散歩日和-sanpobiyori-2

「朱ちゃーん!用意できたよー!」


 樹矢が着替えてセットしたりと、外に行く準備をしている間、俺は寝間着から楽な外着にさっと着替えカメラのメンテナンスとレンズのクリーニングをして待っていた。


「おう」


 荷物を持ちガチャっと樹矢の部屋の扉を開けると目の前に彼は立っていた。


 膝丈まである紺のチェスターコート、白いタートルネックのニットにシンプルなネックレス、黒のパンツに茶色い革靴を合わせている。


「ん?朱ちゃん??行かないの?」


「…えっ?あぁ、行こう」


 やばい、見惚れてしまった。かっこいい姿を見て無意識にボーッとしていた。

 かっこいいところなんて今までも幾度も見てきたのに、未だに俺は慣れない。




 手を繋いで朝日が昇ろうとしている薄暗い道を歩いて公園へ向かった。人通りはまだ少なく、少し変装していると言えど、俺らは男同士。数少ない視線を浴びながらも、目的地を目指した。


 丁度公園に着いた頃は朝日が明るくなってきていた。


(理想通りのシチュエーションになった。これはいい作品が撮れそうだ)


 俺はレンズを覗いた。



「樹矢、とりあえずそこらへん歩いて」


 適当に指示を出してカシャカシャとシャッターを切る。

 朝日に照らされ樹矢がキラキラと映る。


「ちょっと顔俯いて」


 ___カシャ…カシャ…


「よし、次はあっちのベンチ行こう」


「はーい!」


 特に指示せずシャッターを切る速度に合わせて自然にポージングしていく樹矢。表情や仕草はもちろん視線もモデルのモードに切り替わって、纏う雰囲気もいつもと違う。


 ___メガネ姿カッコイイ…。


 たまにしか見せないプライベートでの仕事姿は俺をキュンとさせる。


 朝日が昇っていくまでの限られた時間、俺は夢中で撮影した。


「よし!終了。お疲れ様、樹矢」


「お疲れ様です!」


 いいの撮れた?とワクワクして聞いてくる。


「一応こんな感じ」


 まだ編集していない撮って出しのデータを適当に見せる。


「またレタッチしたらちゃんと見せるわ」


「朱ちゃんが撮りたいのが撮れたなら良かった!出来上がり楽しみにしてる」


 モデルモードから元気な笑顔を見せた樹矢はいつも通りだ。けど、世の中の瀬羅樹矢のイメージはモデルな彼が一般的なんだ。恋人へ向けるこの笑顔や恋人にこうして朝から付き合ってくれる優しさやリードしてくれる男気も俺しか知らなくて、俺だけの彼だ。


 俺達は始まったばかりの今日を照らすために、まだまだ昇っていく朝日を背にして家へと帰った。

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