【相談スレ】ワイ悪の組織の科学者ポジ、首領が理不尽すぎてしんどい【掲示板形式】

ゴリマッチョのこと、或いはハカセの企み

　都内某所。

　神霊結社デルンケムの襲撃により、道行く人々は騒然としていた。

　対するは【ロスト・フェアリーズ】。

　妖精姫、浄炎のエレスが一気に前に出る。

　今回は魔霊兵や怪人だけではない、デルンケム統括幹部代理、ハルヴィエド・カーム・セインの姿があった。

　エレスは他の二人に足止めを任せ、幹部をここで倒すつもりだった。

「統括幹部ハルヴィエド！　覚悟しろ！」

「あくまで私は代理だよ、エレスちゃん。そこを忘れてもらっては困るな」

「ううぅ、ちゃ、ちゃん付けとか、バカにするな！」

「そんなつもりはなかったのだが、すまないな（しまった、普段のクセが）」

「もぉ、やりにくいなぁこの人？！」

　敵なのに、妙に親しげな瞬間のある統括幹部。しかも素直に謝るのだから、こちらとしても態度を決めかねる。

　浄炎のエレスは炎をまとった拳で果敢に攻めるが、統括幹部代理ハルヴィエドはそれをいなしていく。

　高速の近接戦闘をしながらも、ハルヴィエドはどこか余裕のある態度を崩さない。　

　さらには反撃の蹴りを繰り出した。

「くぅ、強いっ」

「ふふふ、その評価は嬉しいが、残念ながら私は幹部最弱だ」

　得意の格闘でも互角以上。

　しかしハルヴィエドは研究畑の人間だと以前言っていた。つまりデルンケムの幹部は、本職でない者ですらこのレベルなのだ。

「エレス、引いて！」

「フィオナちゃん！」

　エレスが大きく引くと同時に、清流のフィオナの魔力が迸る。

　高圧水流がハルヴィエドに襲い掛かるも、それは簡単に無効化されてしまった。

「バリアー……？！」

「魔力干渉の断絶だ。こういった小細工の方が私の本業でね」

「くっ、これが、統括幹部の実力……！」

「ふふ……（ハルヴィエド特性アイテム使えば誰でもできるけど、それは内緒ということで）」

　二人がかりでもハルヴィエドにかすり傷さえ負わせることができない。

　魔霊兵や怪人を倒してきたことで勘違いしていた。まだ、幹部クラスとはここまでの差がある。

　エレスは呼吸を整える。

　ならば、聖霊天装に勝負を賭ける。

「きゃああああああ？！」

　しかし集中が途切れてしまう。

　魔霊兵や怪人の足止めを任せていた萌花のルルンが攻撃を受けたのだ。

「わっ、ちょ、ちょっとまってください？！」

　ダメージはほとんどないようだが、ただでさえ薄い妖精衣が破れて、肌が露出している。

　まだ中学生の女の子だ。恥ずかしさから動けなくなってしまっていた。

「む、いけないな」

　ハルヴィエドはそれを見るや否や、エレスとの戦闘を中断しそちらに向かった。

　かと思えば、妙に襟が立ったマントを脱ぎ、ルルンにすっぽりと被せた。

「あ、あれ？　えーっと……？」

「さて、今回は目的を達成した。ここで退散させてもらおう」

　ルルンの肌を隠したハルヴィエドは、撤退を決めたらしく空間ゲートを展開した。

「えっ？！　ま、待て！」

「では、失礼するよお嬢さん方。また会える時を楽しみにしている（マジで）」

　エレスが止めても振り返らず、彼は転移で逃げおおせた。

　気付けば魔霊兵や怪人もいなくなっており、その場には戦闘による傷跡とロスト・フェアリーズだけが残された。

「もお、なんなのアイツ？！」とエレスは怒りに顔を真っ赤にしている。

「目的は達成したと言っていたけれど、一頻り暴れて建築物や道路が破壊されただけ。いったい、彼はなにがしたかったのか……」

　フィオナは頭を悩ませている。

　微妙な表情をしているのがルルンだ。

「わ、私はなんか助けられちゃいました。えへへ……」

　襟がすごいマントで体を隠しながら、ルルンがぎこちなく笑う。　

　ハルヴィエドは奇妙な人物だが紳士ではあるのだろう。

　結局今回の襲撃の目的は分からないままだが、一つだけ確かなことがある。

「少なくとも、通常の妖精衣のボクじゃ幹部クラスには敵わない……」

　言い知れない敗北感を味わい、エレスは呻いた。

　◆

785:ハカセ

　ふふふ　まさかフィオナたん達も、

“首領のご機嫌を取るためにル〇ーシュマントで出撃すること”自体が目的だとは思うまい……

　しかもルルンちゃんの肌を隠すために使い紛失、これじゃもう着れないなーという理想的な流れ

　さすワイ

786:名無しの戦闘員

　　未だかつてそんな理由で出撃した幹部知らねえｗ

787:名無しの戦闘員

　でもSNSでハカセ叩かれまくってるぞ

「悪の組織の幹部のくせして邪魔しやがって！」「ルルンちゃんのピンク色が見れなかった！」みたいな感じ

788:名無しの戦闘員

　ハカセ　お帰りー

　出撃した日も書き込むとか相変わらずにゃんｊ民してるなー

789:ハカセ

　＞787　ワイも男やから気持ちは分かるが、今回はすまんなってことで

　ただいまやで

　とはいえまた出かけるんやけど

790:名無しの戦闘員

　あれ、まだ仕事？

791:名無しの戦闘員

　しかしハカセ意外と強くてびっくり

　幹部最弱でこのレベルとかアニキがおったらロスフェアちゃんヤバかったな

792:ハカセ

　この前お誘い断ってもたからな

　今夜はゴリマッチョと回転寿司食べに行く予定や　臨時収入もあるし

793:名無しの戦闘員

　ゴリマッチョも日本に溶け込んでるのか……

794:名無しの戦闘員

　この調子だと気付いてないけどお隣さんが元デルンケムってのもありそうだな

795:名無しの戦闘員

　臨時収入？

796:ハカセ

　土建関係の企業とちょっと癒着しとってな

　ワイらがぶっ壊す→仕事が増える！　の流れが結構美味しいらしい

　前もって某企業の役員に襲撃について情報流すようにしたらお小遣いくれるんよ

　ま、怪人倒されても収支トントンくらいには出来るようになったわ

797:名無しの戦闘員

　嫌な侵略の仕方してる……

798:名無しの戦闘員

　ロスフェアちゃんじゃ絶対止められないタイプの攻め方だ

　しかも俺らが知ったところでどうにもならないし

799:名無しの戦闘員

　ハカセが悪の科学者っぽい……

800:ハカセ

　ぽいもなにも本物やし

　お寿司の後は「アン〇ニオ猪木十番勝負」のビデオも見るで

　ふふふ　今夜くらいはビール三本の制約を開放してもかまわんかもな　

801:名無しの戦闘員

　それはやめとけ　絶対後悔するから

802:名無しの戦闘員

　前の飲み会の時といいハカセとゴリマッチョ仲いいよなぁ

803:名無しの戦闘員

　パワータイプの戦闘職と研究者って相性悪そうなのにな

804:ハカセ

　実際組織に入ったばかりの頃はいがみ合いもしたわ

　ワイが17歳の時、現首領の病気をどうにかするためにスカウトされたって話は前にしたよな？

　もっとも首領のそれは疾患というより生来の性質、治せるようなもんやなかった

　そやから限定的な異空間を造り、生物に適した環境に整え基地を建設するっていう力業でどうにかした

　建設には二年くらいかかったけど、おかげで首領は基地内限定でも気兼ねなく出歩けるようになった

　幼首領「ありがとね、ハカセ！」

　超かわいい首領ちゃん、その笑顔のまー破壊力の高いこと

　先代も組織の貯えクソほど使ったのに、一切責めずに「よくやった！」って褒めてくれたわ

　そんな感じでワイは「あ、ここで働こ」って思ったわけやな

805:名無しの戦闘員

　子供のためとはいえ先代さん器でけぇな

806:名無しの戦闘員

　軽く流されてるけど異空間を造るとかとんでもないことしてんなハカセ

807:ハカセ

　まあその後先代の経営手腕の低さが露呈してまうんやけどな

　経営資金が底をつこうとしてんのに「また稼げばいいじゃねえか」と楽観すぎるご意見

　あ、ヤバい　この人ってば金勘定がダメなタイプや

　呆れはしたが理解のある雇い主なのも事実やし、ワイはアニキに協力して組織が上手く回るよう裏方仕事を率先してやるようになった

　仕事が楽になるってアニキは喜んでくれたわ

　そしたら今度は先代直々のお呼び出しよ

　先代「喜べハカセよ、お前を幹部に任命する！　これからは権限も強くなる、もっと自由にやれるぜ！」

　自由にと言えば聞こえはいいが、つまり面倒事はお前の裁量に任せるってことな

　つまるところ、ワイの幹部入りって功績を称えるより出来る仕事の範囲を広げるための理由付けだったわけや

　当然仕事の量は目に見えて増えた

　え？　舐めてんの？

808:名無しの戦闘員

　先代の時点でわりと理不尽じゃねえかｗ

809:ハカセ

　今と違って人手はあったから自分の研究を楽しむ時間はあったけどな

　ただ、それがゴリマッチョには「好き勝手しながらも先代やアニキの信頼を得て異例の速度で出世する頭でっかち」に見えたみたいや

　マッチョ「おい、テメエ。調子に乗ってんな？」

　　　ワイ「用件なに？　ワイまだ仕事あるんやけど」

　マッチョ「そんなの関係ねえ！」

　　　ワイ「関係あるわ。ゴリマッチョが壊した基地設備の修繕手配や」

　　なおワイの皮肉は全く通じていない模様

　マッチョ「俺はテメエの幹部入りを認めちゃいねえ」

　　　ワイ「奇遇やな。ワイもですが？」

　　一番認めたくないのワイに決まっとるわ　仕事メッチャ増えとるからね？

　マッチョ「お子さんを助けたことは、まあ褒めてやる。だが！　てめえが幹部を名乗るんなら、その価値を俺に示してみやがれ！」

　そう啖呵を切って、ゴリマッチョは去っていった

810:名無しの戦闘員

　見事な脳筋ムーブだ

811:名無しの戦闘員

　ゴリマッチョからしたら憧れの先代さんとアニキに認められてる時点で引っかかるわな

812:ハカセ

　そこら辺の機微を察してはいても、なにせワイもまだ若かったからな

　ゴリマッチョとは今一つ噛み合わんままやった

　仕事での接点も少ないし現状維持でも構わんかな、そう思ってた時やった

813:名無しの戦闘員

　お、急展開？

814:ハカセ

　戦闘業務のゴリマッチョはよく鍛錬をしとった

　場合によってはトレーニングルームを貸し切る場合もあった

　ただその頻度が多い上に無断の時間延長も多くてなぁ　周囲からクレームが上がっとったんや

　とはいえヒラの戦闘員では文句も言えん

　で、同じ幹部のワイに「どうにか注意してもらえませんか？」とお鉢が回ってきた

　ぶっちゃけ嫌やったけど放置するわけにもいかん

　結局ワイは鍛錬中のゴリマッチョを訪ねて、貸し切りのトレーニングルームに足を踏み入れた

815:ハカセ

「天に轟け、地よ唸れ！　我が咆哮を喰らえ！！　　覇王滅殺爆烈竜撃破岩砲ぉぉぉぉぉ！！！」

　ワイが部屋に入った時、ゴリマッチョはちょうど覇王滅殺爆裂竜撃破岩砲をしている最中やった

816:名無しの戦闘員

　これ知ってるｗ　かめ〇め波の練習みたいなヤツだｗ

817:名無しの戦闘員

　俺もアバン〇トラッシュでやったことあるｗ

818:名無しの戦闘員

　いや、でもハカセの次元は魔法も異能もあるんだろ？

　そういう決め業の練習ってそんなに変なものでもないような気が

819:ハカセ

　うん、そやね

　アニキもワイも猫耳くのいちもセクシーも必殺技の一つや二つ持っとる　

　特に猫耳は家伝の技もあるしな　

　問題はそこやない

　マッチョ「駄目だな、今のはスタイリッシュさが足りない。それに技名の語呂も悪かった。口上も今一つか」

　あいつ技自体やなくて、技を出す時の決めポーズと口上のカッコよさを練習しとったんや

　ついでに言ったら技自体もただの魔力砲やし

　名前、いっぱい頑張って付けたんやろな

820:名無しの戦闘員

　これは恥ずかしいｗ

821:名無しの戦闘員

　でも気持ちは分かるｗ

　男の子だもんな、異能が使えるならカッコいいやつがいいよなｗ

822:ハカセ

　鍛錬を続けるゴリマッチョ　それを見るワイ

　　　ワイ「……」

　マッチョ「よし、いくぜ。我が全霊の奥義、受けてみるがいい！」

　　　ワイ「…………」

　マッチョ「お、今の良い感じじゃなかったか？　ポーズはもっと力強く」

　　　ワイ「………………」

　マッチョ「首領がいるのに覇王はまずいか。闘王、の方が………ん？」

　　　ワイ「………………………」

　そこで、目が合った

　固まるゴリマッチョ　固まるワイ

　震えるゴリマッチョ　固まるワイ

　赤くなって青くなるゴリマッチョ　それをじーっと見つめるワイ

　ワイが親指で「こっちに来い」と示せば、項垂れたゴリマッチョは素直に従った

822:名無しの戦闘員

　いたたまれねぇｗ

823:名無しの戦闘員

　今となってはさっきの啖呵がむなしく響くぜ

824:ハカセ

　マッチョ「いや、違うんだ。首領やアニキは、すげえ必殺技があるんだ」

　　　ワイ「うん」

　マッチョ「でもよ、俺は出力こそ高いが単純な魔力操作しかできねえから、強化と収束、放出がせいぜいだ」

　　　ワイ「うん、それで？」

　マッチョ「だからその、せめてポーズとか口上はハッタリの利いたやつが欲しくて」

　　　ワイ「トレーニングルームを貸し切って練習してた？」

　マッチョ「…………はい」

825:名無しの戦闘員

　悲しいのうｗ　かなしいのうｗ

826:ハカセ

　ワイに秘密を知られたゴリマッチョは思い切り落ち込んどった

　ただ、別にワイはやり込めたかった訳やない

　馬鹿にする気もな

　そやから優しく声をかけた

　　　ワイ「恥ずかしがるこたないで、ゴリマッチョ。こいつを見てくれ」

　マッチョ「それは……な、なんだと？！」

　ワイが見せたのは一冊のファイルや

　そこには怪人の草案がいくつもある

　マッチョ「有する特殊能力は同じ……なのに、デザインやモチーフがどれも違う！」

　　　ワイ「そう。ワイもお前をバカには出来ん。同じ能力でも、怪人のデザインによってイメージは全く変わるんや」

　マッチョ「お、おお！　分かる、分かるぜ！」

　ワイは研究者ではあるが機能だけでなくデザインにも拘りたいタイプ

　炎を操る能力はできれば機械的な怪人よりも火炎鳥モチーフがいい

　必殺技のポーズを考えるゴリマッチョの気持ちはよく分かった

827:ハカセ

　マッチョ「ハカセよ。俺はお前を誤解していたようだ」

　　　ワイ「ふっ、それはワイも同じや」

　マッチョ「なあ、お前の技術で俺用の大戦斧を作ることは？」

　　　ワイ「特殊な魔霊変換器によって、雷撃を放つことさえ可能や」

　マッチョ「お、おおおお！　そうだ、斧には雷属性！　話せるじゃねえか！」

　こうしてワイたちは和解した

　以来ゴリマッチョの武器はワイが調整し、それをもって多大な戦果を叩き出す

　戦場を共にすることはないが　ワイたちのコンビは多くの戦士を恐れさせたもんや

828:名無しの戦闘員

　お前らが仲いい訳わかったわ　つまり同タイプの馬鹿なんじゃねえかｗ

829:名無しの戦闘員

　別次元にもそういう病気のお方っておられるんすね

830:ハカセ

　こうしてワイらは友人となり、今や普通に飲みに行く仲ってわけや

　おっとそろそろ時間やな

　そんじゃ夕飯行ってくるから今日はこれで落ちるわ

831:名無しの戦闘員

　おー、飲みすぎんなよー

832:名無しの戦闘員

　まあでもそうやって馬鹿やれる友達は普通に羨ましいな

　◆

「はぁ、食った食った。俺、やっぱハマチが一番好きだわ。日本はマジで食いモンが美味ぇな」

「まったくだ。今度はゼロス様も誘って焼肉はどうだ？」

「いいじゃねえか。ハルヴィ、声かけといてくれよ」

　俺ことレング・ザン・ニエべは友人のハルヴィと寿司を食べた帰りだった。

　いい感じに酒も入って気分が高揚している。

　統括幹部であるゼロス様の追放を機に組織を離れた俺は、今では日本で暮らしていた。

　戸籍の偽造はハルヴィがやってくれた。

　ヴィラベリート様に含むところはないが、それでも先代首領セルレイザ様やゼロス様のいない組織に魅力は感じなかった。　

「おう、お前は組織を離れる気はねえのか？」

「ああ。私は、ヴィラ首領の補佐をしたいしな」

「お前は昔からヴィラベリート様に甘ぇな。こき使われるだけだろうに」

　同じ幹部ではあるが、ハルヴィの立ち位置は先代に近かった。

　そのせいか、こいつが首領に抱くのは忠節よりも親しみや単純な心配だ。

　おかげで余計な苦労を背負い込んでるってのに、我が友人ながら奇妙な奴だと思う。　

「それよりレング、“頼み事”の件は任せたぞ」

「おお、そりゃ構わねえが。いいのか？　下手しないでも、ヴィラベリート様は余計ヤバくなるんじゃねえか？　いや、早々に見捨てた俺が言うのもなんだがよ」

「お前がタイミングさえ間違わなければ、そうはならないさ」

　はっきり言って俺は頭が悪い。

　今日はハルヴィに“頼み事”をされたが、一体それがどんな意味を持つのかは理解できない。

　それを実行すればデルンケムが窮地になるようにしか思えないのだが。

「お前にしか頼めないことだ。ヴィラ首領にも内密に、な」

　念押しされて俺は頷いた。

　まあ賢いこいつのことだ、俺には分からない企みがあるんだろう。

　そんなことよりも、今日はこのままウチでアン〇ニオ猪木の名勝負を堪能するのだ。

　久しぶりの友人との時間に俺はご機嫌で、小さな疑問はすぐに忘れてしまった。