猫歴49年にゃ~
我が輩は猫である。名前はシラタマだ。うちはモフモフ天国ではない。
さっちゃんは退位したら、うちに居着いて動こうとしない。娘にチクリに行ったけど、これも効果なし。わしの子供や自分の孫をモフモフしてダラダラ暮らしているので、さすがにわしも注意してやった。
その結果、わしはさっちゃんにモフられた。モフモフ成分がまだ足りないんだとか……
「そんにゃ成分、この世に存在しないにゃ~」
「あるよね?」
「「「「「はいにゃ~」」」」」
「マジにゃ??」
あるらしい。お母様方も真面目な顔で言ってるもん。それならば学会に発表しなくては!
「じゃあ、誰か論文書いてにゃ~」
「「「「「そ、それは……」」」」」
「ないんにゃ……」
騙されました。あるわけないよね。
「だったらさっちゃんは帰るにゃ~」
「だから、モフモフ成分というかやる気をね。吸収してるみたいな? 何もする気が起きないの~」
「それって……燃え尽き症候群じゃにゃい?」
「なにそれ??」
「わしもイサベレもなったにゃ。あ、ペトさんも近かったかもにゃ」
どうやらさっちゃんは女王を退位してやる気がまったく起きなかったから、自己防衛で趣味のモフモフを自然とモフモフしていたっぽい。
そのことを詳しく説明したら、さっちゃんも腑に落ちたみたいだ。
「そっか~……そういうことだったのね」
「君主とは、それほど心に負担のある仕事ってわけだにゃ。ペトさんの場合は、仕事虫って感じはするけどにゃ~」
「あぁ~……だから子供基金やり始めたんだ」
「だにゃ。さっちゃんも跡を継いだらどうにゃ? ペトさんも喜んでくれるにゃ~」
「うん。お姉様に仲間に入れてもらえるように頼んでみるよ。でもその前に……」
「にゃ~??」
さっちゃんは急に目をキラキラさせた。
「旅行、連れてって~! また中国横断とアメリカ発見した~~~い!!」
「モフモフ成分、効いたみたいだにゃ……」
さっちゃん、復活。やる気が出たのはいいのだが、ワガママさんになって世界旅行どころか宇宙旅行まで言い出したので、そのまま燃え尽き症候群でいてくれたほうが楽だったと思ったわしであったとさ。
さっちゃんのワガママに付き合って世界中飛び回っていたけど、わしも忙しい身。
「どこが? 営業マンも職人もやってないじゃない??」
「それは王様の仕事じゃないにゃ~」
「元々王様の仕事してないでしょ」
「「「「「うんうん」」」」」
「忙しい時もあるんにゃ~」
さっちゃんのツッコミが的確すぎて家族全員頷いているけど、今年はマジで忙しい。結婚ラッシュだ。
「ウエディングプランナーやり始めたの?」
「新郎新婦の父親にゃ~~~!!」
「「「「「にゃっ!?」」」」」
「いま気付いたにゃ??」
今度のさっちゃんのツッコミはボケにしかなっていなかったけど、全員忘れてるってどゆこと??
皆、世界旅行が楽しかったらしいが、式の日取りは決まっているので、インホワから順に工程をこなす。
ただ、娘の結婚には大泣きするわしであったが、インホワの時は一切泣かなかったので、苦情が入ってしまった。
「だってにゃ……いいおじさんにゃんだもん……」
「まだまだ若いにゃ~~~!!」
さすがに四十路のおじさんの初婚に流す涙はない。確かに若いけど、猫のぬいぐるみにしか見えないんじゃもん。
その点を指摘すると、インホワも反撃。わしも同じなんだって。そりゃそうだ。言われなくともわかっていますとも。
インホワとの仲は少し悪くなったけど、家族が増えるとわしも忙しい。
「プププ……建設作業員やってる……」
「さっちゃんは向こう行っててくんにゃい?」
嫁と婿が合わせて4人増えたので、さすがに王族居住区が手狭になったんだもの。でも、さっちゃんは邪魔だわ~。ずっと見てるし……
さっちゃんの目は気になるけど、わしはキャットタワーの拡張工事。王族居住区を上に1階伸ばして13階建てに。11階を新婚さんの愛の巣にしてあげた。これならセキュリティもバッチリだ。
各々子供が生まれた場合も考えて、マンションのような部屋割りにしてあげた。キッチンやお風呂はどうするか聞いたところ、必要なし。ごはんはわしたちと一緒に食べたほうが美味しい物が出て来るんだって。
お風呂も男女で分けたお風呂があるから、広々としたお風呂に慣れたみたい。ただし、トイレだけは近いところにほしいと言われたので、各部屋にせっせとわしみずからウォシュレットを設置。
つゆは歳だから、手伝わなくていいって言ってるじゃろ? まだまだ若い者に負けないのですか~……つゆもお婆ちゃんに見えないよ?
タヌキにしか見えないけど、還暦は超えてるんだから無理しないでほしい。でも、手伝ってくれるのは嬉しい。こんなこと手伝ってくれるの、猫家ではつゆだけじゃもん。
とりあえず分かれてガチャガチャしていたら、後ろから殺気が!?
「なに世界最高峰のサンドリーヌタワーより高くしてるのよ! シラタマちゃんだけズルイ~~~」
「狭いところで揺するにゃ~~~!!」
さっちゃんです。昔、コソッと拡張して同じ12階になった時にも同じようなやり取りをして、サンドリーヌタワーの屋上に背の高い建物を建ててごまかしてあげたの忘れてました。
「世界最高峰はもう諦めてくれにゃ。これからうちは孫にひ孫と増殖するんにゃから、まだまだ高くなるかもしれないんだからにゃ」
「うっ……やっぱりズルイ……長生きはズルすぎるよ~」
「それは仕方ないにゃろ~」
「じゃあ、せめて私が死ぬまでは世界一でいさせて。それで手を打ってあげるわ」
「にゃんで上から目線にゃの??」
これで譲歩されたとはとても思えないので断ったら死ぬほどモフられて邪魔されまくったので、「拡張工事をします」と言ってしまうわしであったとさ。
サンドリーヌタワーはさっちゃんが帰ってからやることになったので、暇な時間は世界旅行兼、新婚旅行。猫家に入った婿や嫁は、キャーキャー言って楽しそうだ。
「たぶんこれ、飛行機とか大きな獣に怖がってると思うよ?」
「そうにゃの?」
「シラタマちゃん、気付いてるのに言ってるでしょ??」
「まぁ……世界旅行する上で外せにゃいし……」
「せめて安心させる言葉掛けてあげたら?」
「ですよにゃ~。みんにゃのことわしが守ってあげるから、離婚とか考えないでくれにゃ~」
このままでは離婚を言い出しそうなので、さっちゃんのアドバイスに従いスリスリゴマすり。ちょっとやりすぎて新婦にモフられたので、妻たちや新郎から睨まれました。
我が猫家はこんなにおめでたいこと続きで楽しくしていても、猫の国には関係ないこと。猫歴49年にもなると猫の国初期に、子供なのに頑張って働いてくれた人々にも死者が増えていた。
わしはいつも通り知り合いの場合は足を運び、「早すぎる」と悲しみを募らせる日々。そんな中、わしと懇意にしていたハンターがそろそろと聞いたので、とあるお家を訪ねた。
「にゃはは。思ったより元気そうだにゃ」
「そんなことないです……」
このしわくちゃのお婆ちゃんは、アイパーティの最後の生き残り、マリーだ。
アイパーティとは、わしの弟子みたいな女性だけのパーティ。その昔、わしが軽く手解きしてあげたので生存確率が大幅に上がり、ハンターとして東の国周辺国を全て見て回った強者だ。
そんなアイパーティが何故猫の国に骨を埋めているかというと、「いい歳だから男と仕事を紹介して」と泣き付かれたから。全員同じ東の国王都出身だから突き放したけど、帰る家がないとオヨヨヨ泣くので仕方なく折れたのだ。
ちなみにウソをつかれていないか生い立ちを聞いてみたら、全員、親に難が有り、そのままではどっかの金持ちのオッサンと結婚するか、売り飛ばされるかの二択だったから逃げ出すしかなかったと聞いて、今度はわしがオヨヨヨ涙。
出会いは、たまたまアイとモリーが橋の上で川を眺めてため息をついていたところ、意気投合してハンターになる。
翌年、橋の上でため息をついているルウやエレナが合流。最後に橋の上でため息をついていたマリーが加入したらしいけど、橋の上で出会いすぎじゃね?
あまりにもできすぎの出会いにわしの涙は止まり疑っていたら、リータも橋の上でため息ついていたところをアイたちに声を掛けられたんだとか……疑ってすいません!
この疑ったことが弱味となり、アイパーティは揃って猫の国国民になったのだ。
仕事は、小中学校の先生。ハンターとしての経歴を活かし、訓練だけじゃなく世界中を旅した経験を伝えてくれるので、中学生に「猫王様よりわかりやす~い」と大人気になってた。
何故、わしの名前が出たかわからない。いや、わしの経験談は規格外すぎてファンタジーにしか聞こえないと、卒業したら生活が掛かっている中学生には大不評だったの。
伴侶は知らんがなと言いたかったが、毎日の絡み酒がウザかったので、若い猫耳族に「わしの知り合い」と言って紹介してあげた。猫耳族なら
その中で、マリーだけは別口。昔はわしと結婚したいと言っていたクセに、ウサギ族を紹介してくれと泣き付かれたので、ヒモになってくれそうなウサギを探してあげたよ。
歳も歳だから、モフモフならなんでもいいんだって。にしても、ヒモはないわ~。
結婚生活は、意外にも皆良好。後が迫っているからここで逃がしては終わってしまうと、わしを被っていたんだとか。それを言うなら猫を被るじゃろ?
しかし子供が大きくなってからは豹変したらしく、1人を除いて離婚。夫から話を聞いたところ、鬼嫁に耐えられなかったんだって。
残ったのは、意外や意外、ヒモウサギと結婚したマリー。ヒモウサギが家事や子育てを頑張ってくれたから、夫婦円満で子供を2人も
子供の種族は、どちらもウサギ族。人族の血がまったく反映されていないから、マリーを心配して声を掛けたら「狙い通り」と返された。モフモフを増やしたいからって、根性で産み分けたらしい……
死ぬ順番は、年齢順。付き合いも長いから、最後にはわしの転生の秘密を語ってあげたけど「でしょうね~」って感じで旅立って行った。
その話をいま、まさに、マリーにもしてあげたけど「でしょうね~」だって。
「にゃんでみんにゃ同じ反応にゃの?」
「だって、猫さんは初めて会った時から不思議でしたもん」
わしとマリーたちが初めて会ったのは森の中。マリーたちが迷子になっているところに子猫の姿で声を掛け、料理やお風呂、お金にも興味を持っていたから「中身は人間じゃね?」と、いつも言ってたらしい。
「次に出会った時は、二足歩行で歩いていたでしょ? あ、やっぱり人間だったんだ~って確信に変わったんです」
「そんにゃ昔から気付いていたとは……にゃんでその時言ってくれなかったにゃ?」
「ハンターは過去の詮索は御法度ですからね。猫さんから言ってくれるのを待っていたんです」
「そうにゃんだ……それは気を遣わせたにゃ~」
「いえいえ。すぐにボロを出す猫さんは、お酒の席のいい
どうやらわしが次々と新しい物を産み出すから、「アイツ、隠す気あるの?」といつも笑ってたんだとか……
「あ、でも、あのことは私だけの秘密です」
「あのことにゃ? ……にゃんだっけ??」
「ほら? 良い
「あぁ~……そんにゃ話を海でしたにゃ~」
わしは猫の島でのことを思い出して懐かしんでいたら、マリーに手を握られた。
「だから猫さん……私が生まれ変わったら、必ず捜し出してお嫁さんにしてくださいね」
この約束も思い出していたのだから、わしの答えはひとつしかない。
「もうモフモフと結婚したから、願いは叶ってるんじゃないかにゃ~?」
そう。マリーはわしの体狙い。ウサギ族と結婚したから、叶える必要がない気がする。
「そんな寂しいこと言わないでくださいよ~。来世こそよろしくお願いしますぅぅ」
「まぁ、やるだけやってみるにゃ~」
でも、死期が迫っている者に泣き付かれたからにはわしも
マリー、享年63歳。アイパーティの後衛。女性だけのパーティとしてAランクまで昇り詰めた逸話は、女性ハンターにいつまでも語り継がれたのであった。
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