24、焼き過ぎためざしは硬い。
三回戦の『ドキドキ、情熱クッキング!』は、奴隷の持ってくる食材を使い令嬢達がその腕を振るう料理対決だ。
学園の校庭に急遽作られたどこかの料理番組のような特設会場で行われる。
「あんまり変なの取ってこないでよ」
制服の袖を腕まくりし、支給されたエプロンを装備して仁王立ちしているご主人様。
「出来るだけ頑張ります」
ゲームだと、プレイヤーの扱うリディアが調理場で待機していると、奴隷が甘い言葉と共に食材を渡してくるところから三回戦はスタートする。
奴隷のステータスの『感性』が高いと良い品を持ってくるのだが、いったい何をやってどこから食材を持ってくるのかは、カットされている部分なので不明。
───‥‥‥今回は俺の知識が全く役にたたない。
「最悪なにも持って来なくていいわよ。こんだけあったらなんか作れるし」
ご主人様が指差しているのは調理台の上に置かれている野菜や調味料。
「俺が取ってくる食材をメインに使えって事なんでしょうね」
「せめて食べられるモノにしなさいよ。ウジ虫のあんたと違って、人間には食べられない物が沢山あるんだからね?」
腐ってそうな木の実を食べてる事を馬鹿にされたんだろうが、でも以外と良いアドバイスだったりする‥‥‥。
ゲーム中に俺じゃない本物のアルバートが『良い食材が手に入ったんだぁ〜使ってぇ〜、リディアちゃん好きぃ〜』と、甘いのか甘くないのか良くわからないセリフを呟きながら、【タワシ】を持ってきて妹が爆笑して転げ回ってたのを思い出した。
そう、奴隷の持ってくる食材には、食べられないモノも存在するのだ。
「‥‥‥すいません。今回、もしかしたら俺が足を引っ張るかもしれないです‥‥‥」
‥‥‥残念ながら俺の『感性』は『愛の木の実』によるドーピングをしたにも関わらず、奴隷の中で3番目だった。
俺が27なのに対し、ネロ様が32、レックス君は30と2人に差をつけられている。
『愛の木の実』採取で、思った成果を得られていないのが大きかった。
ローズから鞭を貰えなくても、ドーピングさえすれば何とでもなると考えていたのだが、どうも上手くいってない‥‥‥。
「‥‥‥バカ」
怒られた。
「すいません‥‥‥出来るだけ頑張ります」
「違うわよ」
「じゃあ、死ぬ気で逝ってきます」
「それも違う。なんで、あんたが謝んのよ‥‥‥」
「え、だって」
「あんたは‥‥‥何も悪くないじゃない‥‥‥」
「‥‥‥でも」
「大丈夫。私がなんとかするから」
可愛らしいピンク色のフリフリエプロンを装備して仁王立ちするご主人様は、なんだかめちゃくちゃカッコ良かった。
「アルバート‥‥‥先ヤレよ」
「やだ。ゴードンからどうぞ」
傾向が見たい。
ココは絶対に先手は駄目だ。
「僕が最初に行こうか?」
「レックス君、流石男前!」
俺たち奴隷が集められたのは学園の中の多目的教室的な広い部屋。
教室の中に置かれた机の上には、ズラリと皿が並べられていた。
全ての皿に、高級レストランでボーイが料理を運ぶ時に使う銀色の丸い蓋が被せられていて、中身がわからなくなっている。
───コレは『感性』じゃなくて、ただの運だろ。
この皿の中から、俺たちは食材を選ぶのだとか‥‥‥。
なんなの、この雑な食材選びは?
俺たち奴隷じゃなくて、もう令嬢達に直接やらせれば良くない?
「どれにしよう」
顎に手をあてながら机の間をゆっくりと歩き、皿を物色するレックス君。
───考えたって何もわかんないだろ‥‥‥。
「よし。コレにしようかな」
レックス君が蓋を開けた皿の上には、白っぽいハムのような肉の塊が乗せられている。
「ニーナ・ベル様の食材は『フォアグラ』になります」
「素晴らしい食材ですわ。これはかなり期待出来るザマス」
俺たちを見守る審判の人と、審査するために王宮から来た高級感溢れる眼鏡をかけた、ザマス系のオバサマの会話。
───レックス君‥‥‥いきなり高級食材ゲット‥‥‥。
ちなみにこのゲーム、料理がやたらと現代風なのもおかしな所の一つ。
明らかに中世ヨーロッパ風な世界観なのに、料理対決でリディア嬢は『カレー』や『ラーメン』、挙げ句の果てには『寿司』まで作ったりする。
‥‥‥相変わらず設定はガバガバです。
「レックス凄え! 負けてられねぇ、次は俺がイクぜ!」
何故かハートに火が付いて、皿を選び始めた『感性』が13しかない暴走機関車。
───‥‥‥お前、大丈夫か?
「よし、コレだっ!」
勢いよく開けられた蓋。
その下から出てきたのは、乾燥した小さな魚‥‥‥。
「エリザベス・ムーア様の食材は『めざし』になります」
「貧相な食材ですわね。これは全く期待出来ないザマス」
審判とザマスの会話。
この審査員は高級な食材が好きなご様子‥‥‥。
とりあえず、お前は『めざし』に謝れ。
焼いて食べると美味しいんだぞ。
「やべぇ、エリーに怒られるかも‥‥‥」
肩をガックリと落とし、めざしを持って下がるゴードン。
その後、あっさりと高級食材『キャビア』を選び、審査員にベタ褒めされた超美麗ネロ様。
───流石です‥‥‥。
だが、あのリディア嬢に使いこなせるのかは少々疑問‥‥‥。
まあ人の事はさておき、次は俺の番なのだが、なんかもう考えても無駄な気がしてきた‥‥‥。
置かれている食材の順番に法則性は感じられない。
と言うか、100近くある皿から僅か3品選んだだけでは、法則なんてあったとしても俺にはわかるわけもない。
腹を括ろう。
───もう、直感で決める!
俺は目の前の皿に狙いを定め、蓋に手をかけると勢いよく開けた。
───コレは‥‥‥肉!!
「ローズ・ブラッドリィ様の食材は『牛肉のこま切れ』になります」
「広告の品で出そうな食材ですわね。これは全く期待出来ないザマス」
───‥‥‥何その評価?
俺の選んだ食材は、色んな部位を寄せ集めることにより牛肉の中では家計に優しい安価となった、家庭をきりもりする主婦の強い味方。
100g180円くらいの『牛肉のこま切れ』だった。
ザマスに全く期待されてねぇ、ヤッベェ‥‥‥。
「ジロジロ見ないで。汚れるでしょ‥‥‥」
「だって‥‥‥」
俺から食材を受け取って調理を開始したご主人様の手際は、試行錯誤しながら調理する他の令嬢達と違い恐ろしく鮮やかだった。
大きな鍋でキャビアをじっくりコトコトと煮込んでいるリディア嬢は、いったいどこに向かっているのだろうか‥‥‥。
ローズが完成させた料理は、俺の食欲を
───美味しそう。
「‥‥‥だから、見過ぎだって。料理が腐るわよ?」
見るだけでモノは腐りません。
コレはザマス審査員に食べさせる料理。
俺が食べちゃいけない事くらい流石に理解していた。
「せめて匂いだけでも‥‥‥クンカクンカ」
だから俺は料理に顔を近づけて、自らの嗅覚だけでも満たそうとしている。
「あんた、もしかして‥‥‥食べたいの?」
「うん」
「‥‥‥‥‥‥明日のお弁当ね」
「やった!」
明日のお弁当のおかずが、彼女に作って欲しいお料理ランキングで常に上位にランクインする男のロマン『肉じゃが』に決まった瞬間であった。
「私たちは頑張った‥‥‥もうそれでいいじゃない」
「絶対ご主人様の肉じゃがが、一番だった!」
「‥‥‥あ、ありがと」
結果を言うと、俺たち悪役ペアは2位だった。
───味付けもしてない、焼いただけのフォアグラが1位なんて無茶苦茶だ‥‥‥。
高級食材思考のザマス審査員の性格や審査を考えると、やはり奴隷の食材選びが三回戦で重きを置かれていたのだろう。
それを捻じ曲げ、リディア嬢に勝ったご主人様の調理スキルは素晴らしいと思う。
───どう考えても俺のせいで負けた。
せっかく頑張って料理を作ってくれたローズに申し訳がなかった‥‥‥。
「置いてくわよ?」
先に馬車から降りて、昇降口から顔を覗かせているご主人様。
考え込んでいたため、ブラッドリィ家の屋敷に着いた事に気づかなかったようだ。
「‥‥‥こんな事なら俺が思う存分食べてやれば良かった。ザマスなんかに、あげるんじゃなかった‥‥‥」
「ねぇ‥‥‥そんなに食べたかったの?」
「うん」
「‥‥‥今から作る‥‥‥」
「いいんですか?!」
「‥‥‥なんかずっとウジ虫がうるさいし‥‥‥」
そう言うと、ご主人様はコツコツと屋敷の方に向かって歩いて行ってしまった。
───ご主人様、素敵!
テンションを上げて馬車から飛び降りた俺が目にしたのは、先に屋敷に歩いて行ったはずのローズが真剣な顔のカフスさんに呼び止められている所だった。
「ローズお嬢様、おかえりなさいませ。‥‥‥ガルシア様がお待ちです」
「‥‥‥お父様が?」
「今しがた、急に帰って来られまして‥‥‥」
「そう」
今日はまだまだ色々と忙しくなりそうな予感がする。
【王子争奪戦〜俺のハートをキャッチしろ杯〜】
[総獲得ポイント]
ニーナ・ベル 7点
リディア・アンデルマン 5点
ローズ・ブラッドリィ 5点
エリザベス・ムーア 1点
楽しいぜコンビは『炭化しためざし』を提供して、ぶっちぎりの最下位でした。
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