第82話 大炎上

おいおいおいどうするよこれ?ストーカー?うっそだろ……


「おい夏大丈夫か?」

「あ、ああ……けどストーカーって、アレだよな?絶対って事じゃないよな?」

「ん?まぁな、俺が見た感じストーカーの動きっぽいな、って思っただけだからな」

「だよな……そうだよな多分違うよな?」


そうだ……そうに決まってる!

俺の後輩がそんな事するわけ……けどもし、本当に久瀬くんがストーカーなんて事をやっていたら。


よし!


「尾けるぞ」

「え?追いかけんの?」

「ああ、これが勘違いだったら、そのまま無視して帰ればいいし、けどもし本当にストーカー行為をやっているなら、俺も今まで何度もストーカー行為をされている側からすると、やられている方は男の俺でさえ正直怖い。それを考えると女性の気持ちなんて計り知れないだろ?だからもし後輩がそんな事をしてるんなら、先輩である俺が止めなきゃいけないだろ?」

「ひゅ〜かっこいいねぇ夏!惚れちゃいそうだぜ」

「ええい!やめろやめろ。それじゃあ行くぞ」

「おお!」


そうして俺達は久瀬くんの後をこっそりと尾行する事にした。


久瀬くんは普通に道を歩いている様に見える歩き方をしているが、よくよく観察をしてみると曲がり角では変な位置で立ち止まったり、長い一方道では電柱に隠れながら進んだりと、怪しい動きをし始めた。


「これは……」

「完全に黒だね。これからどうする?説教でもしに行く?それとも警察?」

「うーん流石に説教かな……あんなんでも俺のかわいい後輩だし、出来れば警察沙汰にはしたくないかな?とは言っても、もし相手方に迷惑をかけているのだとしたら、流石に俺も看過できないけどな」

「それもそっか、なら俺は陰からできる先輩の姿でもみてよっか…………な?ってあれ?あいつ逃げてね?」


そう言って自称エースが指差した先には、居たはずの場所に久瀬くんは居なくなっており、少し先の道に走っている姿を見つけた。


それも1人の女性に向かって……


「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!追いかけるぞ!」

「お、おう」


俺達は尾行のために久瀬くんが元いた位置より、大体50メートルほど離れた場所から監視していた為、少し俺達は出遅れた。


その間にも久瀬くんは女性に向かって走り、手に持っていた布切れを女性の口に捩じ込むと、そのままその女性を担ぎ上げて路地裏へと連れ込んだ。


これは本格的にまずいと思った俺は、先程以上に足に力を入れて自称エースを置き去りにして、久瀬くんが女性を連れ込んだ路地裏へと向かった。


そうして少し息を荒くして路地裏についた俺は、そこで下半身を丸出しにした久瀬くんと、服を無理やりはだけさせられている女性の姿を見た。


それを見た次の瞬間俺は、今までにない程声を荒げて、久瀬の襟元を掴み掛かった。


「久瀬ぇぇぇぇ!!!!!何やってだテメェ!!!」

「え?」


いきなり自分がやっているvtuberの名前で呼ばれた、久瀬は驚きガチギレしている俺の表情とは対照的に、あっけらかんとした表情をしていた。


そんなふざけた表情をしている久瀬に、俺はかわいい後輩だった為今回の件は説教だけで済まそうと思っていたのだが、もうそんな事を言っていられる状況でもない事から、俺は俺の後ろでゼーハーと息を切らしている自称エースに叫んだ。


「エース!警察に連絡しろ!」

「え?あれ、いいの?今回って説教するだけじゃ?」

「いいから早く!」

「わ、わかった!」


そう言って自称エースは素早くポケットからスマホを取り出すと、警察へと連絡し始めた。


そうすると警察という言葉に危機感を覚えた久瀬は、俺の手を振り払うと下半身丸出しのまま、俺やエースを押し退けてどこかへ走り去ってしまった。


「エースは女性の保護と、警察への連絡を続けてくれ」

「夏はどうすんの?」

「そんなもん俺のかわいい後輩を捕まえに行くんだよ」


そう言って俺は女性に羽織って上着をかけてから、久瀬が逃げた方向へと走り出した。


「久瀬待て!逃げるな!」


俺はそう大声で叫んで久瀬を追いかけ、久瀬も俺に捕まらない様にと全力で走って逃げ回った。


下半身丸出しで町中を逃げ惑う久瀬は、会う人会う人に悲鳴を上げられ、その際何人かがスマホで撮影したり、警察に連絡していた。


そうしてようやく久瀬を工事中で通行止めになっている橋に追い詰めた俺は、そのまま久瀬に飛びかかった。


「くそ!離せ!」

「離すわけないだろ!何やってんだお前!」

「離せや!このクソ!殺すぞ!」


そう言って久瀬は俺の下で暴れ始めた。


それを俺が押さえ込んでいると、遠くの方からパトカーのサイレンと、自称エースの声が聞こえた。


その音にホッとした俺は一瞬久瀬を押さえつけている力が抜けた、そしてそれを見逃さなかった久瀬が、俺の事を思いっきり力強く突き飛ばした。


そしてそれは運悪く突き飛ばされた俺は、そのままの勢いで橋の上から落下し、着水の衝撃で気を失ってしまった。


その後は聞いた話になるのだが、俺を突き飛ばした久瀬はその場で警察に御用となり、強姦未遂に公然猥褻、公務執行妨害、傷害に殺人未遂と色々な罪状が付いて、更にはうちの家から訴えられたりと、色々あって慰謝料や俺の病院費用その他諸々を請求されて、そのまま檻の中にシュートされた。


ってのが、ここ2ヶ月間であった事らしい。


何でも俺は落下の際に頭を水底に少し掠ったらしく、命に関わる状況にあって、俺も知らないうちに何度か手術もしていたらしく、そんなこんなあり俺はあの事件から2ヶ月間目を覚まさなかったらしい。


「はえ〜そんな事あったんだ」

「いやもう本当色々と大変だったんだぞ?俺もあの事件に関わってたって事で、色んなところ走り回ってさ」

「すまんすまん」


俺は自称エースにそうヘラヘラと笑いながら謝った。


俺がそうしていると、俺の病室に真冬を先頭に両親が入って来た。


身体中包帯まみれのほぼミイラ状態の俺が、ヘラヘラ笑いながら真冬に手を振ると、真冬はボロボロと目から大粒の涙を流し始め、勢いよく俺に抱きついて来た。


瞬間俺の全身にはとてつも無い痛みが響き渡った。


「痛ってぇぇぇぇぇ!!!」

「わぁ!夏兄ごめん!」


俺の叫び声に驚いた真冬は、謝りながら急いで俺が寝ているベッドから飛び退いた。


それから更に1ヶ月のリハビリを経て俺は無事病院を退院をした。


家に帰った俺は、例え事故だったとしてもいきなり3ヶ月もvtuber業を休んだんだ、もしかしてみんな俺の事忘れてたりしてたんじゃ無いのか?


とおふざけ半分でそんな嫌な想像をしながら、俺は3ヶ月ぶりにインターネットを開いた。


そこで見たモノは、俺の想像以上のものだった。


「は?え?どういう事?」


そこに書かれていたのは、久瀬のストーカー行為やその他色々の為に引退を表明する事と、しっかりと説明文を読み込まないと、俺がその件で久瀬側として関わっている様にも読み取れる、悪意100%で構成されたそんなふざけたものだった。


そしてそれのせいで俺九重ホムラは、今まで見たこともないほど大炎上していた。

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