第85話 わ、我がライバル!?
某歌番組が終わった後の控え室、そこにはゴッテゴテのゴスロリを見に纏い、今日はテレビの収録というわけで、いつもよりも翼やら帽子やらの付属オプションを装備している少女と、そのマネージャーと思われるスーツをピッシリと着込み眼鏡を掛けた長身の女性が話し込んでいた。
「お疲れ様ですネメシスさん」
「フフフ何度言わせたらわかる!我が従順なる僕よ!私は単なるネメシスではなく、絶対無敵ガールネメシスだと。」
「はいはいそうですね。それでネメシスさん」
デビューしてから何度も何度も名前を訂正しても、名前が長いと言う理由だけで、フルネームで呼んでくれないマネージャーに、口を膨らませて対抗するネメシスだが、このやり取りもすでに何百回もやっているマネージャーは、慣れた手付きでネメシスのハムスターのように膨らんだ頬を、片手で潰して今後の予定なども話していた。
「そう言えばネメシスさん以前自信満々に任せとけと言っていた運動会のメンバー件ですが、人数集まりましたか?」
「フフフ我と共に魑魅魍魎が蔓延る群雄割拠を制圧する選ばれ者達の集い、そう三傑…いやブレイブパーティー……いやナイトメア…」
そうネメシスが続きを話そうとしたところで、マネージャーが大きく手を叩いて、ネメシスの謎詠唱を強制的に中断させて詰め寄った。
「ネメシスあなたいつも何かを誤魔化す時に、よく意味の分からない言葉を言う癖を私は知ってますよ」
そう詰め寄られて言われたネメシスは、口を尖らせながら視線をマネージャーから外して、通じないと分かっていても、最後の足掻きとして呟いた。
「わ、我がライバルなら……意味伝わるもん」
「ライバルですか?」
まさかマネージャーが食い付くとは思っていなかったが、そう聞き返して来たところでネメシスは、ここだ!と思い今までのライバルとの出会いや出来事などを話した。
「なるほど……まさかネメシスさんにお友達が居たとは……」
「フフフ違うぞ我が僕よ!奴は友ではなく我が永遠のライバル!」
「そうですか……それで、運動会のメンバーは?」
結局その後マネージャーに詰められた結果、ネメシスは半泣きになりながら既に運動会開催まで1ヶ月を切っているのにも関わらず、1人もメンバーが見つかっていない事を土下座しながら報告した。
「はぁ……そうですか」
その報告を聞いたマネージャーは驚くほど大きなため息をついてそう答え、そのため息を聞いたネメシスはビクリと肩を揺らした。
「そう言う事なら仕方ないですね」
「あ、あれ?怒らないの?」
てっきり怒られると思っていたネメシスは、マネージャーに怒られない事に安堵し、顔を上げるとそこには笑顔のまま器用に額に青筋を立てているマネージャーを見て、再度勢い良く土下座した。
自社のそれも1番の稼ぎ頭のアイドルが目の前で土下座している事も気にせず、マネージャーは手に持っていたタブレットを、ネメシス用に用意された椅子に座りいじり始めて、数分後今だに土下座をしているネメシスに向かってマネージャーは話し始めた。
「ネメシスさんそろそろ衣装も汚れるので、顔を上げてください」
「は、はい……」
「それで色々と確認したところ、うちの事務所の新人の子が1人当日予定が空いていたので、入れる事は可能ですが、やはり1ヶ月前に急遽という事で他の人はその日に他の予定などが入っている為、私も頑張りますのでネメシスさんも本番までに、死ぬ気であと1人誰でもいいので、メンバー探してくださいね」
「フフフ任せておけ」
「本当ですか?」
「あ、はい。頑張ります」
ひとまずは何のかなった事に安堵したネメシスは、ホッとその場で息を吐き胸を撫で下ろした。
そんなネメシスを他所に、マネージャーがワイヤレスなイヤホンを片耳につけると、再度タブレットをいじり始めた。
これはマネージャーが仕事でイライラしている時に、自分を落ち着かせる時にやるルーティーンで、過去に取引相手からセクハラをされた時や、上司からのパワハラがあった時にも、こうして今の様に何か動画なのか歌なのかを聞いて、心を落ち着かせていた。
いつもなら特段気にしないその行動も、なぜか今日は無性に気になり、ネメシスはマネージャーの肩を指でトントンと叩いて、何を聞いているか質問した。
そしてそれを聞いた事をネメシスはすぐに後悔した。
質問されたマネージャーは、いつもの仕事の出来る大人に雰囲気では無く、ネメシスもよく見る自分のファンが自分について話すときの様に、鼻息荒く相手のことを一切考えない早口で説明をし始めた。
そうして説明されたのは、1人のvtuber?と言うユーチューバーについて説明された。
その男の概要を軽く聞いただけでも、どうしてもそんな奴のことが好きになるのか分からないほどヤバいやつで、ネメシスは1人心の中でマネージャーの事を初めて引いた目で見てしまった。
「でもまさかネメシスさんがホムラさんに興味があるとは!」
「え、いや私は……」
「本当いいですよねホムラさん。最近ようやくスパチャを公開してくれたので、複数のアカウントを使って15万ほどスパチャしましたからね」
それを聞いたネメシスの中でマネージャーは、怒ると怖いが仕事に真摯なマネージャーから、ダメな男に大金を貢ぐ為に仕事を頑張るマネージャーへと印象がガラリと変わってしまった。
そんなまさかの1面にネメシスが引いている事も梅雨知らず、マネージャーはその後も1人の男性vtuber九重ホムラについて熱弁していた。
流石にネメシスが内心マネージャーの事を引いていることはバレていないが、九重ホムラと言うvtuberについては一切興味が無い事を感じ取った厄介オタクは、席を立ち上がりネメシスに自分が着けていない方のワイヤレスイヤホンを差し出した。
「ネメシスさんも声を聞いてみたらその良さが分かりますよ」
そう言われたネメシスは、正直全く興味はなかったが、これ以上マネージャーの残念な部分を見たく無いと思い、無言でマネージャーの手からイヤホンを受け取ると、それを耳に付けた。
するとそこから聞こえて来た声は、とても聞き覚えのことのある声だった為、ネメシスは反射的に付けたイヤホンを外して、少し考えた後もう一度イヤホンを耳に付けて確認したところ……
この声って我がライバルじゃ無いか!
まさかの事実にネメシスは驚きのあまり金魚の様に口をパクパクとさせてから、改めて自分の現状を考えると自分のマネージャーが、自分の親友のファンで15万円も貢いでいる事を考えると、意味がわからなすぎて頭がパンクした。
その後もマネージャーからの九重ホムラの良いところを聞くたびに、ネメシスは何とも言えない気持ちになりながらも、その日はこれ以降仕事も入っていないと言う事で、そのまま解散となり改めて家に帰ってから、自宅のパソコンで九重ホムラについて調べた結果、驚くべき真実に気が付きネメシスは嬉しさの余り拳を天高く掲げた。
「フフフやはり我がライバルだ!まさかこんな事があるとはな!やはり我々は出会うべくして出会った運命だったのだな!」
そう高笑いするネメシスのパソコンの画面にはひと言
男性アイドルvtuberと書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます