異世界転移したけど戦闘力皆無なのでギフト【体液ポーション】でヒモになる
蛇道辰巳
第1話 溺死したらどうすんだよ
「がぼっ……」
意識を取り戻した瞬間、呼吸に失敗する。吐かれた気体は水泡に変わり、代わりに口内に水が入り込む。
水中!?なんで!?まずい、溺れる。
パニックにならないように深呼吸……はできないが慌てず急がず水面を目指す。見上げれば水面からは光が差していて、水深はそれほどでもないようだ。
程なくして水面にたどり着いた俺は今度こそ深呼吸をする。生を噛みしめるようにゆっくりと。
「死ぬかと思った」
自慢じゃないが泳ぎは得意じゃない、パニックになって水を飲み込んだり足を攣ったりしていたら溺れていただろう。寝てる間に水に放り込むのは悪戯にしては度が過ぎている。
「死んだらどうする!」
悪戯の犯人に文句を言う為に視線をあげると、目に入った光景に絶句する。
見慣れた鉄筋コンクリートの建物はどこにもなく、レンガ造りの建物による街並みが広がっている。視界の端には馬車まで走っている。
どこだよ、ここは。プールにでも投げ入れられたと思っていた俺は日本からかけ離れた光景に呆然とする。
「おーい、大丈夫かー!」
一向に動かない俺を見かねたのか近くに浮き輪が投げ入れられる。とりあえず掴まると力強く岸に引き上げられていく。
俺を引き上げてくれた男性は金属製の鎧を身に着け、腰には剣を佩いている。まるでファンタジーの兵士のようだ。
「君で最後のようだな」
男の口から出た言語はおそらく日本語ではない。しかし日本語のように理解できた。口の動きと聞こえる音が全く一致せず気持ち悪さすら覚える。
周囲をよく見るとブレザー姿の高校生らしき少年少女や、スーツ姿の中年男性の姿もある。おおよそ十五名程度だろうか。彼らも俺と同じくこの場所に投げ出されたのだろう。混乱してる者もいれば「これって異世界転生じゃね?マジかよ超やべーじゃん」と興奮を隠せていないものもいる。
「《乾燥》」
兵士風の男が手をこちらにかざし呟くと、温かい光と共にびしょ濡れだった身体や服が一瞬で乾燥してしまう。流石にもう悪戯やドッキリなどと自分を誤魔化すのは不可能だろう。どうやら俺は本当に異世界に来てしまったらしい。
異世界に送るならちゃんと事前に説明してもうちょっと安全な所に飛ばしてくれよ。
「これから君たちには役場で市民登録をしこれからの説明を受けてもらう。はぐれずに着いてくるように」
兵士の後を追いながら街並みを眺めるとリアルな獣顔をした者や、体表に鱗をもつ者とすれ違う。そのコスプレでは表現できないような質感は俺に異世界転移した実感を強くさせる。彼らの表情から察する事は難しいが、ここの住人が自分たちの存在に対して騒ぎを起こしていないのは、彼らにとって俺たちのような転移者がさほど珍しい存在ではないのかもしれない。そう考えると兵士の落ち着いた対応にも納得できる。
程なくして周囲のものより一回り大きな建物につき、2時間ほど文化や法律について講習を受けた。話を聞く限りでは受け入れがたい価値観の国ではないようで胸を撫で下ろした。俺たちのような転移者も珍しい存在ではなく数年に一度あるかないかの頻度であの湖に流れ着くらしい。その為、こういった受け入れ体制が整ってるようだ。王宮などの権力者に登用され、重い使命を背負う。などといった事もないようでこれまた安心した。
その後、受付で順次市民登録を行いを証明券と一週間分の支度金(後日収入から天引きされる)を受け取った者から解散らしい。
「
ようやく俺の順番が来て受付嬢に呼び出される。
「こちらが市民券となります。スキルやギフトなどを持ってる場合はこちらに表示されますが、他人から見えないように設定する事も可能です。スキルを開示していただければこちらで職場を斡旋できますがどうしますか?」
受付嬢にそう問われて渡されたカードに目を落とす。
薬袋 幸人 Lv1
ロキソン王国市民
ギフト スキル
体液ポーション
転移者の殆どがギフトというものが与えられるようで、俺の場合はこの【体液ポーション】がそれにあたるらしい。不親切な事に効果の説明はないが、名前から察するに唾液や涙や汗、血液、それに尿や精液が薬効を持つ。と言った所だろうか。斡旋される職場はおそらく製薬関係だろう。ただし、薬剤師や調剤師ではなく素材としてだ。
「やめておきます」
自分が薬の素材として血液を抜かれる姿を想像してしまい思わず断ってしまう。せっかく異世界に来たのだ、薬の素材ではなくもっと自由に生きてみたい。俺は支度金を受け取り役場をでると、これからの異世界生活に少年のようにわくわくしなながら冒険者ギルドへ向かった。
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