夢を見たかったのこと



【Nyahaan!ニュース】

■中学校に不審者が侵入 校内は一時騒然

 

・都内の中学校に他校の制服を着た少年が侵入したことが明らかになりました。

 この人物は校門のインターホンを鳴らし「今日転校予定だったのですが遅刻してしまいました」といい、対応した職員はこの言葉を信じ、名前やクラスを確認せずに門の鍵を開けてしまったということです。

 少年は中に入ると本当に転校生のように振る舞い、一部の女生徒に接触し、粘着したり奇声をあげるなどをした様子。幸いにも怪我人はありませんでしたが、警察官が駆けつけた時には既に姿を消していました。

 結局、少年は中学とは何ら関係なく、現状ではその後の足取りもつかめていません。

 学校側は「ちゃんと転校生の予定などを確認するべきだった」としています。

 






694:名無しの戦闘員

 幼馴染が負けヒロインって風潮いくない

 ラブコメの鉄板と言えばやはり幼馴染

 

695:名無しの戦闘員

 最近の幼馴染は負けヒロインより寝取られポジじゃない?


696:名無しの戦闘員

 あー、幼馴染で恋人な女の子が親友に寝取られて絶望する主人公

 そこから学園のアイドルと出会って恋人に

 最後には寝取られ幼馴染と間男な親友にざまぁ! が流行りだな


697:名無しの戦闘員

 寝取られ系は正直あんまり

 結局はイチャコメが至高だろ


698:名無しの戦闘員

 王道は王道だからいいんだ

 恋のさや当てとか大好き


699:ハカセ

 止めてくれにゃんj民 ラブコメは今のワイに効く


700:名無しの戦闘員

 そりゃリアルにラブコメってるハカセさんですからねw


701:名無しの戦闘員

 なになに フィオナちゃんを巡って恋のさや当てやらかした?


702:名無しの戦闘員

 いいじゃん

 魔法少女の件があってもフィオナちゃんとは上手くいってるんだろ?


703:ハカセ

 あ、いや、まあ、うん

 フィオナたんとはね?

 そりゃあちゃんとデートしたりはしとるんやけど、そうではなく

 ラブコメがワイにダメージを与えるという事態が……


704:名無しの戦闘員

 なんか歯切れ悪いな??


705:名無しの戦闘員

 言ってみ?

 今さら醜態が一つ二つ増えたって誰も気にしないぞ


706:名無しの戦闘員

 むしろハカセの恥ずかしい話とか好物です


707:ハカセ

 醜態前提なのが引っかかるけどサンガツ

 簡単に言うとな? 

 実はワイ中学生で、ルルンちゃんの同級生なんや


708:名無しの戦闘員

 ???


709:名無しの戦闘員

 お、おう?


710:名無しの戦闘員

 どうしたハカセ?

 だいぶヤバいこと言ってるけど


711:名無しの戦闘員

 ちょっといきなりすぎてよく分からないんですが


712:ハカセ

 あぁ、端折り過ぎたわ

 まとめてくるからちょい待っててくれ


713:名無しの戦闘員

 はいよー


714:名無しの戦闘員

 落ち着けよー


715:ハカセ

 すまんな、待たせた

 とりあえず最初から書くわ

 

 ルルンちゃん(14)は現在中学二年生

 もともと無邪気で明るく可愛い女の子やけど、近頃は少し成長して魅力が更にれべるあっぷ

 同じクラスの男子にもルルンちゃん狙いの子らが出てきたくらいや

 

716:名無しの戦闘員

 確かに成長したよね、うん

 変身ヒロイン姿からも見て取れる

 でもフィオナちゃんは……


717:名無しの戦闘員

 やめろ 

 それはフィオナちゃんとルルンちゃん両方を敵に回す


718:ハカセ

 >716

 ついでに私も敵に回すからな?


 ちなみにルルンちゃんの先輩にはモデルさんがおる

 金紗の髪に透明感のある白い肌、海を思わせる碧玉の瞳

 そのモデルさんは家庭の都合で今年の春から中学に通い始めたそうな

 まあ15歳になった首領なんやけど


 ルルンちゃんと首領はすっごい仲良し

 学校でもよく一緒にお昼ご飯を食べとる

 どっちも美少女やから校内での人気も凄くてな 

 今や天使のコンビは学園のアイドルよ


719:名無しの戦闘員

 ハルヴィエド様出てきおったw


720:名無しの戦闘員

 家庭(組織)の都合


721:名無しの戦闘員

 そうだな…首領ちゃんにとって……

 デルンケムは、家族みたいなものだから……


722:名無しの戦闘員

 >721

 お前の立ち位置どこだよw


723:ハカセ

 そしてワイは異次元から来た銀髪オッドアイで神に愛されたごく普通の中学生

 転校初日なのに遅刻しそうなワイはパンを咥えて通学路を走る

 曲がり角を曲がった瞬間、誰かとぶつかってもうた!

 

 ルルン「きゃっ」

  ワイ「やべっ、す、すんません!」


 ワイびっくり

 だってぶつかった相手はルルンちゃん、めっちゃ美少女や

 思春期ハートがきゅんってしてまう


 ルルン「こ、こちらこそごめんなさいっ」

  ワイ「私こそ、前を見てなかったから」


 喧嘩も定番やけどルルンちゃんやからな

 お互いにペコペコ謝ってそのままお別れ

 でもな……このあと、すっごい偶然が待っとった

 転校生のワイは教室に案内され、新しいクラスメイトの前で挨拶する


  ワイ「初めまして、転校生のハカセです。これからよろしく、って……」

 ルルン「あっ、あなたは……」

  ワイ「あー!? き、君は朝の!?」


 ワイは教室でルルンちゃんと再会した

 つまり、ルルンちゃんの同級生でクラスメイトってわけやな


724:名無しの戦闘員

 唐突な発言の意図を教えてもらう筈がキモイ妄想の詳細を聞かされてるんですが⁉


725:名無しの戦闘員

 普通の定義が壊れる


726:名無しの戦闘員

 一昔どころか一世代前のラブコメw


727:ハカセ

 当然クラスはざわつくわな

 特に男子の声が聞こえてくる


「えっ、何アイツ? ルルンちゃんの知り合い?」

「妬ましい……」


 でも無邪気なルルンちゃんはまったく気にしとらん

 むしろにっこにこ笑顔や


 ルルン「すっごい偶然ですねっ」(ぺかー

  ワイ「あ、はは……」


 嬉しそうなルルンちゃん 

 さらに男子たちの圧が強まりました


728:名無しの戦闘員

 ヤバい(ヤバい)

 クラスの男子じゃなくてハカセが


729:名無しの戦闘員

 パンをくわえるのはふつー女の子の方じゃない?


730:名無しの戦闘員

 知り合いの女の子で妄想はレベルが高すぎて無理とか言ってたハカセはどこに行ったんだ……


731:名無しの戦闘員

 ウチの社長代理が壊れた


732:名無しの戦闘員

 待て、冷静に考えろ

 激重なハカセが簡単に意趣を変えるとは思えん

 この話にもちゃんとなにか裏があるはず 


733:名無しの戦闘員

 妄想が無理

 つまり書き込みはすべて事実ということでわ?


734:名無しの戦闘員

 27歳の中学生か……

 高校生なら年齢は問題ないが


735:ハカセ

 休み時間になってワイのところにルルンちゃんがやって来た

 偶然の再会に向こうも驚いとるみたいやね


 ワイ「いやあ、びっくりしたよ。朝にぶつかった子とこうして再会するなんて」

ルルン「えへへ、私もです。そうだ、ハカセくんって呼んでいいですか?」

 ワイ「あっ、ああ。俺も下の名前で、いい、のかな?」

ルルン「もちろんですっ」


 ルルンちゃんにタジタジなワイ

 まあ美少女スマイルを至近距離で喰らったらしゃーない


ルルン「ハカセくんがクラスメイトなんて、不思議な感じです」

 ワイ「別に敬語じゃなくて大丈夫だぞ?」

ルルン「あ……う、うんっ。ハカセくん、よろしくねっ! そうだ、お昼は一緒に食べよ?」


 ということでお昼は一緒に食べることになった


736:名無しの戦闘員

 初日から学園のアイドルの片割れとかよちくしょう


737:名無しの戦闘員

 ルルンちゃんと一緒に学園生活を送りたいだけの人生だった……


738:名無しの戦闘員

 ハカセそこそこおっさんのくせになにやってんだ


739:ハカセ

 ルルン「えへへ。ハカセくんと同じクラス、一つ夢が叶っちゃった」


 はにかむルルンちゃん

 でもな、そこで横から男子が出てきた

 そいつはワイを疑わしそうな目で見とる


  男子「な、なあルルンさん」

 ルルン「あ、男子くん。どうしたの?」

  男子「い、いや。なんか、そいつと仲良さそうだなって」

 ルルン「えっと。ハカセくんのことは前から知ってるから」

  男子「でもさ、いきなり転校生とか変だし。怪しくないか?」


 男子はワイをかなり警戒してるようやね


740:名無しの戦闘員

 しゃーない


741:名無しの戦闘員

 そら銀髪オッドアイの転校生は怪しいわw


742:ハカセ

 男子「おい、お前!」

 ワイ「なんだよ」

 男子「この不審者、ルルンさんに近付くなよ!」


 不審者呼ばわりひどない?

 男子はワイを睨んで、さらに突っかかってくる


 男子「ルルンさんが優しいからって勘違いすんな!」

 ワイ「なんでお前にそんなこと言われにゃならん」

 男子「俺とルルンさんは、その、特別な関係というか……だ、だから心配して当然だろ⁉」


743:名無しの戦闘員

 嘘だろルルンちゃんにカレシ!?


744:名無しの戦闘員

 ざっけんなクソがっ!!!


745:ハカセ

 ルルン「あ、男子くんのお姉さんと私、親友なの。だから男子くんも時々お喋りするお友達なんだよ」

 

 なお特別な関係はルルンちゃん本人によって一瞬で否定されました


746:名無しの戦闘員

 ルルンちゃん信じてたンゴ(手のひらクルー


747:名無しの戦闘員

 やっぱ大天使よ


748:ハカセ

 男子「うぅ……で、でも。俺はお前なんかよりも!」


 それでも食い掛ってくる男子

 止めたのはまたもルルンちゃんやった


 ルルン「だ、駄目だよ男子くん! ハカセくんにそんなこと言っちゃ」

  男子「ルルンさん、でもっ!」

 ルルン「心配、してくれたんだよね? ありがとう、でも大丈夫だから」(ニコッ

  男子「う……」


 結局ルルンちゃんの笑顔に逆らえず、男子はすごすごと引き下がった


 ルルン「ハカセくん、ごめんね?」


 まあこの笑顔に勝てる奴はそうおらんと思うけどな

 

749:名無しの戦闘員

 これは確かに恋のさや当てだわ


750:名無しの戦闘員

 というか男子くん主人公のラブコメだな

 ルルンちゃんに近付くイケメン転校生

 二人が仲良くてなんだかモヤモヤ、みたいな


751:名無しの戦闘員

 中学生男子に求めるのは難しいけど表立って騒ぐのは悪手だと思ふ


752:名無しの戦闘員

 なんだかんだルルンちゃんはハカセと仲いいしね


753:名無しの戦闘員

 ねえ、なんでみんなこの妄想普通に受け入れてんの?


754:ハカセ

 ルルン「そうだ、ハカセくん。授業抜け出して、お喋りしよう?」

  ワイ「え、でも授業が」  

 ルルン「いいからいいからっ」

  ワイ「わっ、ちょっ、ちょっと!」


 急にワイの手を取って教室を出るルルンちゃん

 思春期のオトコノコ、女の子に手を握られたら内心ドキドキやろなぁ

 ワイは今でもドキドキやけど

 辿り着いた先は学校の屋上やった


755:名無しの戦闘員

 屋上で若い男女が二人っきり


756:名無しの戦闘員

 何も起こらないはずがなく


757:名無しの戦闘員

 くそう、キモい妄想なのにワクワクしてる俺ガイル……


758:ハカセ

 屋上の片隅に普通の同級生っぽく並んで座る

 

  ワイ「機嫌よさそうだね?」

 ルルン「だってちょっと憧れてたから」

  ワイ「ん? それってどういう?」

 ルルン「えへへ、内緒」

 

 鼻歌混じりで妙なくらい楽しそうなルルンちゃん


 ルルン「ね、ハカセくん」

  ワイ「どうしたんだ、ルルンちゃん」

 ルルン「それ。ルルンって呼び捨てにしてほしいなぁ」

  ワイ「別に構わないけど。えーと……ルルン」

 ルルン「うんっ」


 満足そうに何度も頷いてる

 何が何だか分からないワイ

  

 ルルン「同い年のハカセくんが同級生。不思議な感じ、なんかソワソワするなぁ」


 言いながら目を細めたルルンちゃんはワイの胸元にそっと手を伸ばす


 ルルン「ちょっとだけ、動かないでね?」

 

 そしてゆっくりと、ワイの方に顔を近づけて……


759:名無しの戦闘員

 ルルンちゃん?


760:名無しの戦闘員

 え、マジで?


761:名無しの戦闘員

 ちゅー? ちゅーしちゃうの?


762:ハカセ


 ワイの“核”を取り出した



763:名無しの戦闘員

 …………んん?


764:名無しの戦闘員

 俺の期待したのと違う


765:名無しの戦闘員

 ああ、やっぱクピモンか


766:名無しの戦闘員

 濡れ場は!?

 フィオナちゃんのに隠れての浮気イチャイチャはどうなったの!?


767:名無しの戦闘員

 核って取り出せるもんなの?


768:ハカセ

 >766 

 そんなもんするか!?


 >765

 せーかい

 前にフィオナたんを口説いた不届き者おったやろ?

 あいつと同じ、クピモンが進化したレンタルハカセやね

 今度は14歳、中学生なワイ

 そいつがなんでか知らんけどルルンちゃんと首領が通う中学に現れたんや

 

769:名無しの戦闘員

 じゃあハカセがコスプレして侵入したんじゃないのか 

 クピモンマジで厄介だな


770:名無しの戦闘員

 マジモンの14歳のハカセ?

 ちょっと見てみたいンゴ

 

771:名無しの戦闘員

 てか男子くんの言った通り全力の不審者だったんじゃねえかw


772:名無しの戦闘員

 ルルンちゃんの同級生のハカセ……

 なるほど、そういうのもあるのか

 私ちゃんちょっと頑張ってみる

 

773:名無しの戦闘員

 エレハカ女は何を頑張るつもりだw


774:ハカセ

 レンタルハカセを見て波風立てないようにうまく誘導して

 二人きりになった状態でお喋りして油断を誘い

 一瞬でクピモンの“核”を見切って抜き取る

 ルルンちゃん、マジですごいわ


775:名無しの戦闘員

 さすがハカセを超えるセンスの持ち主だ


776:名無しの戦闘員

 でもちょっとハカセにキスするんじゃないかってドキドキした


777:ハカセ

 ルルン「ハカセさん、クピモンの中心になるようなものを手に入れちゃいました」 


 で、ルルンちゃんから連絡

 欠損のない核を入手したんでこれからさらに研究が捗ります

 

  ワイ「すごいな、ルルンちゃん。ありがとう」

 ルルン「えへへ。お役に立てましたか?」

  ワイ「もちろんだ。何かお礼をしないとな」

 ルルン「わぁーい」

 

 外見はちょっと大人びたかと思ったけど、やっぱりまだまだ無邪気な子やな

 電話の向こうで嬉しそうにはしゃいどったわ


778:名無しの戦闘員

 ……うん、そやな!


779:名無しの戦闘員

 あれ? じゃあ結局ハカセは転校生じゃないの?

 どうやってこれまでの話知ったん?


780:ハカセ

 ああ、ルルンちゃんの中学には戦闘員I奈ちゃんも通っとるんや

 なんで詳細をまとめてワイに報告してくれた

 中々の手腕やし、将来的には猫耳の直属にして諜報を任せてもええかもしれん


781:名無しの戦闘員

 待って、じゃあその中学って


 一年生→メスガキ系アイドルI奈ちゃん

 二年生→大天使ルルンちゃん

 三年生→美麗モデル首領ちゃん


 のジェットストリーム・美少女・アタックってこと?


782:名無しの戦闘員

 ごめん、編入手続きしてくる


783:名無しの戦闘員

 俺の行き着けの中学を遥かに超えるレベルなんだが……


784:名無しの戦闘員

 行き付けの中学ってなんだ


785:名無しの戦闘員

 マジモンの犯罪者おるぞ

 

786:ハカセ

 みんなええ子なんやから余計なちょっかい出さんとったってくれ

 

 結果としては成果があったからちゃんと感謝を伝えた

 せやけど、独りで危ないことはしてほしくない

 なんであんまり無茶はしたらあかんよって、お説教もちょっとしておいた


 ルルン「えへへ、ごめんなさーい」

 

 そしたら嬉しそうに言われて、やっぱりワイはルルンちゃんには勝てそうもないわ


787:名無しの戦闘員

 お説教は心配してないと出てこんからな

 捉え方によっては嬉しいもんだよ


788:名無しの戦闘員

 なんかいい感じに終わってるじゃん

 最初に言ってたダメージってなんだったの?

 ラブコメがダメージとかどうこう


789:名無しの戦闘員

 実は俺、もう分ってる

 ニュースのヤツだろ?


790:ハカセ

 ああ、うん

 まあこれ見てくれれば一発で分かるんやけど


【Nyahaan!ニュース】

■中学校に不審者が侵入 校内は一時騒然


 クピモンのワイが中学に侵入した不審者として話題になっとる

 女生徒にどうこうとかホンマに勘弁してくれませんかねぇ……


791:名無しの戦闘員

 あっ、これやべえやつだ!


792:名無しの戦闘員

 悪の組織の科学者ポジより中学に侵入した不審者の方が悪レベルは上だなw


793:名無しの戦闘員

 変態デビューおめでとうハカセw


794:ハカセ

 名前は、名前は出とらん

 せやけどなんかの拍子で語られたらクールな神霊工学者のワイのイメージがぁ


795:名無しの戦闘員

 何度も言ってるけどお前全然クールじゃねえからw


796:ハカセ

 あと首領に「ルルンばっかりズルい!」って言われて今度学生服着ることになりました

 27歳のリアル中学制服はもう駄目だと思います


797:名無しの戦闘員

 いいじゃない?

 ハカセなら似合うってw








「のう、萌? 萌ばかりズルくない?」

「えと、ご、ごめんさい?」


 放課後、私はヴィラちゃんと一緒に喫茶店ニルでお茶をしながら、今日起こった事件について話した。

 14歳のハルさんが中学に来た時、私は一人でそれを解決した。

 クピディタースの特性はあらかじめ聞いていたので結構簡単。でも中学生のハルさんを見られなかったヴィラちゃんはちょっと機嫌を損ねてしまったみたい。

 ハルさん……ハルくんの外見は、今の大人っぽい顔立ちとは違って可愛い感じ。偽者だというのは分かっていても、同級生のハルくんという響きに少しだけドキドキする。

 そう言えば、前にインタビューで答えた。

 ハルくんと同じ学校に通ってみたいって。だから今回の件は、変わった形でお願いが叶ったように感じられた。


「まあ、いいのじゃ。今度ハルヴィエドに学生服を着てもらって学校ごっこするから」

「学校ごっこ? ですか?」

「うむ。あやつに中学の制服を着てもらい、“ヴィラ先輩”と呼んでもらうのじゃ」


 27歳のハルさんに先輩と呼ばれる。 

 それはなんというか、イケないことをしてる感じが……。

 あ、でもちょっと羨ましい、かも?


「しかし、意外とクピディタースは簡単に対処できるのう。義兄様も倒せないというからもっと難しい相手かと思っておった」

「それは……」


 未来からやってきた私とハルさんの私とハルさんの娘、花嵐のアリスを名乗った女の子は「クピディタース・ラディクスは誰も倒せなかった。だからその解決策を求めた」と言っていた。

 その理由を、私は今日なんとなく察してしまった。


「……夢を、見ていたかったんじゃないかな、って思います」

「んん? それはどういことなのじゃ」

「偽者だとしても、きっと縋りたくなってしまうから。だからきっと、誰も勝てなかった。私は、そう思うなぁ」


 敵の統括幹部代理・ハルヴィエドさんではなく、年上の社長・葉加瀬晴彦さんでもない。

 なんの肩書も背負わずにただの同級生として隣の席にいる“ハルくん”。

 偽者だと分かっていながらも、彼の見せた笑顔はハルさんのそれによく似ていたから、私は少しだけ躊躇ってしまった。

 倒すことをではなく、同級生として過ごす時間を終わらせることを。

 私も、もう少しだけ夢を。ハルくんと同じ学校に通って、同じ高校に進学して。毎日を楽しく過ごす夢を見たいと思ってしまった。

 だから未来の私達も躊躇ったのだと思う。

 いっしょにいた時間が長い分、余計にクピディタースを倒せなかった。

 

「それでも、代わりにはならないんだと思います。私達って、面倒ですね」

「むむ? 今日の萌は難しいことを言うのじゃ」

「あはは、ごめんなさいです」


 首を何度も傾げるヴィラちゃんが可愛くて、私は思わず笑ってしまった。

 今日のことは、珍しい経験をした、くらいに考えておく方がいいのだろう。

 核を手に入れたとハルさんに伝えたらすごく喜んでくれた。お礼がしたいと言っていたから、今からすっごく楽しみだ。


「そうだ、今度“ハルくん”って呼んでみようかな……」


 私がそう呼んだらハルさんはどんな反応をするかな?

 慌てふためくハルさんの姿を想像しながら、私は一口紅茶を飲んだ。



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