第57話 お弁当
初のホラーゲーム配信は、結局あの後1時間後に再度枠を取り何度も休憩をとりながら、なんとかゲーム自体はクリアすることが出来たのだが、後半に行くにつれてどんどん俺の口数が減っていき、最後の方は無言配信という俺の最も嫌う配信内容になってしまったことを、翌日の朝になって後悔した。
だから俺は周りになんと言われようとも、そんなダメダメな配信のアーカイブを残すわけにはいかない。
という訳で俺は昨日のホラーゲームの配信のアーカイブは非公開にした。
勿論その俺の行動には大量の非難が集まったが、そんなもんこちとら慣れっこなんじゃい!
てな感じで今現在は放置している。
「よしっそろそろ洗濯でもするかな」
俺は自分のチャンネル画面を映し出したスマホをポケットに入れ、ちょうど今日はいい天気だったので洗濯のついでに布団でも干そうと思いながら、自分の布団を持って部屋を出て庭へと向かう途中のリビングで、今朝俺が作った弁当が一つ余っている事に気がついた。
「誰だ弁当忘れたの?」
そう呟きながら俺は布団を小脇に抱えたまま、弁当を置いてある机に近づいたところで、その弁当が真冬のものだということがわかった。
もし忘れた相手が父さんか母さんだった場合は、代わりに俺の昼食にでもしようかと考えていたのだが、忘れた相手が真冬となると、中学校には購買なども無いため必然的に昼食抜きになるのだが、もしそうなってしまうと午後の授業に身が入らないと考えた俺は、自分の部屋から持って来た布団を部屋へと戻すと、洗濯物を急いで洗濯機に突っ込んでスイッチを押して、真冬のお弁当をカバンに詰めて真冬の通う中学校へと走り出した。
◯
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
ところ変わって真冬の通う中学校では今、4限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
その鐘の音を聴いたもの達は、各々授業の疲れを取るために伸びをするものや、友人と話し出すものに、授業中に居眠りをしていたせいか今になって、急いで黒板の文字をノートに写しているものなどの行動をし始めた。
それは勿論真冬も例外ではなく、授業が終わると同時に真冬と仲の良い数名の女子が、お弁当をその手に持って真冬の席へとやって来た。
「真冬〜お昼食ーべよ!」
「私もお腹ぺこぺこですぅ……」
「2人ともちょっと待ってね」
そう言って真冬が中学指定の鞄に手を入れた時、そこにいつもならあるはずの、毎朝毎朝兄が朝早起きしてわざわざ作ってくれているお弁当がない事に気がついた。
「あ!」
そしてそれと同時に昨日少し夜更かしをしたせいで今朝少し寝坊して、急いで家を出たことを思い出し、その際急いでいたあまりお弁当を机の上から持って来てなかったことを思い出した。
どうしよう……
お弁当を取り出そうとして鞄に手を突っ込んだ後に悩み出した真冬の姿を見た2人は、真冬がお弁当を家に忘れたことを察することができた。
「真冬もしかしてお弁当家に忘れた?」
「うん。ちょっと朝バタバタしてて……」
「そうなんだぁ。じゃあ私のお弁当ちょっと分けてあげるね〜」
「本当?ありがとうね」
「じゃあ私のミートボールもあげるぜ!」
「2人ともありがとう!」
そんな感じで3人が一つの机にお弁当を広げながら話していると、廊下の方から大きな悲鳴……と言うよりかはアイドルや芸能人に向ける様な黄色い歓声が聞こえた。
「え?なになに」
「どうかしたのか?」
そんな声に釣られて教室の中に居た生徒達は、その声が聞こえた廊下の方へと、その歓声を一身に引き受ける人物が誰なのかを確認するために、自分がいち早く見るんだと勢いよく廊下へと出ていった。
そんなことがあったのにも関わらず、真冬は全くそれに興味がない様子で廊下の方へと振り返る様子すらなかった。
そんな真冬の様子を見た友人の1人が手に持ったお箸をかちゃかちゃしながら声をかけて来た。
「真冬ってこう言うの興味ないの?」
「一切ありませんね」
「へーそっか!」
「そう言うあなたはどうなんですか?」
「そりゃー勿論興味はあるよ!けどわざわざ立って廊下まで行ってみるほどかって言われると、そこまでじゃないかな」
「私も〜」
そんな感じで3人で話しながらお昼ご飯を食べようとしたその時、先程よりももっと大きな叫び声が聞こえた。
それもさっきよりもこの教室の近くで……
流石に2回目で更に先程よりも大きい声だった為、3人はご飯を食べようとする手を止め、気になったのか一斉に廊下の方へと視線を移した。
そしてその瞬間扉の先から身長は180を優に超えるであろう高さに、すらっと伸びた足に引き締まった腰回り、そして何より中学生には刺激が強すぎるほどの整った顔付きのイケメンが歩いている姿が見えた。
「え!?誰?あのイケメン!新しい先生?」
「すごー」
いきなり見たことの無いイケメンが学校に現れた事に、2人は驚き興奮した口調でそう呟いた。
そして真冬も2人とは違う意味で驚き声を上げた。
「な、夏兄どうしてここに?」
「お!真冬よかったよかった!お前机の上にお弁当置きっぱなしにしてただろ?お弁当無いと午後の授業で力出ないだろ?だからお弁当持って来てあげたぞ」
そう言って長身のイケメン……私の兄である夏兄がカバンの中から見覚えのあるお弁当袋を取り出すと、こちらに大きく手を振りながらやって来た。
そして私の元へとやってくると手に持っていたお弁当を私の前へと置くと、そのままの流れで夏兄はさっきまでお弁当を持っていた手を私の頭の上に乗せると、軽くポンポンと叩いた。
「それじゃあ俺の用事はこれだから帰るけど、真冬午後の授業も頑張れよ」
そう言って夏兄は手を私の頭からどかすと、軽くひらひらと手を振りながら教室を後にした。
そして次の瞬間先程まで廊下にいた生徒が一気に教室の中に入ると、私の机の周りを囲みみんながみんなおもいおもいのことをはなし始めた。
勿論私は聖徳太子でも無いので、そんなにいっぺんに言われたところで聞き取れないのだが、微かに聞き取れた中には、「お兄さんすっごいイケメンだね」や「あの人名前なんて言うの?」などが聞こえた。
それで今まで私への当てつけとして、散々周りから変な噂をたてられていたのにも関わらず、たった一度学校に来ただけでそんな噂を全て吹き飛ばして、一瞬にして私の学校で人気者に成り上がった兄の姿を見て、やはり私の夏兄は凄いんだ!と改めて思った。
◯
「いやー久しぶりに中学校とか行ったけど、みんな騒いでて元気だったな〜」
けど俺が職員室でたまたま近くに居た若い女性の先生に、真冬の教室がどこにあるか聞いた時なんでか知らないけど、周りの特に若い男性の先生達から睨まれたけど、そんなに俺怪しい格好してたかな?
それに女性の先生が何故か連絡先聞き出そうとして来たし、その時の顔ちょっと怖かったな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます