猫歴60年その4にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。テロリストに情けは掛けられない。


 猫耳市を襲った猫耳テロリストは、刑が確定するまで何もない荒野でキャンプ生活をさせて反省してもらおう。ここにいる人間への暴力は封じて来たから、しばらくは誰も死なないはずだ。

 その猫耳テロリストから離れたわしは、見えなくなったところで転移。アメリヤ王国のお城にアポなしでやって来た。


 このアメリヤ王国は唯一猫の国と戦争した国。わしの策略で史実では東の国がボコボコにしたことになっているが、何故かわしも怖がられていた。巨大な猫石像で襲ったもんね。

 昔はわしが歩いただけで恐怖する人と感謝する人で溢れていたが、60年近く前のことなので国民からはどちらの感情も薄れている。道行く人に「猫?」とか言われるから、なんだか懐かしい気持ちだ。


 ただし、上層部には恐怖は忘れられていないのか、はたまた前国王から絶対に逆らうなと命令されているのか、わしが無理を言ったら夜なのに、すぐ女王様と面会することができた。


「急にすまないにゃ~」

「いえ。シラタマ王には教科書を貰っただけではなく、わからないことは教えてもらいましたもの」


 この笑顔で対応してくれている金髪美女こそ、現アメリヤ王国の君主シャーロット。恐ろしく長いミドルネームとかは覚えられないから割愛。10年ほど前に亡くなったジョージ王の孫娘で、あとを任された人物だ。


「ジョージ君の跡を継いで、やっぱり大変だったにゃ?」

「そうですね……ですが、シラタマ王が相談に乗ってくれたからなんとかやって来れました」


 家庭教師をやった手前、わしとシャーロットはけっこう親密な仲。スマホを売ってからたまに電話していたし、たまにモフられていたってのもある。

 ちなみにジョージは65歳で他界している。最後に会った時は、わしのおかげでアメリヤ王国が発展したと感謝されたのだ。


「それで、今日はどういった御用件でしょうか?」


 しばし世間話をしていたら、シャーロットは少し緊張した顔を見せた。わしがアポイントなしで来たのはこれが初めてだから、面倒事だと察したのだろう。


「まぁにゃ~……これを見てくれにゃ」

「え……」


 わしはテーブルに一丁のピストルを置いて、さらに後ろには次元倉庫から出した銃を山積みにした。


「これはいったい……」

「昨日にゃ。うちでテロリストがこれを使って暴れてたんにゃ」

「ウソ……」

「その顔は、シャロちゃんは与り知らないんだにゃ?」

「はい……」


 シャーロットは銃を見た瞬間、青ざめていたのだから確実だろう。ここアメリヤ王国では、重火器はわしの定めた量しか生産できない決まりになっているし、他国に輸出も禁じているのだからな。


「ということは、その犯人を突き止めろということですか?」

「うんにゃ。作った者、売った者、そいつらを裁いてくれにゃ。やりたくないにゃら、うちに送ってくれても構わないからにゃ」

「いえ。これは我が国の問題です。関わった者全てに罰をあたえます」

「それは助かるにゃ~。あ、うちに売ったヤツからは、誰に売ったかの情報はくれにゃ。それと、他の国に売ってないかもにゃ」

「シラタマ王の仰せのままに。直ちに取り掛かります」


 これが敗戦国の末路。アメリヤ王国はわしに逆らえないのだ。


「てか、そのシラタマ王ってやめてくんにゃい? いつもみたいにおじ様って呼んでにゃ~」

「もう! 女王っぽく上手くやってたんですから、ふざけたこと言わないでくださいよ~」


 いや、仲良しなだけ。ここからは、ちょっとだけ昔話をして、めちゃくちゃモフられたわしであったとさ。



 シャーロットとはもう少しモフられながら相談に乗ってあげたら、逃げ出して転移。猫の国は日が昇り始めた頃だったので、シャワーだけ浴びたら寝室に忍び込んで熟睡。

 誰かにモフられている感触で目覚めたら、もうお昼だったのでランチしながらフユからの報告を聞くと、猫耳市に走った。


「んで……シンタンってヤツは、どこにいるにゃ?」


 シンタンとは、猫耳テロリストの中にいた若者の父親。食品工場の社長をやっており、猫耳市では珍しいお金持ちの部類に入る人物だ。


「あの……そのことなんですけど……」


 諜報部から情報が入っているはずなのに、市長はどうも歯切れが悪い。


「何かの間違いでは?」

「いんにゃ。資金提供してると息子が言ってたにゃ。裏から支えるのも任務だとにゃ」

「そんなことをする人とは思えないのですが……」

「にゃんでそんにゃに擁護するにゃ?」

「家族ぐるみで付き合いがありまして……」

「にゃんでもいいから、早く案内しろにゃ~」


 市長の態度はよくわからないが、急かしたらようやく重い腰を上げてくれた。その足でシンタンの会社に乗り込んだら、来客中だから今日は会えないとのこと。

 そんなのしらんがなと、止める秘書を振り切って社長室に向かったけど、場所がわからないので秘書に「暴れるよ?」と脅して案内してもらった。


「「お、王様……」」

「ちょっと難しい話するから、来客の人は帰ってくれにゃ」


 わしがドアから入ると2人とも真っ青の顔をしていたが、猫耳族の部外者は追い出す。たぶん残っている猫耳オッサンがシンタンだろう。

 その部外者の男が座っていたソファーにわしは飛び込んで、男を目で追っていたら何かがおかしいので呼び止める。


「ちょっと待ったにゃ」

「私ですか?」

「うんにゃ。そこで後ろ向きに立ってくれにゃ」

「はあ……いえ、お邪魔になるので……」

「いいから早くしろにゃ」

「はい……」

「んん~?」


 男が後ろを向いて気を付けすると、普通の猫耳族。しかし、尻尾の動きがおかしい。


「お前……人族にゃろ? にゃんでそんにゃ格好をしてるにゃ??」


 そう。猫耳族なら不規則に動く尻尾が、お尻を起点に動いていたのだ。


「えっと……猫耳市では、この姿のほうが円滑に商談ができますので……」

「あ、そうだったにゃ。猫耳族は人族を嫌っている者もいるから、耳と尻尾を付けるようにとわしが言ったんだったにゃ~」

「そうそう。王様の発案ですよ~。やだな~」


 いい大人の男が猫耳カチューシャと尻尾を付けているから笑いそうになったけど、まだ気になることはある。


「このタイミングで人族ってのも、にゃんか気になるんだよにゃ~。やっぱりお前も残れにゃ」

「いえいえ。私は王様と喋るような身分でもありませんので……」

「わしが残れと言ってるんにゃ。二度目はないにゃ……」

「は、はっ!」


 ここまでおかしな動きをしているのだ。この偽猫耳族も部屋に残したら、席替え。わしは社長机の上に座って、市長を含めた3人はソファー席に座らせた。


「もしかしてにゃんだけど……お前たちって、全員グルにゃ??」

「「いえいえ!」」

「なんの話ですか!?」


 シンタンと偽猫耳族は同じ反応で市長は違う反応だったけど、全員仲良く契約魔法で縛ってやった。

 その結果、市長はシロ。シンタンが選挙の時に多大な協力をしてくれたから、味方になっていただけらしい。


 猫耳テロリストのことは、シンタンが資金提供していたのは事実。そしてこの偽猫耳族はソウ市に住む貿易商のユウロンと聞いたので、武器商人だと予想を言ったらいい返事をしてくれた。


「まさかお前が銃を密輸して、テロリストに売ったとはにゃ~……探していた人物がすぐに見付かってラッキーにゃ。でも、動機はなんなのかにゃ~?」

「金儲けです」

「まぁそうなるよにゃ。てことは、シンタンが黒幕ってことだにゃ。動機はなんにゃの?」

「はい。補助金が打ち切られたので……」


 シンタンの動機は補助金。これまであった補助金がなくなってから利益が少なくなったので、猫耳族が問題を起こしたら、補助金を復活させられるのではないかとたくらんだらしい。


「だから市長を抱き込んでたんにゃ~」

「はい。何かに使えると思いまして」

「だってにゃ? これからも家族ぐるみの付き合いするにゃ??」

「ええ加減にせぇや~~~!!」

「まぁまぁ……」


 シンタンが真っ黒だったから市長はブチギレしてうるさかったので、契約魔法を残したまま仕事に戻らせるわしであった。



「しっかし、やってたくれたにゃ~……」


 涙目の市長が出て行き、わしがシンタンとユウロンを睨むと、2人とも滝のような汗を流した。


「お前たちが銃にゃんて持ち込まにゃければ、リュウホもテロにゃんて馬鹿にゃマネはしなかったかもしれにゃいのに……それにテロが成功していたら、にゃん人が死んでいたか……わかってやってたんだよにゃ?」

「「いえ……」」

「銃弾の数から予想するに、千人は確実にゃ。お前たちは、また帝国と猫耳族の戦争を起こそうとしてたことになるんにゃよ?」

「「そ、そこまでは考えていませんでした……」」


 契約魔法で縛っているから本心を言っているのだろうが、わしは許せない。


「ふざけるにゃよ! お前たちは端金が欲しいがために、にゃん万人も殺そうとしてたんにゃ! リュウホの思想よりよっぽどタチが悪いにゃ! 楽に死ねると思うにゃよ!!」

「「はい……」」


 怒りに任せて怒鳴り散らしたわしは、少しクールダウンしてから、2人を留置場に放り込むのであった。



 それからわしは猫耳市の地下にある墓場に向かい、とある立派なお墓の前に腰を落とした。


「セイボク……ウンチョウ……コウウン……すまないにゃ……」


 このお墓は猫耳市の族長が眠るお墓。わしと一緒に帝国と戦ったのだから、今回の件を謝罪しに来たのだ。特にウンチョウとコウウンは過激派だったのに、わしの復讐禁止法を我慢して従ってくれていたのだから申し訳なさすぎる。


「みんにゃ必死に怒りを飲み込んでくれたのに、にゃんでこんにゃことになったんにゃろ……本当に申し訳にゃい」


 このまま弱気になっていては、立ち上がれなくなってしまう。わしは踏ん張って立ち上がり、猫市に走るのであった……



 キャットタワーに帰って夜のために寝ようと思ったけど、様々な感情のせいで眠れそうにない。あまり酒に頼りたくなかったがチビチビやっていたら、帰ってからのわしの雰囲気が気になったリータとメイバイが寝室に入って来た。


「猫耳市で何かありました?」

「帰って来てから変ニャー」

「ちょっとにゃ……」


 まだ感情の制御ができないでいたわしは、家族の前で今日の出来事を喋ると変なことを言いそうなので2人にも何も言わなかった。

 だがしかし、ここには2人しかいないので、シンタンたちのことをテンション低く説明して弱音を吐く。


「わしはいったいどこで間違えたんにゃろ……わしのやり方が悪かったから、こんにゃことになったんだよにゃ~……」

「シラタマさんのせいじゃないですよ。こんなにいっぱい人がいるんです。考え方はそれぞれなんですから」

「そうニャー。猫耳族は、シラタマ殿のおかげでみんな幸せって言ってたニャー。今回はたまたまお金に目が眩んだ人がいただけニャー」


 2人の言い分は頭では理解できるが、わしの心がついていかない。


「それでもわしの失策にゃ。国民ににゃんて説明したらいいんにゃ……」

「いつも通り真摯に対応するしかないですよ」

「シラタマ殿なら、きっと大丈夫ニャー。自信持ってニャー!」


 こんなわしを見たことがないリータとメイバイは、いつまでも励ましてくれる……優しくモフられたのでそのまま寝てしまうわしであった。

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