6、ゴミ虫。
湯浴みを終えた俺は、新しい腰蓑を履き、気分を新たにご主人様の部屋に向かっていた。
「いや〜風呂は気持ちいい」
まさか新しい腰蓑をわざわざ用意しているとは‥‥‥普通の服を用意した方がどう考えても楽だろうに。
「アルバート様がお綺麗になって、ローズお嬢様もお喜びになるでしょう」
ニコニコとカフスさん。
「うじ虫クソ虫が綺麗になっても誰も喜ばんでしょ」
どんなに綺麗に洗おうと、うじ虫はうじ虫。
「あのような話し方は、ローズお嬢様なりの愛情表現でございますので‥‥‥」
「アレが愛情表現なら、この世の全ての事象が愛で満ち溢れていることになるので、争いのない平和な世界で皆んな幸せいっぱいですね。それは良かった!」
いや待てよ、もしかしてローズは虫が大好きで、あえてその好きなモノに俺を例えることで‥‥‥そんな事あってたまるか。
「ローズお嬢様は日頃ほとんど口をきかれる事がありませんので、話しかけられるだけでも大したモノです」
「‥‥‥俺、暴言しか吐かれてませんよ?」
そういえば、ゲーム中もアイツが会話してるシーンってあんまりなかったっけ?
主人公リディア視点でゲームは進むから、リディアの事が嫌いで話しかけてこないと思っていたが‥‥‥。
「アルバート様、こちらがローズお嬢様の部屋でございます」
「ほう、ここがあの性悪女の寝室ですか」
ご主人様の部屋は屋敷の最上階の3階。
豪華な装飾が施された大きな両開きの扉が目の前にあった。
やっぱり凄い金持ちの娘だな。
「くれぐれも粗相のないように頼みます‥‥‥」
「俺はうじ虫クソ虫ゴミ虫ですから、人間の言葉がわかりませんので粗相しか出来ません。なので、出来ればこのまま帰りたいです」
ゴミ虫は次に言われそうな言葉No. 1です。
「‥‥‥アルバート様‥‥‥」
悲しそうな顔のカフスさん。
「カフスさん冗談ですから。まだ死にたくないんでちゃんと会いますよ。‥‥‥話してなければ美人だから目が幸せになるのにな‥‥‥勿体ない」
カフスさんはニコリと笑うと、ドアをノックした。
「カフスです、アルバート様をお連れしました」
‥‥‥。
暫く沈黙。
───留守かな?
「さあ、お入り下さい」
「‥‥‥いや、駄目でしょ。まだ返事がないですよ?」
「ローズお嬢様は基本的にお話になりませんので、ノックしてから10秒程待てば入って大丈夫です」
「何その曖昧なルール? 意思の疎通が全く出来てないじゃないですか‥‥‥」
「他の者が勝手に入っては大変ですが、アルバート様は呼ばれて来ておりますので大丈夫ですよ。さあ、お入り下さい」
なんだかやり難いご主人様だな‥‥‥。
部屋の中はかなり広かった。
まあ、当たり前か。あの豪華な扉を開けて、四畳半のボロアパート風の部屋だったら逆に笑っちゃう。
───あ、アレは童話とかでお姫様が寝てるベッドだ!
他にも白を基調にした選び抜かれたのであろう豪華な家具が、嫌味のない感じで優雅に設置されていた。
部屋の中央には煌びやかなテーブル。そしてその椅子に設置されているのは、国宝級の調度品のように美しく、全く動かないご主人様。
凄い形相でこちらを睨みつけております。
───怖い怖い!
「では、私はこれで失礼しますので」
「カフスさん僕を置いて行かないで!」
「‥‥‥アルバート様、駄々を捏ねないで下さい‥‥‥」
「1人はやだ、殺されるっ!」
カフスさんは俺の言葉を無視すると、扉を閉めて部屋を出て行ってしまった。
扉の方を向いて崩れ落ちている俺の背中に先程から突き刺さる視線。
───これが一流の暗殺者だけが持つといわれる殺気か‥‥‥。
「こんばんは、今日はいい日和ですね」
振り向いてとびきりの笑顔を差し上げた。
「‥‥‥」
返事はない。
相変わらず冷たい表情でコッチを睨みつけておられます。
───コイツ生きてる?
たまに瞬きしてるから、生命活動はしていると思われるが‥‥‥。
「素晴らしい奴隷も手に入り今日は有意義な一日でしたな」
「‥‥‥」
「お〜い」
「‥‥‥」
未だ微動だにせず俺を睨みつけてくるだけのローズ。
───何これ‥‥‥空気悪っ。
「そんな固まってたら、調度品と間違われて売り飛ばされちゃうぞ?」
「‥‥‥」
「‥‥‥いや、これだけ綺麗だとかなりの高値が付いて大儲け間違いなしかな?!」
「‥‥‥ゴミ虫に失礼よクソ虫」
「おお、喋った!」
「うるさい」
話してくれたのはありがたいが、ゴミ虫に失礼とはなんだ?
‥‥‥さっき部屋に入る前にカフスさんと話してたのが、もしかして聞こえてたのかな?
「うじ虫クソ虫よりゴミ虫の方が、格が高いってことか?」
「違う。あんたの価値がゴミ虫より低いの」
「おお、なるほど。奴隷とはなんと可哀想な職業なのでしょう‥‥‥」
「奴隷は関係ない。あんただけの問題よ変態ゴミ箱」
ついに無機物になってしまいました。
変態なゴミ箱って何してくるんだろうな?
「‥‥‥ちょっと話しが散らかってきたので、そろそろ建設的な話をしませんか?」
「流石ゴミ箱ね」
上手い!
‥‥‥じゃなくて。
「それで、なんの御用でしょう?」
聞くまでもなく、今から鞭で打たれて育成されるのだろうという事はわかっている。
‥‥‥もう令嬢達の戦いは始まっているんだ。
───ああ、気が重い‥‥‥。
「用もないのに呼びつけるなと言いたいの? ゴミ屑のくせに生意気ね」
「‥‥‥いや、そういう事じゃなくてですね」
「じゃあ、また黙ってればいいの? 私をその
なんだコイツ‥‥‥いったい何がしたいんだ?
‥‥‥それに、なんか少し顔赤くないか?
「‥‥‥ごめんなさい。もう、何言ってるかわかんないです」
「黙ってろって言ったり、話せと言ったりあんたの方が頭がおかしいわ」
「‥‥‥俺、黙ってろとか言いました?」
「口から出た言葉すら覚えてられない脳味噌のムシケラは可哀想ね」
「あの‥‥‥もしかして、外の会話聞こえてました?」
「吐き気がしたわ」
‥‥‥やっぱり聞かれてた。
性悪女とか思いっきり言った気がするけど大丈夫だろうか?
『話してなければ美人だから目が幸せになるのにな』
多分コイツが言ってるのは俺のこの発言だろう。
「‥‥‥俺が部屋に入ってきた時、ずっと黙ってたのって?」
「ジロジロいやらしい目で見てきて、気持ち悪かった」
ずっと睨んできてたのはそっちだろ‥‥‥。
‥‥‥そんな事より、この人なんで俺の言うこと聞いてんの?
───なんかもう、めちゃくちゃ怖いんですけど。
「あの‥‥‥今日は鞭は打たない感じで大丈夫でしょうか?」
「簡単に鞭がもらえると思わないことね、この変質者」
初めて言葉の流れと、後ろの単語『変質者』が噛み合いました。
「いや、俺は別に鞭を欲しがってないから‥‥‥」
「もう出て行きなさい。これ以上しつこいと人を呼ぶわ」
───この人、性格破綻者じゃなくて、もう情緒不安定だよ?
とりあえず出てけと言われたので、素直に退出する事にする。
お辞儀をして扉を閉める時、まだ俺を睨みつけているローズのステータスをなんとなく見てしまい血の気が引いた。
【ローズ・ブラッドリィ】
教養98
体力55
感性95
品位75
〜〜〜〜〜〜
容姿100
好感度58
コイツ、なんで勝手に好感度上げてんだ?!
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