黄泉比良坂の貸本屋一乗さんの異常な日常

小此木センウ

プロローグ まほろばの中でまほろばを夢見る人々

ただの本屋の自己紹介

 私、一乗いちじょうアキは本屋である。本屋といっても貸本屋だが。しかしそれは表の顔で、裏では怪異を調伏する女祓師として活躍している。……というのは大嘘で、実のところ私はただの本屋だ。だから今、非常に困っている。


 私たちは靴も履かず、往来に突っ立っている。行き交う人々が私たちの足元をちらりと見て、不審そうな顔をして通り過ぎる。それだけでも充分困るが、さらにこの場に、期待の目で私を見つめる親子がいるのが問題をややこしくしている。ただの本屋にそう期待されてもどうしようもない。

 この馬鹿ばかしくも悩ましい状況が生まれたことの起こりは、一時間ほど前にさかのぼる――

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