終わった世界のダンジョン興行 ~人形と愛を交わす青年~

malka

第1章

プロローグ

 匂い立つような色香をまとう美女が闇に踊る。

 赤子をあやすように、触れれば折れてしまいそうな繊細な腕の中、かき抱かれる1体の人形。

 60cm程の身長に、この世の美のすべてを凝縮したような麗しい姿の人形。


「生まれるよ。私の2番目の子。お前に自由をくれる、希望が、パートナーが」

 歓喜に身を震わせ、随喜に蕩ける妖艶な姿


「しばしの別れだ、私の2番目の子。楽しんでおいで」


 これは人形と青年の物語。

 恋焦がれ、惹かれあう、2人の物語。

 仮初めの身に魂を宿した者達と、共に歩む物語。


***


「うん、可愛い! ちょっと首傾げて~そう、そう!」

 カシャ、カシャ。

 ストロボが瞬き、灰銀色の髪を長く伸ばした少女人形が、恥じらいを帯びた眼差しでカメラのレンズに視線を送る。

 背後を彩るゴシックスタイルなお屋敷の内装、ステンドグラスから差し込む光、緑の大理石板が乗る暖炉。

 黒と白モノトーンな配色に猫のモチーフが飾られたドレス、斜めにかぶられたミニハット、全てが少女人形を美しく際立たせる。

 撮影のため、そして身長60㎝ほどの彼女が生活するため、室内に作られた三分の一サイズの特注の家。


「よし。この前買ったドレスに着替えようか」

「うん。でも、オーナー? あんまりいやらしいのはダメよ? お、おさわりも。それに、お着換えの後の髪のお手入れをじっくりしすぎるのも、めっ! だからね?」

「え~」

「え~じゃないの! 丁寧にしてくれるのは嬉しいけれど、あんまり撫でられるのは恥ずかしい……のよ?」


 これは人形と青年の物語。

 恋焦がれ、惹かれあう、2人の……


「お姉ちゃんを放っておいて、2人だけでずるい!」

 白く輝く髪に緋色の瞳をした少女人形が、彫刻の施された扉を開き、入ってくる。


「主様、転移扉の準備ができたそうです。今日のダンジョンはいよいよ……」

 続いて背から翼の生えた天使の少女が。

 さらに廊下からは2人分の足音が聞こえてくる。


 これは、仮初めの身に魂を宿した者達と、共に歩む物語。

 かつて人類が空想の中に生み出した超常の夢を実現した世界で生きる、探索者たる青年の物語。

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