第88話、玲央との昼休み

 昼休みになり、俺はクラスの文化祭のまとめ役を買って出た布施川頼人の元を訪れていた。


 昨日の内に考えたスイーツのメニュー案を見てもらう為であり、他にも集客が見込めるメニューがないか意見をもらう為だ。


 隣には花崎優奈、前の席には姫野の姿もあり、二人は神妙な面持ちで布施川頼人の様子を窺っている。


 肝心の布施川頼人の方は落ち着いた様子で俺の書いたスイーツのメニューに目を通していた。


「本当に意外だな。進藤がスイーツに詳しいなんて」

「昨日言った通りだ。こういうのは得意なんだよ。それで、役に立てそうか?」


「俺も昨日スマホで調べたりしたんだが、それよりも詳しくて分かりやすい」

「そうか。まあ役に立てそうで良かった」


 俺が安堵して胸を撫で下ろすと、布施川頼人はメニュー案が書かれたノートをぱたんと閉じる。


「これは一旦預かっとくぞ。後で俺からクラスメイトのみんなにアンケートを取ってみるから、その結果で決める感じでいいな」

「頼むよ。勝手にこっちで決めるのは他のみんなに悪いからな。全員が納得する形でまとめてくれ」


 布施川頼人は俺のノートを持って席を立つ。

 それから花崎優奈を連れて、桜宮美雪の待つ生徒会室へと向かう。


 姫野は大きなあくびをしてから一人で食堂に行ってしまったようだ。やっぱり主人公とヒロインの間に出来てしまった溝はかなり深いように思える。


 そんな主人公とヒロイン達の後ろ姿を見送った後、俺は自分の席へ戻って弁当を広げた。


 文化祭はクラス全員で協力し合ってこそ意味のあるものだ。クラスで一致団結して出し物を成功させる事で絆が生まれ、クラスメイト同士で信頼関係を築く良い機会となる。


 今まであまり話す機会のなかった生徒同士が文化祭の準備をしながらお互いを知り、新しい友達を作るというのも文化祭の醍醐味だと俺は思う。


 俺も文化祭で新しい友達を作りたい。

 クラスメイトに俺の事をよく分かってもらって仲良くなりたい。


 我ながら随分と浮かれているなと思う。

 だけどこれも原作の悲しい出来事を繰り返さない為にやるべき事だ。


 原作では決して分かり合う事の出来なかった主人公と悪役の関係だって、俺の努力次第でどうにか出来るかもしれない。


 姫野と話すようになったのは、その希望を抱かせてくれるきっかけにもなったのだ。


「随分と上機嫌だね、龍介」

「玲央、分かるか?」


「当然だよ。今日はいつもよりずっと表情が明るいからさ」

「昨日の頑張りがクラスのみんなの為になってると思うと、頑張って良かったなって思えてさ」


 購買で昼食を買って戻ってきた玲央が俺の隣の席に座り、ビニール袋の中から焼きそばパンとお茶の入ったペットボトルを机に置いた。


「ところで玲央。いつもは西川とかバスケ部の連中と昼食なのに、今日は教室で食べるんだな」

「実は恭也が終わらせていなかった夏休みの課題があってね……。先生から呼び出し食らってるんだよ」


「それは……ご愁傷さま」

「全く。あれだけちゃんと言っておいたのに。やってない課題を僕に隠してたのさ。それで結局呼び出しを食らうんだから因果応報ってやつだね」


「バスケの練習が楽しすぎて勉強そっちのけでコートを走り回ってたんだな……想像つくよ」

「あはは……恭也は本当に勉強が嫌いだからね。手がかかるよ」


 玲央は困ったように笑いながら焼きそばパンの封を開けて頬張る。俺も箸を取って弁当を食べ始めた。



 真白は昨日考えたメイド服のデザインを女子生徒達に共有しているらしく、改善案などを出し合って本番に向けて頑張っている。


 俺達のクラスも少しずつだが文化祭の準備が進んでいると思う。その成功を願いながら玲央と二人での昼休みを過ごすのだった。

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