第2話 海の見える街で

僕の生まれた街は湘南の端っこの小さな町だ。


湘南と言ってもサザンオールスターズや湘南乃風の音楽が流れるような街じゃない。

辛うじて車は湘南ナンバーではあっても、砂浜に水着ギャルや屋台というような海じゃなくて、漁師の網が置かれていたり、数年前までは干物が干されるような漁村だ。


高校で藤沢に通うことになると、藤沢が都会に思えるような少年時代だった。


夕暮れ時に、坂道の下に広がる海に向かって太陽が落ちていく姿を、母親の手を握りながら見ていたことを30年以上経った今でも鮮明に覚えている。


彼女ができると、この景色を見せたくて、何度も藤沢や横浜から地元に連れてきた。

感動してくれる子もいたが、高校生にそこまでの感受性を求めるのは酷だったかもしれない。多分、めんどくさく思う子が多かっただろう。

僕自身、「夕焼けを見に海に行こう!」と、全身が冷え切るほどの寒い口説き文句で彼女を地元に連れてきたが、夕焼けを見せたいという思いよりも、、

自室に連れ込みたいという下心の方が大きかっただろう。


何人かの女性と、この夕焼けを眺めたが、やっぱり思い出としては、母親に手を引かれながら、家路に着いた幼少期の方が鮮明に残っている。


まだ母は60代。

僕の家から1時間の実家で元気に父と暮らしている。

元気なうちに感謝をもっと伝えたいし、子供の頃の思い出話をしたいが、、

まだまだ修行が足りず、恥ずかしくてすることができない。


娘の話をしながら、少しずつ今も覚えていることを伝えていこうと思う。


今、僕がいることは間違いなく、あなたたちのおかげだから。




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