第106話、文化祭⑤

 それから真白と一緒に2年3組の教室に向かい、たこ焼きを買って食べ歩きする事にした。


 普段の校内では食べ歩きは禁止されているが、文化祭という特別な日に限りこうして食べながら廊下を歩いても大丈夫。俺達の他にも大勢の生徒達が談笑しながら食べ歩きしていて、楽しそうな光景が広がっていた。


 真白はメイド姿でプラカードを持っているので、俺が代わりにたこ焼きを爪楊枝で刺して彼女へと差し出す。


「ほら真白。たこ焼き」

「あ、あーん」


「熱々だから気をつけて食べろよ。ほいっと」

「はふはふっ……。んっ、美味しい!」


 はむっと可愛らしくたこ焼きを頬張る真白。


 熱そうにはふはふと口の中でたこ焼きを転がした後、幸せそうに頬を緩ませてごくんと飲み込み、いつもの太陽のような明るい笑顔を向けてくれる。


「タコがおっきくて中はとろっとしててすっごく美味しいね。龍介に食べさせてもらったから、2倍……ううん、100倍美味しい!」

「そうかそうか。でもその反応だとじゃなかったみたいだな。ちょっとだけ残念だ」


「え、当たりって? もしかしてこのたこ焼き、何か特別なの?」

「ああ。一つだけ当たりがあって中に激辛ハバネロソースが仕込んであるんだ。ロシアンルーレットたこ焼きってやつだな」


「あはは。なんか文化祭らしいね。でもわたしは普通がいいな、やっぱり。普通のたこ焼き美味しいもん!」

「俺としては当たった時の真白の反応が見てみたかったから、ちょっと残念だなー」


「もう、龍介ってば。わたしに悪戯しちゃってさ。もし当たっちゃってたら大惨事だったよ?」

「真白にちょっかい出すのって反応が可愛くて、ついついやりたくなっちゃうんだよなあ」


 俺が冗談めかして言うと、真白はまん丸のたこ焼きみたいにぷくっと頬を膨らます。

 

 ああやっぱり可愛いな、なんて思いながら俺もたこ焼きを一つ頬張ると……口の中に燃えるような感覚が。


「……っ!? ごほごほっ……!」

「あ! 龍介、当たったんだ! わたしに意地悪するからだよー?」

「げほっ……。くそ……因果応報ってやつか」


 俺が激辛ハバネロソース入りのたこ焼きを食べてむせている姿を見て、真白はけらけらと楽しそうに笑っていた。


 でもすぐに心配そうな表情を浮かべて俺の顔を覗き込み、お茶の入ったペットボトルを手渡してくれる。


「ほ、本当に大丈夫? ほら、これ飲んで」

「げほっ……。悪い、助かったよ真白」


 何とかして激辛ハバネロソース入りのたこ焼きを冷たいお茶で流し込む。おかげで口の中の痛みが少しだけ和らいだ。


 っていうか今のお茶、さっき真白が教室で飲んでいたものだよな。


(これってもしかして……関節キス、ってやつか?)


 それに気が付いた瞬間、俺の顔はさっきよりも更に赤くなってしまって……。


「あれ、龍介? 顔がゆでタコみたいに赤くなってるよ? お茶飲んでも駄目なくらい辛かった?」

「い、いやなんでもない。それよりお茶ありがとう。辛いのはもう大丈夫だ」


「どういたしまして。なんかわたしも喉渇いちゃった。これ全部飲んじゃうね?」

「お、おう……」


 真白は俺が口を付けたペットボトルを気にする様子もなく、こくりこくりとお茶を飲んでいく。真白の細い喉が上下にゆっくりと動いて、何気ないその仕草に妙な色っぽさを感じて、俺はドキドキして顔の熱が引く気がしなかった。


 周りの生徒達は持っているフランクフルトやチョコバナナなどの食べ物に夢中だったり、窓ガラスの装飾とか壁に貼られたポスターに視線が向いていて、俺達のやりとりなど気にした様子もなくて助かった。


 世界最強の美少女である真白を独り占めしているだけでも嫉妬されそうなのに、その上でメイド姿のこんな美少女と関節キスしたなんて知られたら絶対に噂になるに決まってる。


 でもそんな周りの目などお構いなしに真白は悪戯っぽく笑っていて、このままだと俺の心臓はもたないかもしれないなんて思ったりもした。


「ねえ龍介、西川くんのいる第二体育館行かない? バスケ部がアトラクションやってるんだって!」

「そういえばバスケ部はフリースロー大会してるんだっけ。景品も出るらしいし行ってみるか」


 俺達の通う貴桜学園高校は体育館が二つある。


 文化祭を開催している今現在、第一体育館は演劇部や吹奏楽部・軽音部などがイベントに使っており、第二体育館は運動部が文化祭の出し物に使っている。


 バスケ部がフリースロー大会をしているのは玲央や西川から聞いていたので真白と一緒に向かう事にした。



☆☆☆あとがき☆☆☆

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