28、お手。
屋上の床に座り集会を開く奴隷達。
「しかし驚いたな、俺たちは話の中に出てくる登場人物なのか‥‥‥」
「ネロも信じてくれるの?」
「お前がそんなつまらない嘘をつくとは思えない」
やはりネロ様は心までイケメン。
「問題はアルのご主人が、このままだと罪を被って処刑されちゃうってことだね」
イケメンレックス君のイケメンも伊達じゃない。
「おい、俺もアルバートの言う事は信じるけどよ‥‥‥何言ってるかほとんど理解出来てねぇ」
ゴードンの機関車っぷりも目を見張るモノがある。
「よし、もう一度話そう」
「アル、ゴードンには後で僕が噛み砕いて話すから大丈夫」
お前らは‥‥‥揃いも揃ってイケメンだよ‥‥‥。
「つまり、次襲われるのは僕って事だね」
「うん。今1位のレックス君のチームが4回戦の開始直前に狙われる。まあ、襲われるというか次のは完全に嫌がらせなんだけどね‥‥‥」
「どんな事をしてくんだ?」
よくわかってなくても話には入ってくるゴードン。
「ニーナ嬢の鞭が破壊される」
「‥‥‥なんだそりゃ? 割とライトな嫌がらせだな」
「それがそうでもないんだ。次の4回戦は主人達による鞭打ち対決だから、鞭を破壊されたチームは不戦敗になる」
「替えの鞭を持って行ってりゃいいじゃねぇか」
「嫌がらせを受けると知ってる今ならそれで回避出来るかもしれないけど、普通鞭って何個も持ち歩くもんじゃないだろ?」
いや‥‥‥そもそも普通の人は鞭なんて持ち歩かない。
「なるほど、確かにそうだな」
「レックス君には、ニーナ嬢に替えの鞭を持って行くように伝えてほしいんだ」
「もちろんそのつもりだけど、他にも手を打つんだよね?」
ニコニコとしてるレックス君。
「今回はこうやって先に話すことで、結果を変える事ができるのか知りたいんだ」
「そうだね、本筋はそこかな。でも、それだけじゃつまらないよね? ついでに犯人も捕まえちゃおうよ」
やっぱりニコニコしてるレックス君。
‥‥‥温厚に見えて割と好戦的?
「レックスに賛成だな。俺も護衛に参加させてくれないか?」
真っ直ぐ俺を見つめてくる超美麗ネロ様。
───やばい、美しすぎてドキドキする‥‥‥。
こんなのにいつも見つめられてるリディア嬢は、目が幸せだろうな。
「ネロありがとう。でも、当日は俺一人でなんとかするつもり」
敵がどんな奴で何をしてくるかわからない。
それにいくらなんでも、大会前の大事な時間をコチラの為に使わせるのは忍びない。
「アルバート、水臭いぞ。ここまで聞いて、はいそうですかと引き下がると思うか?」
「‥‥‥危ないかもよ?」
「多少の相手なら造作ない。それにゴードンも居るしな」
ニコリと笑いゴードンの方を向くネロ様。
「おう。難しい事はわかんねえが、敵を叩きのめすのは俺に任せろや」
握り拳を作る機関車ゴ◯ドン。
ステータスの『体力』が高いゴードンは、俺たちの中で1番腕っぷしが強い。
「そうと決まれば、もっと詳しく色々教えてよ、アル。今後の方針を決めておこうよ」
そして、実は好戦的だったイケメンレックス君。
「‥‥‥皆、ありがとう」
なんか泣きそうになった‥‥‥。
「帰るわよ」
「はい」
夕刻の屋上。
やっぱり他の主人達より遅く迎えに来たご主人様。
他の奴隷達は、もう帰宅済みです。
「大丈夫だった? 喧嘩してない?」
「アイツら凄くいい奴だった」
「そう」
「顔はカッコいいし性格も最高とか‥‥‥やっぱり敵わないや」
流石は乙女ゲームのヒーロー達。
───俺も色々見習わないとな。
顔はもはや無理だが、男気ぐらいは真似したいものだ。
「あんたの方が‥‥‥」
「はい?」
「‥‥‥なんでもない。帰るわよ」
そう言うと、また俺の服の袖を引っ張り、後ろをついてこようとしている。
「ご主人様、立ち位置が逆なんです‥‥‥そっちが主人なんですから、いつもみたいに前を歩いてくださいよ」
「うるさい」
これではまるで犬の散歩だ。
‥‥‥いや待てよ。
そう思えばこの立ち位置も納得できない事もないか。
「あの‥‥‥服が伸びます」
相変わらず凄い引きです。
「‥‥‥家庭科の授業でいいモノ作った」
そう言って取り出したのは綺麗な装飾の施された革製の輪っかと、そこから伸びた長い紐。
コレは‥‥‥完全に首輪とリードだ!
───やっぱり、犬扱い?
あんた、家庭科の授業で何作ってんすか‥‥‥。
「散歩ですね」
「あんたが朝ごちゃごちゃ言うから作ってあげたんでしょ」
「‥‥‥」
アイツらなら‥‥‥あのイケメン達なら、ココでカッコよく『ありがとう』と言うのだろう‥‥‥。
───やはり、俺にはアイツらの真似は出来そうにないな。
「あの、普通に手を繋ぐとかじゃ駄目なんですか?」
「‥‥‥?!」
「首輪を付けなくていいし、服も伸びません‥‥‥」
「‥‥‥」
「やっぱり駄目ですか?」
「手」
「お手?」
「出しなさいよ‥‥‥」
「はい、どうぞ」
俺の差し出した手をおどおどと掴むご主人様。
「‥‥‥あんたが、どうしてもって言うから‥‥‥」
「はい」
その後、手を繋いで仲良く帰った俺たちでした─────
‥‥‥と、上手くは終わらない。
手を繋いだ途端、へにゃへにゃになったご主人様が上手く歩けるはずもなく、馬車にたどり着くまでに、かなりの時間を要したのだった。
やっぱり、ご主人様は少し変わってる。
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