第44話 芹沢 麗奈 との再会 その3

「………話すのも辛い過去のはずなのに…話してくれて…ありがとう…

 俺も…聞いているだけで辛かった…」


「…聞いて下さり…ありがとうございました…」


「………ただ…今の話を聞いても…

 正直俺は…気にするなとは…言えない…

 幼馴染みにも…戻れない…

 すまない………度量の狭い男で…」


「…そんな事ない…当たり前…当たり前です!分かってます!

 今更…貴方に許してもらおうなんて…思ってません!

 今の私の行動も自分勝手な事だとは…理解してます…

 ただ…あのまま何も言えずに…謝る事さえ出来ずに…

 二度と会えなくなるのが耐えられなくなって…

 雪奈さんに縋って…これまで生きてきました…」


「…雪奈…さん?」


「その…ごめんなさい!

 私裁判の後…生きる希望をなくして…このまま恭介さんに会えないのならと…

 それで雪奈さんに助けて貰って…

 そこまで追い詰められているなら…

 みっともなくても希望にしがみつきなさいって…」


「…また…雪奈さん…か…

 ひょっとして…カンピオーネに?」


「…はい…」


「rank-1を獲る事が出来たら…会う機会を作ってくれるって…」


「………」


「だから…今日会うのは…本当は…ダメなの…ズルいの…

 お父さんが事故で危篤だと聞いて…最期の試験を受けずに…日本に…

 だから当然rank-1になんてなっていない…

 何年経っても…私は…ズルい女で…」


「今日会えないかと打診したのは俺だ…

 だから今日会ったことについては…俺のせいだ…

 そこは…気にする必要はないよ…」


「………」


(心が重くて…俺は何も言えなくなってしまった…

 本当は会ったら…これだけは言おうという言葉があったのだが…

 口に出す事が…出来なくなってしまった…)


「…今日は…時間を取って話を聞いてくれて…ありがとう…ございました…

 勝手ながら…もう少し…話をしようと思っていたのですが…

 いざとなってみると…やっぱり…難しいものですね…」


「…俺の方こそ…ありがとう…」


「あの…最期に1つだけ…聞いても…良いですか?」


「…うん…」


「こんな事私が一番聞いてはいけないのですが…

 どうしても…確認したい事がありまして…」


「…うん…」


「恭介さんは…新しい恋が…出来るようになりましたか?」


「…恋人とかは…いないけど…気になる人は…いるよ…」


「ひょっとして…あちらの?…」


「…うん…」


「…良かった…本当に…良かったです…

 私のせいで…心の優しい貴方が人を愛せなくなったらどうしようかと…

 それだけが…気がかりでした…余計なお世話ですが…

 優しそうな…とっても優しそうな人…ですね…

 さっきも…今も…貴方の事を…心配そうに…見つめています…

 …上手く…グスっ…いくこと…グスっ…願ってます…」


麗奈は目から涙が溢れていて、それを隠したいのか急いで喫茶店を出て行った。


麗奈が出て行くと、白鳥先輩がこちらにやってきて…

何も言わず俺の手を握った…

暫く沈黙だけが続いた…


「…白鳥先輩…」

「…うん?…」


「俺…結局…許す事は…できませんでした…

 もう幼馴染みにも…戻れないって…言いました…

 麗奈だって…被害者なのに…

 俺は………度量の狭い人間…です…」


「…そんな事はないぞ?

 お前の苦しさ、辛さはお前にしか分からない…

 お前なりに一生懸命苦しんで…考えて…

 でも…その結果…許せなかったというのであれば…

 それは仕方ないと思う…」


「………」


「長瀬さんと雪奈さんについては、お前の中でも想う所があり…

 結果お前の中で折り合いがついた…

 元通りの関係までは戻れないかもしれないが…

 それでも…未来への道は開けた…


 麗奈さんについては…折り合いがつかなかった…

 …仕方ないよ…そこを自分の気持ちに嘘をついても…意味はないよ…

 良いじゃないか!

 別に一方的に何もかもお前が我慢する必要はない…

 お前だって被害者なんだから…」


「………今日…先輩が傍に居てくれて…良かったです…」


白鳥先輩は慈愛に満ちた眼差しを俺に向けて

「少しは…落ち着いたか?…」


「…はい…」


「じゃあ…帰ろうか?」


「…はい…」


「そんな顔するな…

 仕方ないから…今度は…そうだな…腕でも組んでやるから…」


「…ううっ…ぁい…」


この人の前では本当に子供になってしまう…

俺はこれ以上喋ると涙が出てきそうになるので、黙って先輩に従った。


・・・


駅の近くまで歩くと

見知らぬ男にスマホと特徴的な花柄のハンカチを渡されて、

「このハンカチ…麗奈の…」

「聞かないと後悔することになる…」

不意に言われた。


スマホに耳を傾けると…


「久しぶりだな、お坊ちゃん!

 平山だ!覚えているか?」


「なっ!?」


「お前らのせいで俺の人生は滅茶苦茶だ!

 どうせ生きていてもこの先、碌な事はない…

 ならば俺は俺のやりたい事をやって死んでやる!

 お前等を滅茶苦茶にしてやる!」


「うううっ!!!ううううっ」

それは麗奈の声だった…


「聞こえたか?

 麗奈は預かった!

 スマホを渡した男の車に乗り、すぐに来い!

 来なければ、麗奈をあの時以上の目に合わせてやる!」


そこで通話は切られた…


「おい…ついて来い!

 そこの女…お前もだ!

 それからすぐにスマホの電源を切ろ!!」


(………助けに行く?

 …でも麗奈は俺を裏切ったんだぞ?

 そう思ってしまう自分もいる…

 それに行けば先輩まで危険な目に…

 俺は…どうすれば…)


「くっ…卑劣な奴らだ…行こう…進藤!」


「………」


「…進藤?」


「…麗奈は俺を裏切りました…俺は…」


 








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