第38話 ありがたいお言葉
長時間の車での移動が終わり着いたそこは、豪邸というほどのものでは無いが、そこそこの大きさの和風のお屋敷がそこにあった。
実家に着いた俺達は真冬と母さんの女性組は鼻歌を歌う様なルンルン気分で、俺と父さん特に長時間運転していた父さんはその時の疲れもあり、少しどんよりとした空気になっていた。
「ほら、夏兄とお父さん早く早く」
そう言って玄関の前でこちらに振り向いて可愛らしい笑顔を向けてくれる真冬を見て、俺は顔を入れ替えた某アンパンの様に元気が100倍になった。
という訳で俺は先にいる真冬から荷物を預かり、俺とは違いどう見ても作り笑いしている父さんを待っている母さんの横を、俺と真冬は足早に玄関から中へと入っていった。
玄関を抜けて俺と真冬が真っ先に向かったのは、前に話した例の大爺様の元へだった。
この家のしきたりなのかよくわからないが、毎年正月に来る時にはみんなして大爺様のところへ行って、ありがたい話を聞かないといけなかった為、俺と真冬は荷物を持ったまま駆け足で向かった。
その際正月時に親戚が集まった際の溜まり場となっている広間を見てみたがそこに誰もいなかったのと、車も止まっていなかった為今日ここに呼ばれたのはうちの家族だけだというのがわかった。
ならどうしてわざわざウチが呼ばれたのだろうと考えていると、大爺様の寝室の前までやってくることができた。
俺と父さんはいつもこの時に大体30分以上大爺様からありがたいお言葉を受けるので、その間真冬を廊下で待たせるわけにもいかない為、真冬に先に部屋に入ってもらい、中から少し話し声がしたと思うと、真冬は笑顔で大爺様に手を振って出て来た。
「それじゃあ夏兄私お部屋に荷物置いてくるね」
そう言って大爺様の部屋から出て来た真冬は笑顔のまま俺の荷物と自分の荷物を両脇に抱えて、俺たちが泊まらせてもらう部屋までトテトテと可愛らしい音を鳴らしながら歩いて行った。
その様子を微笑ましそうに眺めた俺は、意を決して大爺様の居る部屋へと入っていった。
「大爺様お久しぶりです。藤堂夏です」
俺がそう言って部屋に入るとそこには、金ピカのどこの成金が着るんだよと思いたくなってしまう袴を着込んだヨボヨボのお爺さんが、肘掛けに肘を乗せあぐらをかいてこちらの方をじっと見ていた。
「夏か……座りなさい」
「はい、失礼します」
そう促されるままに俺は大爺様の真正面に正座をし、今日は何について言われるのだろうと考えていると、大爺様がそのゴールデン袴から1つの紙束を差し出して来た。
それを見て俺は何だ?と思いながらその紙束を受け取ってみるとそこには、華やかな衣装を見に纏った女性の写真と、その女性のプロフィールらしきものが一枚の紙にびっしりと書き連ねていた。
「大爺様コレは?」
俺がそう聞くと大爺様はしゃがれて聞き取りづらい声で色々と話し始めたのだが、正直聞いていて俺はずっと頭の上にはてなマークが浮かび上がっていたと思う。
そんな大爺様が俺に話した内容は、ズバリ言ってしまえば婚活いやお見合いだった。
だが俺が困惑していたのは別にこのことでは無い。
いや急にお見合いとか言われたから困惑してるのはそうだけど今はそれよりももっと別だ、まず第一に驚いたのが俺が大爺様の中でヒキニートという事になっている事だ。
俺がvtuberをやっていることは身バレ防止のため例えそれが親戚であろうと話せることではなかったのだが、流石に大爺様には話しとかないといけないと思い話をしたことがあるのだが、この老耄目忘れやがったな?
それで2つ目が今日俺たちをここに呼んだのは、俺にお見合いをさせる為だけらしい。
……いや、バッカじゃねぇのそんな事でいちいち家族全員呼ぶんじゃねぇよ!俺はともかく父さんと母さんはアンタが来いと言ったから急遽有給を取得してくれたんだぞこのボケ老人が!
そして最後にこれが1番驚いた。と言うか見た瞬間信じられずに、大爺様とお見合い写真を何度もアホヅラで交互に観まくった。
それぐらいおかしな人物が"2人"もそう2人も居たのだ。
まず1人目だがまさかの金城カネコアイツだった。
な?意味わからんだろ?
と言うかよく金城の奴とお見合い出来るよにしたな大爺様……すげえよアンタ
金城の家は日本有数の金持ちで誰もが聞いたことのある企業で、金城の奴はそこの一人娘という生まれた時から勝ち組な、何故ユメノミライにいるのかが1番わからない奴だ。
俺的にはノマドと同列の問題児という感じにしか見えないが、世間様から見た金城は高嶺も高嶺エベレストの頂上に生えてる花張りの高嶺の花だ。
それをよく何人かエリートを世に排出してるだけって言ったら語弊があるが、その程度で金城とのお見合いをセッティングできる事に大変驚いた。
そして俺が驚いた2人目だがそれは……
俺が2人目のお見合い写真と大爺様の顔を交互に見合っていたその瞬間、バーン!と大きな音を立てて大爺様の部屋の扉が開かれた。
「あ!お兄ちゃん見ぃつけた♡」
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