猫歴29年その6にゃ~


 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。子供のための組織はわしが100%出資してるのに、わしの名前が消されるって酷くない?


 ペトロニーヌ子供基金の話は置いておいて、平行世界6日目の夜も天皇陛下と皇族がやって来た。昨夜は家康との話に夢中になりすぎたから詫びに来たらしい。

 でも、あの顔は猫の国料理を催促しに来たと思う。出て来るまで料理の話しかしなかったし……


 まぁそれでわしとも世間話してくれるようになったので、楽しく会食している。


「にゃ? 引退にゃんてできるにゃ??」

「ええ。先代が道を切り開いてくれたので、私もその道を辿るつもりです」

「まだしっかりしてるんにゃから、そんにゃに急がなくてもいいと思うんだけどにゃ~」


 ただ、天皇陛下から皇太子殿下しか知らない情報を出されたので、わしも少し寂しくなる。どうやら歳も歳なので、2人とも引退して若き青年に引き継ぐことで決まったらしい。


「皇太子殿下は、天皇にならないんにゃ……」

「ええ。平成、令和と短くなりましたから、自分がなるとさらに短くなるから辞退しました。コロコロ年号が変わると国民も混乱しますからね」

「にゃんて慎ましい考えなんにゃ~」


 やはり、天皇家は別格。常に国民のためを思って、自分が頂点に立つことすら辞退するなんて政治家に聞かせてやりたい。あと、3年そこそこで大往生してしまったどこぞの王様にも……

 ちなみにその青年には男子が2人誕生しているから、次々代までは安泰。さらに、旧宮家からも男子の赤ちゃんを2人、女性皇族が養子に迎えたから、万全の態勢になったそうだ。


「ほ~。思い切った決断をしたんだにゃ~。国民は反対しなかったにゃ?」

「少しはありましたよ。しかし、旧宮家を復活するよりは反対意見はありませんでしたね」

「そりゃそうだにゃ。俗世に染まってない赤ちゃんだもんにゃ。でも、幸せに暮らせるかは、わしにはわからないけどにゃ」

「そうですね。できるだけ不自由なく育ててあげたいのですが、こればかりはなんとも……」


 ここからは、王様どうしの苦労談。元女王のペトロニーヌも呼んで悩み相談をしてみたけど、わしだけ聞いてもらえなかった。なんでも、わしは規格外なんだとか……天皇陛下に王様の仕事してないのバラさないで!

 ペトロニーヌにわしが王様らしからぬ仕事ばかりをしていることをバラされたからには、天皇陛下の目も冷たくなった。しかしその時、救世主がやって来たから、わしは話題を振る。


「玉藻は千年近くも天皇家にいたんにゃから、どんにゃ苦労があったか知ってるにゃろ~?」

「なんじゃ薮から棒に……急に言われても思い出せんぞ」

「苦労話じゃなくてもいいにゃ。楽しかったこととか面白かったことはないにゃ~?」

「うう~む……そうじゃな。時代の移り変わりは、いつの世も見ていて面白かったのう」


 玉藻のおかげで、話を逸らせてわしはラッキー。それに聞いていて面白い。時代の移り変わりとは、何も天皇陛下が代替わりすることではなく、新しい技術や政治、生活が一変する話だから勉強になるのだ。

 ただし、玉藻的にはここ30年が一番楽しかったらしい。


「シラタマと出会ってからじゃ」

「にゃ? わしがにゃにかしたっけ??」

「これだけ新しい物、新しい技術、新しい価値観に接したのは初めてじゃ。さらにわらわより強い男なんじゃからな。シラタマと出会えて、妾は本当に幸せじゃった」

「にゃ~? そんにゃに褒めるにゃんて、玉藻は酔ってるにゃ~??」

「私も楽しかったわよ。新しい物ばかりで大変だったけど、単調な仕事をするよりずっとドキドキしたわ。ありがとう」

「ペトさんまでにゃに~? 2人とも、そんにゃこと言ってたら早死にするにゃよ~??」


 2人の言葉はフラグっぽく聞こえるので、茶化してやる。恥ずかしいもん。

 しかし、天皇陛下もわしと出会って感謝してるとか、家康までやって来て褒めるので、むず痒い。なんだか変な話になってるし……


「妾の娘、妾に似て美人じゃろ? 夫も他界しておるし、子種をやってくれんか?」

「にゃんの話にゃ~」

「妾ではもう子は見込めんからな。それにそちに任せておけば、何人も無事出産できると学んだからのう」

「もうキツネ族はめとってるにゃ~」


 珍しく玉藻がスリ寄って来るので押し返していたら、家康まで参戦。


「そなたの娘、わしの側室にくれんか? なんだったら秀忠にでもよいぞ」

「その手があったか。うちは息子をくれんか??」

「誰がわしのかわいい子供をジジイとババアにやるんにゃ! わしの子供に指1本でも触れたら戦争だからにゃ~~~!!」


 なので、この日はけっこう凄いケンカ。日本上空は、わしたち3人のケンカで雷鳴が鳴り止まなかったとさ。



 平行世界7日目は、昨日のケンカのせいでホテルにマスコミが大量に集まっていたので「飲みすぎて騒ぎすぎちゃった」と謝り、わしだけお出掛け。その他は今日も自由行動だ。

 わしがやって来た場所は、首相官邸。つまり、総理大臣に会いに来たというわけだ。


「かわいい~~~!」

「ゴロゴロ~」


 でも、出迎えてくれたのは、小麦色の肌の若い女性。いきなり抱き上げられて、変な感触の胸に挟まった。その髪の明るい女性は30代前半だと思うけど、本人は20代と言ってわしを撫で回している。


「てか、総理に会いに来たんにゃけど~? ゴロゴロ~」

「あ……あはは。あたしが内閣総理大臣なんだけど、やっぱ見えないか~」

「にゃんですと!?」


 今日、総理に会いに来たのは、天皇陛下から会ってやってくれと打診があったから。ただ、人となりは会ってからのお楽しみと言っていたから、わしも調べなかったのだ。

 でも、調べておけば、この硬い胸を押し付けられなかったのに……何が入っておるんじゃ? 何も入っていないのですか。パットがいっぱい入っていると思うんじゃけど……


 ひとまずギャル総理は歓迎会を開くと言うので、抱っこされたまま首相官邸1階の大ホールの中へ。そこは老若男女がうごめいていたから、わしも混乱して逃げ出せなかった。


「では、白猫党、真の党首にかんぱいにゃ~!」

「「「「「かんぱいにゃ~!!」」」」」


 この若かったりお腹が大きかったりおばちゃんだったりおっちゃんだったりの普段着の集団こそ、白猫党の議員。そんなふうにはまったく見えないが、政治家さんだ。

 いまいちノリについていけないので、わしもグラスを掲げてチビチビ。ナッツを摘まみながら酒を飲む。


「てか、真の党首ってわしのことにゃ!?」

「おっそ……あははは」


 乾杯のあとに「党首、党首」とわしを呼んでいたから、やっと気付いてギャル総理たちに笑われた。


「党首って、総理の姉ちゃんじゃにゃいの?」

「ううん。うちには党首って明確にはいないの。役職もだいたいクジ引きだし。んで、こないだあたしが総理を引いちゃったんだよね~」

「そんにゃんで大丈夫にゃ??」

「大丈夫大丈夫。最初からこんな感じでなんとかなってるもん」


 到底信じられない話だが、官僚が優秀だからこんな寄り合いの集団みたいなメンバーでも政治は滞ったりしないそうだ。


 もう少し詳しく聞くと、素人に読めない法案ばかりを作って来るので、最初は官僚のトップとケンカしまくり、更迭や部署替え当たり前。

 わかりやすくなると今度は、調査した者も責任者も書いてないし、数字も適当というか官僚たちに都合のいいことしか書かれていなかったので、何度もやり直しを命じたらしい。

 これでようやく議論ができるようになったので、話し合ったら「前までやっていた政治家はなんであんなに時間が掛かったの?」ってぐらいスピーディーに法案が決まっていったそうだ。


 法案は衆議院の多数決で圧倒したら、次は白猫党が1人もいない参議院へ。そちらでは反対するだけで議論もしないヤツらばかり。

 衆議院で通した法案は、参議院では審議期間ギリギリまで掛けて返して来るので、恐ろしい数の法案が渋滞となったとのこと。

 さすがにこの事態には白猫党は怒り、国民もブチ切れた。それでも政治家は我関せずでノロノロとやってる振りを続けていたので、見兼ねた天皇陛下が、初めて政治家を叱責したんだって。


「あの時のおじいちゃん、かっこよかったわ~」

「天皇陛下にゃ? おじいちゃんじゃにゃくて、天皇陛下だからにゃ??」


 その鶴の一声で、参議院も真面目に審議するようになったけど、全て否決の差し戻し。衆議院で3分の2の議決を持って、法案の成立となる。

 ただし、これは参議院の戦略。強行裁決だとか騒ぎ立て、マスコミと共闘しようとした。けど、一切代案を出さなかったことを白猫党に突かれて、逆に責められる立場となった。


 それから参議院でも選挙したら、白猫党が圧勝。参議院は100人まで減らされて、次の衆参どちらの選挙でも、元政治家は1人も当選しなかったらしい。


「おかげでやりたい放題よ~」

「それはそれで怖いにゃ~」

「まぁファシズムだとかムッソリーニみたいだもんね~」

「その顔で、よくそんにゃの知ってたにゃ~」

「ひどっ!? これでも大学出てますぅぅ~」


 わしも人のこと言えないので謝罪して、どこの大学を出たのかと聞いたら、名前も聞いたことのない三流大学の人間学部だって。


 マジでよく総理になったな……引きが強いのですか。断らなかったの? 今期はわしが来る可能性が高かったから、みんな命懸けだったのですか……そんな不純な動機で総理になるなよ! 笑ってるし……


 しばらくケラケラ笑うギャル総理に付き合っていたら、独り占めはどうとか言い出して、ここからは握手会。めっちゃモフられました。



 それから全員と握手してフラフラで元の席に戻ったら、ギャル総理を先頭に白猫党議員がわしの前にズラッと並んだ。


「白猫党……いえ、いまの日本があるのは、シラタマ王のおかげです。あの時、あたしたちの背中を押してくれてありがとうございました」

「「「「「ありがとうございました」」」」」

「シラタマ王のおかげで日本は豊かになり、世界とも渡り合える力を取り戻せました。我々白猫党は国民に成り代わり、感謝を述べさせていただきます。本当にありがとうございました」

「「「「「本当にありがとうございました!」」」」」


 急に真面目な話をされて、こんな大人数に頭まで下げられたわしは、とりあえずグビッと酒を飲む。すると、白猫党議員は頭を上げて何かを期待するような目を向けるので、わしの脇から汗が垂れた。


「そういうのはやめてくれにゃ。総理の姉ちゃんが言う通り、わしはきっかけを与えただけだからにゃ。この日本を作り直したのは、まごうことなく君たちにゃ。それに、国民あっての君たちにゃろ? その感謝は、わしではなく国民にすべきにゃ~」

「おっしゃりたいことはわかりますが、その一歩が一番難しいはずです。どうか、我々の感謝も受け取ってください!」

「「「「「お願いします!!」」」」」


 感謝を押し返してもギャル総理たちは頭を下げ続けるので、わしも受け取るしかない。


「わかったにゃ。わかったから頭を上げてくれにゃ~」


 それだけでギャル総理たちは笑顔で顔を上げた。


「これであたしたちもシラタマ王の下僕! 異世界に連れて行ってくれますよね!?」

「「「「「にゃっほ~~~!!」」」」」

「にゃ……」


 そして変なこと言って飛び跳ねてる。どうやら白猫党とは、異世界転生モノが大好きな人が集まっていたらしい……


「あの~……喜んでるとこ悪いんにゃけど、わしの一存ではちょっと……」

「「「「「へ??」」」」」

「わし、前に言ったよにゃ? 世界を渡るには、この世界の神様の許可が必要だとにゃ」

「「「「「そこをなんとか!!」」」」」


 白猫党、うっかりミス。というか、神様に会う方法がわからないから、わしに取り入ればなんとかなると思っていたっぽい。だからやりたくもない政治家なんてしてたんだって。


「「「「「なんとかして、しらえも~~~ん!」」」」」

「わしはそんにゃ名前じゃないにゃ~~~!!」


 というわけで、夢が砕け散った白猫党議員は、メガネを掛けた気弱な小学生みたいになるのであったとさ。

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