しく暮らしていたら猫歴68年になり、アンジェリーヌと連絡を密に取り合う。そして世界中の国にも打診したある日、ソウ出身のじいさん首相、キンペイに報告してから旅立とうとしたら、待ったが掛かった。

 ちなみにラサ出身の前首相は僅差で敗れやがったから、大事な時期に交代。苦肉の策で、キンペイ首相に掻き回されたくなかったから、為替のことは秘密にしておいた。教えたのは1ヵ月前だから、もうややこしいことはできないと思われる。


「まだにゃんかあったかにゃ?」

「どうして私は連れて行ってくれないのですか!? 首相ですよ!!」


 でも、こんな大イベント、無理だよね~?


「にゃ? 行きたかったんにゃ……」

「当たり前じゃないですか! 世界中の要人が集まる会議なんですよ? 猫の国の首相が出ないで誰が出るのですか!?」

「……王様のわしかにゃ?」

「国民の代表の私ですよ!!」


 わしとしては正解を言ったつもりだけど、キンペイ首相は超うるさい。でも、言い分はさもありなん。


「そんにゃに行きたいんにゃ~……ま、いいにゃ。でも、仕事は大丈夫にゃ?」

「この日のために空けていました! 勉強もバッチリです!!」

「この短期間に頑張ったにゃ~……わかったにゃ。連れて行ってやるにゃ。ただし、はわきまえろにゃ?」

「はいっ! お供させていただきます!!」


 キンペイ首相はいい返事してくれたから、まぁ大丈夫かな? でも100人近く連れて行こうとしていたから、わしは「3人まで絞らないと連れて行かない」と言ってこの日は別れたのであった。



 翌日……キャットタワー王族居住区に、大荷物のキンペイ首相たちがやって来た。何が入ってるのかを聞いたら着替えとのこと。うちでももっと少ないのにと思ったけど、減らすのも面倒なのでわしが荷物持ち。次元倉庫に入れてあげる。


 今日のお出掛けは難しい話をするので、わしと王妃のリータとメイバイ。イサベレはキンペイ首相の警護担当を兼ねてもらっている。コリスはついて来てくれない。

 プラス、システム担当のギョクロにもお願いしたけど、出番が少ないとうるさいベティ&ノルンと、ドレスアップしたキアラは誘ってない。王様のコスプレ見たいって、アレはコスプレじゃないぞ?


 キンペイ首相の連れて来た人は、奥さんと秘書だけ。キンペイ首相と奥さんもなんかドレスアップしてるけど、キアラより派手だな。浮きませんように!

 予定していた人数より倍になってしまったが、このメンバーで三ツ鳥居を潜ったのであった。


 やって来たのはハンター協会総本山。大会議場にある主催者控え室にエスコートされたら、わしから入って挨拶をする。


「アンちゃん。早いにゃ~」

「この日のために頑張ったんですもの!!」


 そこでは東の国の出席者が揃い踏み。わしが声を掛けるとアンジェリーヌは鼻息荒く寄って来たので、モフらせてクールダウンだ。


「フランちゃんも来たんだにゃ」

「はい。後学の為、ついて来ました。私もおじい様をモフっていいですか?」

「血は繋がってないんにゃから、おじ様と呼んでくれにゃい?」


 フランちゃんとは、アンジェリーヌの第一子で東の国の次期女王で本当の名前はフランシーヌ。さっちゃん譲りの美貌を兼ね備えてモフモフ好き。わしの年齢が70歳なので、おじ様って言葉に引っ掛かるらしい。

 その2人にサンドイッチされてモフられていたけど、面白いことにはなんでも首を突っ込んで来るあの人が見当たらないので聞いてみる。


「さっちゃんは来てないにゃ?」

「はい。お母様は遠出は辛いと仰っていましたので欠席しています」

「そうにゃんだ……」

「そんな顔をしないでください。本当は難しい話を聞きたくないだけですよ。今日もゴルフに行くみたいです」

「心配して損したにゃ~」


 さっちゃんは歳なので、体調を崩したのかと思ったのにまだまだ元気そうで安心した。これでわしも笑顔が戻ったので座って世間話をしていたら、アンジェリーヌたちが立ったままのキンペイ首相をチラッと見た。


「あの方たちは、どちら様ですか?」

「ああ。うちの首相とその奥さんにゃ」

「そうですか。それでお母様がですね……」


 でも、興味なし。キンペイ首相たちは目が合ったので何やら期待した顔になっていたけど、まったく話し掛けられなかったのでずっとヒソヒソ喋っている。

 リータたちもわしたちの輪に入って世間話をしていたらノックの音が響き、係の者が呼びに来たからわしたちは全員でパーティー会場に向かうのであった。



「皆の者、忙しい中よく参られた。明日からは為替の話で頭がいっぱいになるだろうから、今日は頭を空っぽにして楽しもうではないか。乾杯」

「「「「「乾杯。わははははは」」」」」


 このパーティーは、世界金融会議のレセプションパーティー。出席者の王族や金融担当者が全員揃ったと聞いたから、発起人のアンジェリーヌは壇上に立って挨拶したのだ。

 わしは……アンジェリーヌをエスコートすることが仕事だったのかな? マイクも向けられていないから、アンジェリーヌが美味しいところを持って行こうとしてる気がするけど……ジョークが受けて嬉しそうだな。


 まったくわしは挨拶はしてないけど、パーティーが始まってしまえばわしが大人気。各国の王様がわしの下へやって来て、挨拶と今後の話をして行く。

 次に人気なのが、アンジェリーヌ。為替のことについて聞かれて軽く説明しているけど、わしにも聞いてくれてもいいのに……わからないとでも思っているのか?


 3番手は、リータたち。猫の国の王族なので、挨拶に来る人が多い。何を話しているかと言うと、縁談話。子供はいい歳なので関係ないが、孫がまだ学生だから今のうちに抑えておきたいみたいだ。

 その攻撃に、リータたちは「本人の自由意思」と答えてすかしている模様。長年王妃をやっているからやっと慣れたみたいだ。ギョクロは空気になってメイバイの膝の上。ぬいぐるみに擬態してやり過ごしているっぽい。


 ただし、縁談話を横取りしようとベティ&ノルンとキアラが手ぐすね引いてる。どうやらベティは70歳になって、今ごろ焦り出した様子。猫の国の王族とか噓ついてイケメンを狙っているみたいだ。

 ノルンは……結婚しても子供が産めないから無理じゃね? 例え王族と噓ついても、こんな人形に大事な息子を預けるワケがなかろう……偉い人も迷惑そうにしてるもん。


 キアラもイケメン狙い。正真正銘の王族だから人気はあるが、第一皇子を婿養子にしようと無理を言ってるから無理っぽいな。

 それがダメなら第一王女って……見境なくない? てか、わしのところに苦情が舞い込んでいるから黙ってろよ。ベティ&ノルンもじゃ!



 普段顔出しの少ない猫の国の王族が出席しているのだから、なんだかんたでパーティーは大盛り上がり。各国の王族も他国の王族と仲良く話をしている。


 そんな中、まったく相手にされない者もいる……キンペイ首相だ。


 最初は奥さんと一緒にわしたちの近くに用意された席にいたのだが、誰も寄って来ないからずっとキョロキョロ。1時間も過ぎると急に立ち上がって、各国の王族に突撃していた。

 そこで挨拶をしたら王族も返してはくれるが、キンペイ首相の伸ばした手は握ってくれない。王族は素通りして去って行く。


 そんな事態が起こっているとはわしは露知らず。というか、王族の子供が群がってモフって来るから、キンペイ首相を気に掛けてられないのだ。


 パーティーが2時間を過ぎると、記念撮影が始まる。これは世界金融会議の模様を世界中のテレビ局に流したり新聞の一面に載せるモノ。各国の王様や代表が集合して撮るのだ。

 立ち位置は、発起人の東の国と猫の国がド真ん中。国の大きさ順に周りを固めて、小国なんかは全てクジ引き。

 普通はめちゃくちゃ揉めるらしいが、東の国と猫の国がガッチリ手を組んでいるから各国の王も表だっては非難しない。敵に回したくないんだろうね。


 この撮影があるので、撮影される者はお酒を控えている。最初の一杯は飲んで、もう一杯は社交辞令程度に持ち歩くだけ。おかげで血色がよくなって写真映りがよくなるんだとか。

 わしの場合は、毛皮があるから飲んでもわからないけど、挨拶に来る者が多いから飲む暇もない。でも、撫でる者も多いから毛並みはグチャグチャです。


 とりあえずリータとメイバイに毛並みをクシで整えてもらっていたら、撮影場所で誰かが揉めていた。


「だから私は猫の国の首相だと言ってるだろ~。中央は私こそ相応ふさわしい! 何が不服なのだ!!」


 キンペイ首相だ。今まで無視されていたからヤケ酒に走り、係の者に絡んでいたのだ。この事態には、各国の王もさげすんだ目。なんだったらSPに耳打ちして「つまみ出せ」とも言っていそうだ。


「にゃにやってるんにゃ……」


 しかし、これは猫の国の問題。わしは慌てて走り寄り、キンペイ首相に問いただした。


「私は何も変なことを言っておりませ~ん。首相の私をないがしろにするこいつらが変なんですよ~」

「もう喋るにゃ。さっさと荷物をまとめて帰れにゃ」

「陛下まで!? 陛下まで私を、ぎゃああぁぁ~~~!!」


 優しくしてられるのもここまで。わしは【殺気の剣】でキンペイ首相を縦に真っ二つにして、物理的に黙らせる。

 ただし、周りで見ている者は何が起こったかわかっていない。わしが何もしていないのにキンペイ首相は悲鳴をあげて倒れたからだ。


「うちの者が騒ぎを起こして申し訳にゃい。こいつには一度死んでもらったから、それで手打ちにしてくれにゃ」


 わしが謝罪すると、全員絶句。殺したと思われたかも?


「この詫びに、わしの秘蔵の酒を振る舞わせてくれにゃ。イスキアワイン……みんにゃ手に入らなくて困ってるんじゃにゃ~い?」

「「「「「お……おお!」」」」」

「んじゃ、あとで出してもらえるように手配して来るにゃ。サービスで最高級の肉も付けてやるから、ちょっと待っててにゃ~」

「「「「「おお~」」」」」


 怖がられるのは不本意なので、あとは餌付け。わしの持つ最高級の品だから、各国の王も大興奮だ。


 その騒ぎ声を聞きつつ、キンペイ首相を肩に担いだわしはパーティーを中座するのであった……

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