祭りの終わりのこと
【ある中学生男子が見る最終決戦】
首領セルレは掌から連続して溶解液を繰り出す。
その一つが、見事に直撃した。
タキシードマッチョ様に。
「ぐわあああああああ!?」
すごい、本当に服だけ溶けている。
だからこそ非常に残念だった。
「無事か、ネイキッドマッチョ様!?」
「一瞬で名前を変更すんな」
ハルヴィエドは心配しているのか、それとも弄ってるだけなのか。
とりあえずネイキッドマッチョ様は傷一つないし、胸筋がぴくぴく動いている。
人体に影響がないというのは本当らしい。
……ということは?
その時、野次馬たちがざわめいた。
首領セルレの攻めがさらに激しくなる。
通常の肉弾戦、口からの火炎放射。ちゃんとした攻撃をしつつも溶解液を何度も放つ。しかも清流のフィオナを優先的に狙っているようだ。
「くぅ……っ!(い、いけない。一発でも当たったら、恥ずかしいことになる!)」
『フハハハハハ、怖かろう!(沙雪、セクシーさでハルにアピールにゃ。友達にチャンスを作る私、ちょっと優しすぎるかも、にゃ)』
「こ、のぉ!? (み、美衣那!? なんで私ばかり狙うの!?)」
やばい、ちょっと期待している俺がいる。
だけど邪魔するようにハルヴィエドが魔力弾を放った。
「危なかったな、清流のフィオナ」
「あ、ありがとう。ハルヴィエド・カーム・セイン」※ガチ感謝
「さて。仕切り直しだ(ミーニャはアドリブ全開だった。それならば、私が多少シナリオから外れても問題ないのでは?)」
激しい戦いの最中、ハルヴィエドがひどく冷たい目で首領セルレを観察している。
屈辱を与えてきた仇敵に対する激しい感情が底にはあるのだろう。
「(私はフィオナたんと両想い。つまり実質的には夫婦とも言える。であれば、二人の絆があればこその合体奥義とかやりたい)……これは、好機と見るべきか?」
何か策でも思いついたのか、ハルヴィエドの表情が変わった。
「清流のフィオナよ。ここは共闘といこうじゃないか(合体奥義……つまり、初めての共同作業!)」
「……単騎で攻めても不利。連携が必要ということね。(シナリオからは少し逸れる。で、でもハルヴィエドさんからのお誘いなら、問題ない、かな?)……ええ、構わないわ」
統括幹部代理、水の妖精姫。
二人が肩を並べて首領セルレに挑もうとした瞬間、横から小さな影が飛び出てきた。
「えー、共闘ならぁ、私も一緒にいいですかぁ?」
キティと呼ばれたメタル兵だ。
メンバーの中でも一際小柄で、声も幼く生意気な感じ。もしかして小学生くらいなのでは?
「えっ? あなたは……」
「ハルヴィエド様の部下でーす♡ よろしくね、清流のお姉ちゃん?(ハルるん様は明らかにこの人を意識してる……リリアちゃんのためにも邪魔しちゃお)」
やっぱり子供なのか、妙に親し気に清流のフィオナに近付いていく。
……が、その途中でハルヴィエドに首根っこをつままれて持ち上げられた。
「いや、キティ? 君には市民の守りを頼んだはずだが?」
「えー、でもぉ」
「でもじゃありません。ラヴィ、任せていいか?」
我儘っぽいキティをそのままラヴィに渡し、ハルヴィエド達は再度戦いに臨む。
「ダメですよ、キティ。さあ行きましょう」
「にぶにぶハルるん様には絶対猛アピールが必要なのにぃ」
「アピールならしっかり仕事をするべきです」
「はぁーい(そうじゃないのになぁ)」
メタル兵の女の子って、あんまり怖くないんだな。
そんなことを考えつつも激戦に目を向ければ、ちょうど清流のフィオナが水の魔法を行使するところだった。
「せっかくだ。二人の力を合わせて、面白い魔力の使い方をしてみせよう」
ハルヴィエドはそう言うと、フィオナが生み出した水に自身の魔力を重ねた。
すると水がぐにぐに形を変えて、デフォルメされた猫の姿になった。
「魔力はコントロール次第でこういった真似もできる。さあ、魔法を行使してみてくれ」
「は、はい!(……初めての、共同作業? いえ、真面目に。あくまで真面目に)」
清流のフィオナが放った透明な水の猫が首領セルレに飛び掛かる。
妙に可愛らしい割にダメージはかなりのものらしく、その巨体が大きくのけぞった。
「私達の、合体技ですね(嬉しいけど笑顔は駄目。あくまで今は敵同士の設定)」
「ああ。名前は“みずみずしい猫さん”なんてどうだろう(にゃんj民、今の撮影してくれてないかな)」
ネーミングセンスがなさすぎる。
しかし敵同士だからか、合体技を決めてもあまり嬉しそうではなかった。
◆
821:名無しの戦闘員
これが日本の命運をかけたラストバトルっ!
822:名無しの戦闘員
なんて激しい戦いなんだ……………w
823:名無しの戦闘員
うん、そうだね
すごいねw
824:名無しの戦闘員
あかん、もうダメwwwwwww
825:名無しの戦闘員
我慢してきたけど腹がwww腹がよじれるwwwww
826:名無しの戦闘員
ハカセのキメ顔だけでも笑えるのにw
全員が全力で臨むコントとかもうねwww
827:名無しの戦闘員
みんな無難にこなしてるのに、ところどころエレスちゃんがやらかしてて草
828:名無しの戦闘員
いやいや、猫耳ちゃん時々「にゃ」がもれてるやんw
829:名無しの戦闘員
声が超低くて濁った感じに聞こえるから、それほど意識されてないっぽい
実際猫耳ちゃんって前情報はずすと「gyaa」みたいな感じ
830:名無しの戦闘員
ハカセはイケメンだけにああいった振る舞い似合うなー
831:名無しの戦闘員
分かる、ハカセっていちいち動きがピシッとしてて舞台役者みたい
832:名無しの戦闘員
意外とフィオナちゃんと首領ちゃんもスムーズな演技するよな
833:せくしー
首領は立場上、謁見の際には威厳ある態度を心掛けていました
フィオナさんはいいとこのお嬢様らしく、普段から自分を演じるクセがついているのでしょうね
834:名無しの戦闘員
それ聞くとちょっと複雑やな
835:名無しの戦闘員
くそぅっ! フィオナちゃんが凄すぎる!
なんで的確に溶解液を防ぐんだ!?
836:名無しの戦闘員
つかハカセはなにを目論んで服を溶かす機能を搭載したのかw
837:名無しの戦闘員
SNS、妙に盛り上がった呟きが溢れてるぞ
ロスフェアちゃんにピンク色の液体が掛かるのを期待してるヤツが多すぎ
最低だな……俺なんか真面目に応援して、緊急生放送を録画してるのに
838:名無しの戦闘員
しかし首領セルレに立ち向かうロスフェアちゃん達とハカセ
あとタキシードマッチョ様、いや服が溶けたからただのマッチョ様か
皆で力合わせてマジで最終決戦って感じだ
839:名無しの戦闘員
やっぱこう見るとハカセも強いなぁ
フィオナちゃんとの合体技、絶対内心すげー喜んでる
840:名無しの戦闘員
>837
お前も期待してるじゃねえかw
841:名無しの戦闘員
合体技で猫を出すとか、ホントにハカセ猫好きなんだな
ところでハカセ人間砲弾の出番はまだですか?
842:名無しの戦闘員
せくしーちゃん、工作終わったぞー
俺のブログ、今日はデルンケム一色だ
843:名無しの戦闘員
俺も現在進行形でSNSで呟きまくってる
844: 名無しの戦闘員
スレ立てしてきた
【朗報】デルンケム、実は慈善団体だった
845:せくしー
ありがとうございます
ハカセさんの依頼、おかげで滞りなく進んでいます
にゃんj民の皆さんにはとにかくネット上に「デルンケムは悪くなかった」という情報を流してください
「首領セルレが元凶」というのは結局フェイクニュースです
疑ってかかる人は一定数いるでしょう
最初からロスフェアさん達と組織が繋がっていた、なんて嫌な見方をする人もきっと出てきます
だからその前に、正しい情報が入り切る余地がないほどネット上に広めてしまいましょう
そうすれば後から確認しに来た人が、にゃんj民が流布した情報を読んで「あれは事実だった」と確信を持ちます
一部が真実に気付いても多数が信じ込めば私達の勝ちです
846:名無しの戦闘員
俺、デジタル配信者やってるから特別配信やるわ
考察ってテイで、ハカセがこんなことをやってきたって紹介する
847:名無しの戦闘員
ワイもロスフェアちゃん画像まとめに魅力的なヤツをアップしました
848:名無しの戦闘員
こんな手使ってくるハカセ、結構タチ悪いよな
いっつも首領ちゃん達のためにそういう手を取ってきたんだろうけど
849:名無しの戦闘員
>847
それは完全に意図とは違うけどサンガツ
850:名無しの戦闘員
緊急生放送もすごいことなってんぞ
協力して戦ってる映像を見ながら著名人がコメントしてる
851:名無しの戦闘員
そしてアニキはまだ磔に
852:名無しの戦闘員
アニキィ!
853:名無しの戦闘員
A子ちゃん、おろしてやろうぜw
854:名無しの戦闘員
地味に首領ちゃんが操作してた時より強いな
855:名無しの戦闘員
猫耳ちゃん格ゲー得意だったのか
856:名無しの戦闘員
おお、現地の野次馬がハカセ達を応援してる
857:名無しの戦闘員
裏事情知らなかったら燃える展開だしなぁ……
858:名無しの戦闘員
俺らからしたらただの茶番です
あとエレスちゃんの反応がいちいちカワイイ
859:名無しの戦闘員
細々とミスする辺り、嘘のつけない良い子なんだろうな
860:名無しの戦闘員
テレビのニュースでいつかの社会学者が「デルンケムは首領セルレに乗っ取られていた」って語ってる
首領セルレ元凶説、俺ら以外も結構信じてるっぽい
861:名無しの戦闘員
社会的地位と公共の電波って強いな
SNSでも話題になってるわ
862:名無しの戦闘員
SNSで女性教育評論家も「ハルヴィエドの矛盾」を実例上げて突き詰めて、ハカセが実は優しい人だってやってるぞ
というかこの人、エレスちゃんがハカセにお姫様抱っこされてるところを見たのか
「まるで王子様とお姫様みたい!」とか「二人、お似合いだなぁ。素敵」とか呟いてた
863:名無しの戦闘員
意外とエレハカ推し多いんだな
女だし、実はこいつエレハカ女だったり……
864:名無しの戦闘員
ボクっ娘背徳浮気ルートを書くヤツが教育評論家はないだろ
子供に悪影響すぎるわ
865:名無しの戦闘員
さすがにそれはない
…………ないよな?
866:名無しの戦闘員
首領セルレが追い込まれてきた
ロスフェアちゃんが合体攻撃の構え
その間の時間稼ぎをハカセとゴリマッチョでしてる形
867:名無しの戦闘員
デカい決め技でケリを付けるとか、分かってる
868:せくしー
……どこまで、予測していたんでいたんでしょうね
869:名無しの戦闘員
どういうこと?
870:名無しの戦闘員
せくしー、なんかあった?
871:せくしー
デルンケムの先代は確かに偉大でした
困難を蹴散らす強さ、豪放な性格、敵や従わない者ですら受け入れる度量
戦闘員達にも寛容で、自分の子供に対する優しさも持ち合わせている
下層に生まれた人達はそんな先代に惹かれて集まってきました
ですが、決して優れたリーダーではありませんでした
ハカセさんやアニキさんが組織の運営を担っていたのは言わずもがな
多くの戦闘員は先代の背中に希望を抱きましたが、肝心の本人には「皆で好き勝手やる」以上のビジョンがなかったんです
今の首領は、そんな父親に憧れて、彼を目指しました
上手くいかないのも当然ですよね
そもそも先代には明確な指針なんてなかったのだから
872:名無しの戦闘員
あぁ、そっか
ハカセも恩人って言ってるし、先代は個人としてはすごくいい人だったんだと思う
でも組織としては、皆に「この人が示す先なら安心してついていける」って思わせる旗でしかなかったんだな
873:名無しの戦闘員
でもそれはそれで得難い才能だよね
たぶん首領ちゃんにもアニキにも、ハカセにもなかった
「カリスマ」とはまた違う、ならず者をまとめ上げる「男臭さ」っていう才能
874:せくしー
仰る通りだと思います
でも、間違った憧れはどこかで正さないといけないのだと思います
実は遠隔怪人セルレリアンの外見は、先代をモチーフにしています
不思議なものですね
紆余曲折を経て、首領にとっても組織にとっても、先代の面影を映す怪人が倒すべき敵となりました
だからふと思ったんです
これはハカセさんが狙ったことなのかと
まるで首領が、組織の皆が、なによりハカセさん自身が
先代の面影を振り払うための儀式のように感じられたのです
先代はハカセさんにとって、掛け替えのない恩人だったと聞いています
なら彼はなにを想って、恩人を象った怪人を造り、それを打ち倒す状況にまで誘導したのか
875:名無しの戦闘員
せくしーちゃん、俺らよりハカセと付き合い長いのにアホやな
876:名無しの戦闘員
うん、アホだ
877:せくしー
どういうことでしょうか?
878:名無しの戦闘員
ハカセが何考えてたかなんてワイでも分かるで
そんなん「皆が笑ってバカやれるようにしたい」に決まっとるやん
そのために打てる手を全部打っただけ
後悔はしてない、それは間違いないンゴ
879:名無しの戦闘員
そうそう、ハカセの目的は1スレ目からずっと同じ
首領ちゃんが後悔しないように、ロスフェアちゃんが傷付かないように
組織の皆が最後の最後には笑えるような結末だけを望んでた
もちろんその皆の中にはせくしーちゃんも含まれてるぞ
880:名無しの戦闘員
>878
ハカセの目的ってたぶん先代に近いんだよな
皮肉だけど実子である首領ちゃんや義息子であるアニキよりも、ハカセが一番先代の遺志を汲んでたんじゃないか?
ただ先代と違って「皆で好き勝手」は長く続くもんじゃないって知っていた
だから続けるためにハカセは最大限の努力をしていたんだと思う
881:名無しの戦闘員
ハカセが辛い思いしてないか気になるんならさ
焼きそばでも作ってあげたら喜ぶんじゃないか?
せっかくだから首領ちゃんや猫耳ちゃん、ロスフェアちゃん達の分も一緒に
882:せくしー
……そうですね
全部終わったら、腕によりをかけようと思います
◆
【ある中学生男子が見届ける結末】
正義の味方も悪の組織も俺からすれば、ひどく遠い存在だった。
突然日本侵略を開始した神霊結社デルンケム。
それと対峙するロスト・フェアリーズ。
大人たちは騒いでいるけど、浄炎のエレス達の活躍のおかげで被害は殆ど出てないし、俺からしたら他人事だ。
変身ヒロインが怪人と戦うなんて特撮モノみたいだよな、とか言って事件のニュースを見ては同級生と馬鹿話をする。そういう日常のネタの一つでしかない。
……まあ、ロスフェアの誰が一番かわいいとか。
あの衣装ってちょっとすごくねー? とか。
俺が変身ヒーローになって颯爽と彼女達を助ける、みたいな妄想をしたことはある。
つまり俺はごくごく普通の中学一年生の男子だった。
そんな俺は多くの野次馬に混じって、決着の瞬間をこの目で見た。
浄炎のエレスの拳に、清流のフィオナと萌花のルルンが手をかざす。
たぶん魔力を集めているんだろう。
それに気付いたネイキッドマッチョ様が、巨大な斧で首領セルレを叩き伏せる。
さらにハルヴィエドが光る鎖のようなものを呼び出して、六つの腕と足と胴体を完全に拘束しきった。
一度退いたハルヴィエドは金髪の美少女の隣に立つ。
あいつは、こちらからは聞こえないくらい小さな声で何か語り掛けていた。
聞き終えた瞬間、美少女ちゃんは透明な雰囲気はそのままに、なにかを決意したのか雰囲気が少し変化した。
「浄炎のエレスよ。最後の始末、頼むのじゃ!」※アドリブ
「えっ!? ……うん!」
「あれは振り払わねばならぬ面影。私は、過去に囚われることなく、前に進まねばならん!」
きっと首領セルレにひどいことをされてきたのだろう。
その辛く苦しい過去との決別をここに宣言する。
それが嬉しかったのか、ハルヴィエドはひどく優しい笑みを零した。
「………悪いな(セルレイザ様。あなたには感謝しているですが、私は今いる皆が思った以上に好きなんだ)」
何か呟いたようにも見えたが、当然ながら遠すぎて聞こえなかった。
そうして、最期の瞬間が訪れる。
『ぐわああああにゃあああああああああああ!!!?』※消え去る命が遺す重苦しい断末魔、のど飴一個使用
浄炎のエレスが放った特大の一撃、その魔力の奔流に飲まれ。
すべての元凶だった首領セルレは、亡骸さえ残さずに完全に消え去ったのだった。
* * *
「これで…終わったのじゃな……」
金髪の美少女は、六腕の化け物が消えていった夜空を眺めている。
なんだろう、悲しんでいる、のだろうか。
自分を閉じ込めていた相手だというのに、それでも死を悼んでいるのかもしれない。
美少女なのに心優しい。すげーな、あの子。
いやいや、俺にはちゃんと好きな人がいるんだ。変なことを考えたら駄目だ。
「やった。皆さん! ボクたちは、諸悪の根源である首領セルレを倒すことが出来ました! これで、デルンケムの脅威はなくなりました!」
浄炎のエレスが高らかに腕を掲げて勝利の宣言をする。
遅れて、集まった野次馬たちから喝采が上がった。
正義の変身ヒロインが、悪の組織に勝ったのだ。
俺も柄にもなく声を上げてしまった。
そんな中、ひっそりとハルヴィエドとネイキッドマッチョ様、それに金髪の少女がこの場を離れようとしていた。
いつの間にか磔の黒騎士と女戦闘員の姿もない。
「ま、待ってください!」※台本通りの流れ、呼び止め役はクジで決めました
それに気付き、清流のフィオナが呼び止める。
足を止めて振り返ったハルヴィエド達は、とても満足そうな表情をしていた。
「世話になったな、ロスト・フェアリーズ。私達はこれで失礼するよ」
「……どこに、行くんですか?(ここが山場、絶対にミスは出来ない)」
「首領セルレによってデルンケムはただの犯罪集団になった。それを元の慈善団体に戻す。忙しいのはこれからだ」
「うむ。私も、ハルヴィエドの力になるのじゃ」
金髪の少女が、こてんとハルヴィエドに頭を預ける。
これだからイケメンは嫌だ。よく見ると、萌花のルルンも不機嫌そうだった。
きっとチャラいイケメンが好きじゃないんだ。ざまーみろ。
「……君達には感謝している。おかげで、大切なモノを失わずに済んだ」
「私達こそ。貴方の攻撃で、私達が傷付いたことは一度もなかった。首領セルレに抗って、ずっと私達の味方をしてくれていたんですね?」
「さて、なんのことだか」
肩を竦めてみせる。
きっと清流のフィオナの指摘は正しいのだろう。
前にワイドショーでやっていた。デルンケムの怪人によって死んだ人間はいないらしい。
そんな偶然ある訳がない。癪だけど、こいつなりに日本人を守ろうとしていたんだ。
「感謝しています。ハルヴィエド・カーム・セイン……貴方は最後の瞬間、確かに私達の仲間でした」
「勘弁してほしいな。君達のように見目麗しい少女と一括りにされては、喜びよりも照れが先にきてしまう」
「ふふ。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞ではないさ」※マジで
意外と馬が合うのか、二人は楽しそうに会話をしている。
けれど不意に清流のフィオナは何気なく問うた。
「……また、会えますか?」※アドリブ
「会わない方がお互いの為だと思うが」
「仲間だって、言ったでしょう?」
「はは。まあ、生きていればそんな機会もあるかもしれない」
お互い軽い笑みを交わす。恋人のそれとは少し違う。
気の置けない戦友との離別といった雰囲気だった。
「……(アドリブなのにすごい自然。晴彦さんも沙雪ちゃんも凄いなぁ。別れも何も、この後打ち上げでまた会うのに)」
「ハルさん。お元気で……」※お目目うるうる
「(ルルンちゃんもかぁ……)」
涙ぐむ萌花のルルンの傍らで、浄炎のエレスが何も言わず成り行きを見守っている。
取り乱した様子も悲しんだ表情も見せない。リーダーだからか、彼女の態度は堂々としていた。
「おう、ハルヴィ。行くか」
「そうだな。ラヴィたちも」
「妖精姫たちよ。本当に、感謝をしておる。本来私は、デルンケムの長だったのじゃ。それを首領セルレによって、間違った方向へ歪められてしまった。全ては、私の愚かさが招いたこと」
金髪の美少女の発言に周囲もざわついた。
本来ならデルンケムはこの優しく綺麗な女の子がトップの慈善団体だったのだろう。
それを首領セルレが悪の組織に変えた。
結果起こったのが日本侵略なのだ。
「だからこそ、私はこれから変わろうと思う。もしかしたら、再び会う機会もあるかもしれん。その時には、皆を助けてやれるデルンケムを見せてやるのじゃ(私、主演俳優賞かのう?)」
少女は別れ際に見惚れるくらいの笑顔を見せ、転移ゲートを通り帰っていった。
清流のフィオナは切なさを感じさせながらも、小さな微笑みでそれを見送る。
「……また、会えるといいですね(最後の会話、私も演じたかったなぁ。沙雪さん羨ましいです)」
「ええ、またいつか……(これ実質ハルヴィエドさんとの逢瀬では?)」
「うん、そうだね(よかった、何とかいい感じにまとまった……。打ち上げは特上のお寿司だって言ってたなぁ、楽しみー♪)」
ロスト・フェアリーズの悲しそうな、それでも明日の希望を信じているような明るい表情が印象的だった。※お寿司効果
◆
ロスト・フェアリーズは神霊結社デルンケムに勝利した。
首領であるセルレの死をもって日本侵略は中止。
かつて長だったという少女の言葉が本当ならば、これから組織は穏やかな慈善団体に戻っていくのだろう。
少し未来の話をするならば、デルンケムの撤退と共に複数の企業との癒着が明らかになった。
役員の解雇など大幅な改革を余儀なくされた企業も多い。
また実効支配されていた土地や施設は再び放置されることになったが、それを良しとしないとある合同会社によって買収された。
社長代理である葉加瀬晴彦氏は「利益という点では決して大きくない。しかし、日本の今後のためには必要なことだ」と発言をしている。
悪の組織の名残は少しずつ消えていき、いつかは人々の記憶からも薄れていくのだろう。
こうして戦いは本当に終わりを迎えたのである。
* * *
まったくもって必要のない、読まなくてもいいおまけ(BSS注意)
おまけ・【ある中学生男子の憂鬱】
今日は凄いものを見た。
正義の変身ヒロインと悪の首領のガチバトルとか、そこらのアイドルとか目じゃないくらい可憐な金髪の美少女とか。
まあ溶解液が全部防がれたのは……おっと、いけないいけない。
ともかく、明日の学校に行ったら、デルンケム撤退の話題で持ちきりだろう。
でもイケメンはムカつく。ハルヴィエド爆発しろ。
お祭り騒ぎのようなラストバトルが終わって、俺は家に帰った。
結構遅くなってしまったせいで母ちゃんにすげー怒られた。
でも、まだ姉ちゃんも戻ってきていないようだ。
「なあ、母ちゃん。アカネは?」
「ちゃんとお姉ちゃんって呼びなさいっていつも言ってるでしょ! 沙雪ちゃん達とお泊り会だって」
「うっそ、マジで……」
俺の名前は結城晃(ゆうき・あきら)。
ごくごく普通の中学一年生だ。
勉強は普通、運動も普通。バスケで膝を壊した姉ちゃんが苦しんでるのを見てるから、運動部にも入らず帰宅部のエースをやっている。
顔は中の上……だと思いたい。
そんな俺だが、実は周りの男子から結構羨ましがられる立ち位置にいる。
というのも、俺の姉ちゃんである結城茜は弟の目から見ても可愛い。
一人称がボクだったり家事とか苦手で女の子らしさには欠けるけれど、意外男女問わず人気があるのだ。
その上、姉ちゃんには仲良くしている先輩、神無月沙雪さんがいる。
有名デパートの社長の一人娘で、ロングヘアの超が付く美人。
俺は姉ちゃん繋がりで結構話すし、弟だから神無月先輩からは「晃くん」なんて呼ばれちゃっていたりする。
そして何より、同じクラスの朝比奈萌ちゃん。
この子も、どういう繋がりかは知らないが姉ちゃんと親しい。
おかげでよく家に遊びに来たりするのだ。
朝比奈さんは無邪気で可愛い。個人的にはクラスでもトップの美少女だと思ってる。
まだ恋愛なんて意識してない、幼さの残る女の子。実は密かに狙っている男子も多い。
でも、その中でも俺はリードしていると思う。
私服とかも見たことがあるし。
順調に仲良くなっており、高校になる頃には……なんて想像をしてしまう。
そんな感じで周りに美少女が三人もいるから、ダチ連中には「なんだよ、ハーレムかよ!」なんて言われたりしてる。
まあ、俺としては全然そんなつもりはないんだけどさぁ。(ニチャア
「でもアカネのやつ、お泊り会かぁ。ぜってー朝比奈さんも一緒だよなぁ」
どうせならウチでやってくれればいいのに。
そうすれば神無月先輩や朝比奈さんのパジャマ姿を見たり、一緒に朝ご飯とか嬉しいイベントが起こったはずだ。
文句を言ったところでどうにもならないけれど姉ちゃんが羨ましい。
「晃、さっさと晩ご飯食べちゃいなさい」
「はーい……」
俺は深い溜息を吐きつつ、夕食に箸をつけた。
【ある中学生男子の憂鬱】・おわり
──────────
副題【俺の姉ちゃん・美人な先輩・気になる女の子が知らないうちに悪の科学者に奪われていた件】
第三者視点からハカセ達のラストバトルを見たお話に擬態した、
姉ちゃんが悪の科学者にお姫様抱っこされて、気になる女の子が後ろから抱き着いている姿を見ているのに、認識阻害のせいで全く気付けないという壮大な変則BSS案件
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