第13話 雪奈の想い、真実… その1

大恩ある優しいあの人が急に亡くなってしまった…

まだ何も恩を返していないのに…

更に、葬儀関連の手続きの際、

私でさえ知らなかった衝撃的な事実も発覚し、私は混乱していた。


これから…どうしよう…


悲しみと混乱の中…台所で泣いていると、ふと恭介君の姿が目に入った…


彼は幼い頃に最愛の母をそして今…父すらも…

まだ中学生…孤独で辛いだろうに…

拳を握りギュっと感情を押し殺しているように見えた…


こんなんじゃいけない…恭介君に似合っているのは笑顔だ…

あんな顔をさせちゃいけない!!

恭介君を守るために私は家族になったんだから!!


私は悲しみと混乱を断ち切り

会社の混乱を収めようと葬儀が終わって直ぐに会社に出社した。


しかし…現実は想像以上に厳しく、危ない状況だった。


私は元社長に代わり新社長として業務を再開したが…

誰も私を社長として認めてくれない。

それどころか私を執行業務から外そうという動きも見えるくらいだ…


ある程度は覚悟していた…

私の生い立ちは普通ではないし…

USの大学を飛び級し、主席で卒業した期待の新人だったとはいえ…

入社後すぐにあの人の家族になったのだから…

言わば新人がいきなり社長秘書となり、そのまま親族だから社長になるという

創業者会社ならでは世襲人事で、重鎮からは許しがたい出世コースだからだ…


「あんな若い女なんかにこの大企業である進藤グループの社長が務まるものか!」

「役員で結託して、社長には隠居頂こう!」

「一人息子の跡取りも邪魔だな…何か不幸でも起きてくれないか…」


私の予想を遥かに上回る危険な状態だった…

私は進藤グループの権力を舐めていた…

ただ会社を追い出されるだけではない。

進藤グループは強大な権力を持っており、その力に目が眩み

リスク覚悟で恭介君を消しにくるという命の危険すらあった…

恭介君自身も…恭介君の輝かしい未来も…

全てが奪われてしまう…


私が社長でいる間はまだ安全…でも時間がない…

どうすれば良いの?


そんな事を考えていると…


エレベータの待ち合わせで遭遇した後藤専務が話かけてきた。


「進藤新社長…貴方は確かに優秀ですがまだまだお若い…

 進藤グループを引っ張って行くには色々な経験値が足りません。

 重役の誰かに席を譲るという選択肢もあるのではなないですか?」


「私にも考えがあります。もう少し整理する時間を頂けませんか?」


「それは失礼…老婆心ながら心配になりまして…

 部下ではありますが、同時に人生の先輩でもあります。

 私で良ければ色々と相談に乗りますよ」


後藤専務はいやらしい目を私の豊満なHカップの胸に向けていた。


…何かを守るためには何かを捨てなければならない…

時間もない…

幸い私は大学のビューティ・ページェント、日本で言うミスコンで

優勝するほど容姿は良いし、

プロポーションもかなり良い方だ…

少々危険は伴うが…女の武器を利用しよう。


一番大事な恭介君と恭介君の未来を守るために…

大恩あるあの人のために…


ある日の夜

私は社長室に後藤専務を呼びつけた。


「こんな時間に何のようですか?社長」


そう言いつつも後藤専務は何かを期待しているかのようないやらしい目を

私の身体に向けてきた。


「…ここ10日ほど社長として色々と業務整理をしてきたんですが…

 正直芳しくないのです…どうしたら良いのか…悩んでます。

 この間相談に乗りますよって言って下さったのでお言葉に甘えて

 相談させて欲しいと思いまして…」


「そうですか。私を信用してくれて嬉しいですよ!

 そうですね…社長には信頼できる味方が少なすぎます。

 まずは兎にも角にも信頼できる味方を増やす必要があると思いますよ。」


「味方ですか…確かに…

 でもどうやったら私に味方が増えますかね…」


「こう見えても私は会社の役員で重鎮です。

 私から信頼を勝ち取れは自動的にかなりの人数の信頼できる味方が増えますよ?」


「では…後藤専務の信頼を勝ち取るためには…どうしたら良いですか?」


「ふふっ…言わないと分かりませんか?」


そう言うと…後藤専務は私の豊満な胸を後ろから乱暴に揉んできた。

「や、やめて…下さい…」

更に後藤専務はいやらしく攻めてきた。

いやらしい音が社長室に響き渡る。


その時社長室の外から何か音がしたが…私は気にしないことにした。


「あっ…はぁはぁはぁ…や、やめてください…」

「ずっとこうしたかったんですよ~

 若い身体はたまらんなぁ…」

「もう一度…言います…やめて…ください…セクハラですよ?」


「ん?これは何だ?火傷の後??シミ??大分薄くなっているが…

 いけませんな…大事な身体なんだからケアはしっかりしないと…」

「その傷に…触れないで!!」

「なっ!!…良いんですか?私の機嫌を損ねても…」


私は外の気配がない事を確認してから反撃に転じた。

「……ええ!もう十分証拠は揃いましたから…」

「は?」


プロジェクターに社長室に仕掛けていたカメラで撮影された

セクハラの証拠の動画が流れた。

「なっ!?謀ったな!!」

「セクハラする人間が何を言うのです!

 この動画を社内や貴方の家族にばら撒かれたくなければ

 明日から私の言うことに従いなさい!!

 ちなみに既にこの映像は専用サーバーに上がっていて

 定期的に私がアクセスしないと自動的にインターネット上に

 この動画が流れる仕組みになっています。

 変な事は考えないことね!」

「くっ…」

「分かりましたね?後藤専務!!」

「分かり…ました…」


後藤専務が出て行った後、私は会社の女性専用のシャワー室で

胸についた汚い涎を洗い流した。

「ううっ…うっ…」

自然に涙が出てきた。


汚い…臭い…気持ち悪い…

でもあと十数回こういうハニートラップを仕掛ける必要がある…

私はいつも大事にして持ち歩いている手紙を握りしめながら…

恭介君…私に力を頂戴…と呟いた…


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