第7話「広末涼子」
しかし、ドゥ子さんはまだ終田町にいた。
少なくとも表面的には、前と変わらない様子で。
「おら、ノボルくん! 抜いてみろ!」
それはドゥ子さんの日頃の行いのせいで挑戦的なセクハラにも聞こえるが、単にノボルを含めた何人かの僕のクラスメイトたちとサッカーをして、ゴール真際のせめぎ合いをしているだけだ。
僕はひとり疲れて、広場の脇のベンチでドゥ子さんと友人たちのサッカーをぼんやりと眺めていた。
――あれから、一週間ほどが経った。
ドゥ子さんのことを、リサちゃんは殺人鬼組合に引き渡さなかった。それが何を意味するのかは今度聞くとして、とりあえずいまは無力化された殺人鬼を野放しにしてもいいという判断になっているみたいだ。
「あの女は結局、この町に残るのか」
「それは分かんないけど……って、え?」
急に声かけられ横を振り向くと、いつの間にかそこには錵さんが座っていて、僕は変に驚いてしまった。
「あ、錵さん。えーっと……その節はどうも」
「どうした助手くん、緊張しているのか? 魅力的な私で申し訳ない。君がそのような態度になるのも致し方あるまい」
「いや、そういう緊張じゃないよ」
「そうかい? まあいいさ。――探偵さんから、話を聞いたよ」
錵さんは僕の隣に腰掛けると、サッカーをするドゥ子さんを見ながら、複雑そうな表情をした。
リサちゃんは錵さんにどこまで話をしたのだろうか。
「殺人鬼と関わり、それを知ろうとする者に、殺人鬼の一切を隠し立てしない……。探偵さんはそう言っていた」
「だったら錵さんは、ドゥ子さんのことを全部聞いたんだね」
「聞いたよ。全部聞いた。――少し安心したと言うのが、本音だ。記憶に関するところについてはね。不可抗力で消えたというのは恐ろしくもあるが……原因が分かったんだから、それをいたずらに恐れる必要はなくなった。君たちのおかげだよ、ありがとう」
錵さんの顔からは、少し険しさが抜けているように見えた。自分の記憶の所在を確かめることが出来て、その言葉は本音なのだろう。
しかしそれでなお、ここに来た理由は……。
「ドゥ子さんに、会いにきたの?」
「……ああ」錵さんはドゥ子さんから目を離さない。「私はあの女をどうすべきかと思ってね」
「どうすべきかって言うと?」
「つまりあの女は、シヅルの死の遠因なんだ。――許し難い。憎しみを感じる。
……でも同時に、同情もする。他人の勝手な記憶に振り回され、自我を脅かされるなんて、常に穏やかではいられなかっただろう。――その気持ちはね、本当によく分かる。……それに、やはり日記を読むと、あの女は私の親友だったんだ。記憶はないけど、なんとなく感じる。魂がそれを憶えているような、そんな気持ちだ。あの女のことが、好きだったんだな、私は。――あいつは私のことを、憶えているだろうか」
「…………」
「いや――度々すまない。君はなんとなく話しやすくてね。雰囲気が少し、シヅルに似ているからかな。そんなことを言われても困るだろうが」
そう言うと、錵さんは、何かに気付いて視線を落とした。先ほどまで錵さんが見ていた方を見やると、遠くからドゥ子さんが近づいてくるのが分かった。
ドゥ子さんは、錵さんに気付いたのだろうか。
僕は錵さんに「ドゥ子さんを足止め出来るけど?」と提案してみたが、しかし錵さんは「いや……知るべきだ」と言って、再び顔を上げた。
ゆっくりと歩いてきたドゥ子さんは、錵さんの前で立ち止まる。
そしていつもの調子の良い口調で言った。
「やあ、はじめまして。……うちの弟に、何か用かな?」
それはドゥ子さんにとって、いつもの軽口だったのかも知れない。
あるいはその軽口こそが、ドゥ子さんがうまく生きるための処世術であり、それはある種の強がりようなものだったのかも知れない、
しかしそれは、錵さんの逆鱗に触れた。
「貴様の弟は、シヅルだろ!」
錵さんは立ち上がり、ドゥ子さんの胸ぐらを掴み、叫ぶ。
ドゥ子さんは一瞬驚いたみたいだったが、すぐに目を伏せ、それに答えることが出来ないでいた。
錵さんはしばらくドゥ子さんを睨みつけていたが、少し冷静になり、ドゥ子さんの胸ぐらから手を離してベンチに座り直した。
「すまない……。君のことは聞いている。どうやら私は忘れてしまったようだが……それでも、君に会いにきた」
「そう……私はあんたをよく知ってるよ、錵」
「――そのようだ。私もそのはずだった」
積もる話があるだろう、僕はベンチから立ち上がろうとしたが――
「そこにいて」
「そこにいてくれ」
二人から同時に止められて、結局その場にとどまった。ドゥ子さんは錵さんの隣ではなく、僕の隣に座る。僕は二人に挟まれた格好だ。いくらなんでも気まずすぎるが、僕がいた方が都合がいいのならそうするしかないだろう。
二人はどちらが話しはじめるかお互いの出方を探っていたが、やがて錵さんが先に話しはじめる。
「君のことを探偵さん……リサさんから聞いたよ。殺人鬼のことも聞いた。どうやら、色々と大変な目にあったらしい。心中察する」
「そう、そりゃ……どうも」
「君は……私の中から君の記憶を消したのだろう?」
「勝手に消えちゃうのよ。消したくて消したわけじゃない」
「まあいいさ、消えたのか消したのか、そんなことは瑣末な違いだ……私の記憶は、すでにこうして消えてしまったのだから。
……ひとつ試したいことがある。難しいことじゃない。私に少し、思い出話をさせてくれ」
「…………」
「もしかしたら、何か思い出すかも知れない。君のことを少しでも思い出したいんだ」
「――いいよ、錵。だったら私も話してあげる。あんたに色々負かされて、悔しい恨み辛みが募りに募ってんだから、私は」
そして二人は、ぽつりぽつりと思い出話をはじめた。
錵さんのはなしは、主に学校での話みたいだった。日記に書かれていたことを探るように、消えてしまったドゥ子さんの影を追いかけるように、話をする。
対してドゥ子さんの話は、まるで昨日のことを語るように鮮明だ。恨み辛みだなんて言いつつ、二人は勉強でも運動でも何かにつけて勝負をしており、その勝敗で遊んでいたのだ。
二人は話をするたびに、錵さんがその記憶を持たないことを思い知らされるたびに、苦い顔をする。
僕はそれが、あまりにいたたまれなかった。
だけど、二人が唯一、同じように話せることがあった。
「シヅルって炭酸ジュースが苦手だったよね」
「シヅルはサッカーばかりしてたな」
「シヅルは何かあると、絶対に錵の味方をしてた」
「シヅルは結局、姉離れが出来ないでいたな」
「シヅルと錵が付き合ったのを知って、なんだかどっちも取られちゃったって思ったな。除け者にされたって」
「シヅルはいつも姉の話をしていた気がするよ。それに嫉妬したという感情は憶えている」
「シヅルは――」
「シヅルが――」
二人は泣きながら笑っていた。
シヅルさんとの思い出だけが、彼女たちのあいだにある。
もう忘れられた日々の名残を、拾い集めている。
僕のクラスメイトたちが遠くから不思議そうに、そんな二人の姿を見ていたけど、二人はおかまいなしだ。
「錵は憶えてないと思うけど……シヅルとさ、PK対決をしたことがあったよ。休みの日に錵を遊びに誘ってたら、その日はどうしても僕が遊ぶんだって」
「――その話は、少し、憶えてるな」
「え、本当に?」
「君との記憶は曖昧だが……」
「錵もその時、シヅルとPKをしてさ」
「ああ――懐かしいな。シヅルの顔面に、思いっきりボールを蹴り入れたんだ」
「錵はさ、ノーコンなのに蹴りが強すぎたんだよ。シヅルは鼻血を出しながら笑ってたな。錵は珍しく狼狽えて、シヅルを介抱してた。――なんかそれ見て、二人は両思いなんだなって思った」
「…………よし」
ドゥ子さんの話を聞くと、錵さんは何かを思い立ったように立ち上がる。
「PK対決をしよう」
「は?」
「お互い一本勝負だ」
「――なんか賭ける?」
「いや、何も。私が勝てば、君が負ける、ただそれだけさ」
「おいおいおいおい。なんか勝とうとしてない? やってやろうじゃん」
なんて言いながら二人は立ち上がる。
僕はベンチに座ったまま二人を眺めていようと思ったが――
「ほら行くよシロスケくん」
「行くぞ、助手くん」
再び二人に促されて、勝負に立ち会うハメになった。
「そういえば、なんで助手くんって呼んでんの?」
「リサさんが探偵さんだからな、彼はその助手ということらしい」
「え、リサちゃんってそうなんだ。美少女殺人鬼探偵……ヤバいね」
「ヤバいよ。美少女殺人鬼探偵はマジでヤバい」
うーん、この二人、本当に親友同士だったんだなあ。
涙を拭いた二人は、男子たちから場所とボールを借りて、お互いに向き合う。いつの間にか男子中学生に好かれまくって毎日どこかしらニヤニヤしてるドゥ子さんと違い、錵さんは真剣な眼差しをしている。
先攻はドゥ子さん。ゴールの前に錵さんは立ち、着ていた上着を脱ぐと、それをゴールポストの上にかける。ちなみに錵さんは着痩せする方らしい。
「うそだろ……」
「マジかよ」
綺麗なおねえさんたちのPK対決を見守っていた僕らの同級生たちが、にわかにざわめきはじめた。
「デカい」
「デカすぎる」
「どうやったらあんな……」
「ヤングチャンピオン……」
「……がんばれ!」
「そうだ……がんばれ!」
「がんばれ、大きなおねえさん!」
「がんばれヤングチャンピオン!」
J1昇格のかかったホーム戦の博多の森のピッチかと思うほどに、応援は盛り上がる。ドゥ子さんは完全にアウェーだ。
「ちょっとみんな! 私を応援してよ! 私のことお嫁さんにしてくれたじゃん!」とドゥ子さんは遠慮なく言う。いつの間にそんな一妻多夫の家庭を築き上げたんだ?
しかし男子中学生たちは我を失ってしまった。
「離婚だ離婚! ドゥ子さんこそ分かってんだろうな!」
「あれを目の前にした男子中学生のことも考えろ!」
「ゴールネットは揺らさなくていいからな、第二夫人!」
なんて無茶苦茶に野次を飛ばしている。
「くそーー! お前ら憶えてろよ! はい、シロスケくん審判!」
「うん、はいはい。じゃあノボルも手伝って」
僕は言われるがままゴール側に付き、ノボルにはキック側に立ってもらう。と言っても、こんなもんはきっと形だけのお膳立てだ。けれど形は大事だし、やんないよりやった方が良いだろう。
同級生どもの野次は相変わらずだが、ドゥ子さんは珍しく真剣な顔だ。
両者が位置に着いたのを見て、ノボルが声を出す。
「ホイッスルは無いから、二人とも俺が手を叩いたらはじめて」
「オッケーオッケー。遊びとは言え、これは勝負。――やっぱ錵には負けたくないわけ」
「なるほど不思議なもので、私も君には負けたくないな」
「その男子中学生誘惑装置がPKには不利ってことを教えてやんよ」
ドゥ子さんはボールの位置を定め、そこから助走分の距離に離れる。少しだけ足を曲げ伸ばし。肩や腰を揺らす。
一方で錵さんは泰然と腕を組み、仁王立ちしている。
それがお互いの圧力のかけかたなのだろう。こんなパッとはじめてすぐに勝負の体勢になれるんだから、二人は戦い慣れしすぎている。
――もしかしたらそれは、情報的な記憶を失っても、体験的な記憶は憶えているということなのかも知れない。泳ぎ方や自転車の乗り方は何年経っても忘れないと言うけど、そういう類いの記憶はなくならないのだ。あるいはその人との接し方だって、ある種の体験的な記憶であるのかも知れない。
両者が身動きを止めた。それを準備完了と見て、ノボルが手を叩いた。
「はじめ!」
ドゥ子さんは合図で走り出したりはせず、たっぷりリズムを取るように軽くステップを踏み、ゆったりと余裕を持って助走を付ける。
一歩、二歩――徐々にスピードを上げ、一気に軸足を踏み込むと、そして刺すようにボールを蹴り込んだ。
ボールは風を切り、緩い弧を描いて宙を舞う。
錵さんは反応こそ出来たが、すんでの所でボールの勢いが勝り、それはゴールポストの隅に吸い込まれていった。
「おらーー! 見たか中坊ども! これが前妻の実力じゃい!」
「うおおおおお!」
ドゥ子さんのシュートは美しすぎるくらいだったが、それをまともに評価していたのはノボルと僕と錵さんくらいのもので、中坊どもが見ていたのはヤングチャンピオンさんの揺れるヤングチャンピオンだ。
マジでこれ何? 何の時間?
でも外野はともかく、二人は変わらず本気で遊んでいる。
「経験、継続の差が出たね」
「ふん、私が決めれば問題ない。引き分けはサドンデスだ」
「絶対に止めてやるからな……」
そう言って二人は攻守を交代し、ポジションに着く。
錵さんは先ほどまでの仁王立ちとは打って変わって、軽やかに柔軟運動をはじめる。なかなかの迫力に、中坊どもはにわかに色めき立つ。
「絶対に勝ってくれ!」
「負けるなおねえさん!」
「式は海ノ中道であげるぞーー!」
馬鹿しかいねえな僕の友達は。僕もそうだし仕方がないね。
柔軟を終えた錵さんは、しかし中坊どもの声援にわずかに微笑み返したばかりで、じっとドゥ子さんのことを見据えていた。助走は最大限に距離を取ってる。
対するドゥ子さんもすでに準備万端、腰を低く構えた。
準備は済んだ。覚悟は出来てる。
ノボルはそれを見て、大きく手を叩いた。
「はじめ!」
ノボルの合図に、錵さんは全力で駆け出す。
ドゥ子さんは錵さんの走る方を見定め、いつでも飛び出せる態勢だ。
錵さんの蹴りは――左のポスト狙いか。蹴り足の動きを見る前に、ドゥ子さんは左側に飛び出す。
狙い通りだ。
錵さんは砲弾を撃つようにボールを叩き蹴った。
ボールが衝撃を受ける重い音、それは風を置き去りにするかのようなスピードでゴールまで飛んでいき――
どすん、とめちゃくちゃ鈍い音を立て――
タイミングよく飛び出たドゥ子さんの顔面を捉えた。
うわ、痛そう。
ボールはドゥ子さんに勢いを殺され、ぽつんと地面に落ちる。
ドゥ子さんは飛び出した勢いのまま地面に倒れ、一瞬、広場の空気が止まる。あまりに見事な顔面セーブに、僕たちはただただ畏怖の念を抱くばかりであった。
「すまん! 本当にすまない! 大丈夫か!」
最初に駆け寄ったのは錵さんだった。
ドゥ子さんは急なことに呆然と固まっていて、額から鼻にかけて真っ赤になり、鼻血が出ていた。
僕たちもドゥ子さんの元に駆け寄り、どうにかその身体を起こすのを手伝う。
幸いなことに、ドゥ子さんは思ったよりも平気そうだ。
「ははは、肉を切らせて骨を断つ、そんな感じだわ。……違うかも知れないけど。このセリフ言ってみたかったんだよね」
まだ結構余裕はあるな。
とは言え立ち上がるとふらふらで、ドゥ子さんの身体は錵さんが支えた。
「少年たち、貴重な時間をありがとう。邪魔して悪かったな」
そのまま錵さんは、ドゥ子さんを元のベンチまで介抱しながら連れて行く。僕はここに残ってみんなとサッカーをしようかどうか考えていたが――結局、自分から二人について行くことにした。
うやむやになりかけたが、PK対決は一応、ドゥ子さんの勝ちだ。
勝ち方が勝ち方だったので、中坊諸兄もさすがにドゥ子さんを心配こそすれ、先ほどのようにアウェー攻撃をお見舞いすることはなかった。
「いやー、錵のシュート、強すぎて可笑しかったな。衰えてない」
僕が渡したハンカチで鼻血を拭きながら、しかしドゥ子さんは随分と楽しそうだ。
僕らがベンチに腰掛けると、丁度みんながサッカーを再開したところだった。
「すまなかったな」と、錵さんは謝る。「まさか君の弟にしたのと、同じ所行をしてしまうとは」
「いいよいいよ、私が勝ったし」
「そう言ってくれるとありがたい」
僕たちはしばらく沈黙してみんなのサッカーを眺めていたが、やがて躊躇うようにして、ドゥ子さんが切り出した。
「――ねえ、錵。何か、思い出せた?」
錵さんは即答しなかった。
わずかに逡巡したあと、ゆっくりと首を横に振った。
「いいや、何も思い出せないな」
その答えにドゥ子さんは「そっか……」と、諦めのように相槌する。
「まあ分かってたけどね。――でも今日は、なんだかあの頃みたいで楽しかったな」
「それは私もだよ。……どこかシヅルのことを思い出すのは避けていたんだ。辛すぎるからね。でも今日、君と話せて良かった。蓋をしていた思い出が、こんなに美しいものだったなんて」
そう言うと、錵さんは脱いでいた上着を持って立ち上がった。
「今日はありがとう。そろそろ行くよ、私は」
ドゥ子さんはまだ何か言いたげに、錵さんを見たが、その顔を見て錵さんは微笑んだ。
「そんな顔をするな――また会いにくるよ。君も会いに来てくれ」
「また……会ってくれるの?」
「もちろん。――まあ、PKはまた君の顔面を破壊してしまうから、今度は目隠し将棋とか、スピードカードとか、スポークンナンバーとか……」
「はは。それ全部、錵が得意なやつじゃん」
「ああ、そうだ。そうか。やっぱり君は、私を憶えているんだな。私はすっかり、君を忘れてしまって……悲しいよ。でも私が君を忘れても、君が私を憶えていくれていたのなら。――きっと私たちは、まだ友達だ」
錵さんは後ろ手を振りながら、立ち去っていく。
「またな、ジョン・ドゥ子」
その背中にドゥ子さんも声をかける。
「またね、錵。――ありがとう」
そのまま振り返ることなく、錵さんは公園を立ち去った。
ドゥ子さんは少し涙ぐんでいた。
「ははは、錵が私のこと、ジョン・ドゥ子って呼んでたな。――ああ、こんなことならもっとかわいい名前にしとくんだった。広末涼子とかさ」
なんて言って、ドゥ子さんは少し寂しそうに、それでも微笑む。
「シロスケくんもありがとう、いてくれて良かったよ」
「え? 僕、副審しかしてないけど」
副審すらしてないとも言えるけど。
「いてくれることが良かった、ってこと」
「ふうん? まあよく分からないけど、いるだけで良いなら、いつでも呼んでよ。いるから」
「うん。ありがとう。――さて、それじゃあいつも通り、サッカーするか。ピッチピチの男子中学生たちとね。……おーいみんなー! 再婚してくれーー!」
ドゥ子さんは駆け出し、僕もゆっくりとあとを追う。
風は少し冷え、秋は深まる。
やがて日も短くなる。
この町の季節の移ろいを、ドゥ子さんも思い出してくれているといい、なんて風に、僕は思う。
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